再会編5話 奇跡の少女
御門グループに執刀する大手術の準備を行いながら地球と連絡を取り、髪の入手をする算段をつける。
アイリと私が双方の神宿りの洞窟に赴き、儀式の間で念じながら台座に髪の毛を置いてみよう、という事になった。
特殊な儀式が必要であるなら、地球からモノを送るのは難しいだろう。龍ヶ島に流されてからの天継姫の情報はほとんど残っていないのだ。
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聖鏡を持った私は、バートとともに龍ヶ島へと向かい、儀式の間で待機する。
鏡に埋め込まれた宝玉が輝き、娘の言葉が心に聞こえてくる。
(お父さん、準備は出来た?)
(ああ。アイリ、台座に髪を載せてみてくれ。)
(わかった!髪の毛とスマホを入れた木箱をのっけてみるね!)
「こ、これは!」
「コウメイ!ホログラムのように台座に木箱が映ってますよ!」
バートの言う通り、台座の上には木箱が映って見えている。
(アイリ、念じてみてくれ。木箱をこの世界へ送るイメージを強く念じてみるんだ!)
(……木箱ちゃん、木箱ちゃん、お父さんの元へ行って……アイリのお父さんの元へ……)
私も念じよう。
(……天継姫、どうか力をお貸しください。……
祈り始めてからどのぐらいの時間が経過したのだろう。時間の感覚があやふやで、よく分からない……
「……コ、コウメイ……木箱が……木箱が実体化しました!」
目を開いた私の前に台座に載った木箱があった。木箱からは影が伸びている!実体があるのだ!
(アイリ、そっちの台座の木箱はどうなった?)
(なくなってるよ!木箱ちゃんはそっちに行けたんだね!)
私は震える手で木箱を手に取り、開けてみた。
光平、風美代、カナタ、アイリと書かれた小さなビニール袋に入った髪の毛とスマートフォン!
やった!家族の遺伝子情報を入手出来たぞ!
神台に光る文字はやや薄まったがまだ輝いている。思ったより念真力の蓄えは多かったのか?
(……お父さん……アイリは疲れちゃったから、お休みするね……)
(アイリ!大丈夫なのか!)
(……うん。木箱ちゃんを送る前に神台ちゃんに元気を分けてあげたから、それで疲れちゃったんだと思う。)
神台に念真力を注入だと!? アイリはそんな事が出来るのか!
それが本当ならアイリは奇跡の少女だ。いや、アイリが私にウソをつくはずがない。中東で死ぬ間際のヘンリーさんの思念を受け取り、雌の勾玉から念真力を感じ取った。そして朽ちゆく神台には念真力を注入……娘は奇跡の少女だったのだ!
(おやすみ、アイリ。必ずこの星へアイリとママを呼ぶからな。)
(……うん。……おやすみなさい、お父さん……)
愛する娘よ、本当によくやってくれた。
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「ちょっとした装置を作る必要がありそうだな。」
帰りのクルーザーの中で、呟きながらメモ帳に走り書きをしている私に、バートが珈琲を持ってきてくれた。
「ありがとう、相棒。」
「私が飲むついでですよ。コウメイ、ちょっとした装置とはなんですか?」
「台座に載せればホログラムのように姿が映る、というなら利用出来そうだろう? 例えばこのメモ帳とか、な?」
「なるほど!モノを送れずとも、手紙のやりとりは出来るかもしれませんね。」
「向こうの龍ヶ島は雨宮が買い取ったみたいだから、仕掛けを施すのは簡単。こっちの龍ヶ島は誰も寄りつかない無人島だ。好きに使って構わんだろう。……そうだな、台座を24時間監視するセンサーを仕掛けておいて、台座に手紙が映ったら画像を転送する仕掛けがいいかな。」
「画像を見たコウメイが手紙の返事を書き、私が龍ヶ島へ届ける。文通とは古風ですがいいかもしれません。」
「アイリが載せなければダメ、とかいうならおじゃんだがね。それより問題はこっちだな。」
ノートパソコンを開いて男の画像と経歴を確認する。邪魔者は消せ、は短絡過ぎる思考法だが、この男だけは消さねばならない。
「アンチェロッティファミリーもとんだ
「ロマーノ・ロッシ。通称、「
「不意打ち闇討ち騙し討ちのスペシャリスト。ですがまともに戦っても滅法強い。彼のチーム5人で一個大隊を潰した事がある。控え目に言って化け物ですね。……軍の英雄がなんだってマフィアの用心棒なんかになったのやら。」
「軍の英雄よりマフィアの用心棒の方が、楽で儲かる事に気付いたんだろうな。なにせ非常時以外は遊んでればいいんだ。」
「アンチェロッティファミリー急成長の立役者であるこの男をなんとかしなければ、復讐もままなりません。」
「バート、1対1ならこの男に勝てそうか?」
「さっぱり自信がありません。軍隊時代に一個大隊を潰した際は、ロッシ一人で半分以上も殺したらしいですからね。相手もそれなりに名の通った連中だったのにですよ? チンピラ相手の武勇伝とは訳が違います。」
アンチェロッティファミリーが抗争に強いのは軍隊上がりのロッシが司令塔を務めているお陰だろう。そして手練れの暗殺者でもあるロッシは、ファミリーに邪魔な人間を排除してきた。政治家から司法関係者まで、手当たり次第にだ。凄腕だけに一切証拠を残していないが、裏社会の首領達の間では彼の仕業という認識で一致している。
物証はなくても状況証拠はある。ドン・アンチェロッティがロッシを最高の賓客として遇し、最高幹部の地位を与えている事だ。ロッシがファミリーの軍事顧問である事はまず間違いない。
「逆に言えば、ロッシが死ねばアンチェロッティファミリーとの抗争に踏み切る組織も出てくる。全面抗争を躊躇ってきた理由がなくなるのだからな。アンチェロッティファミリーの強引な拡大路線に苦虫を噛み潰してきた連中はかなりいる。重しさえ取れれば煽り方次第で、じきに戦争に誘導可能だ。」
「問題はどうやって殺すか、ですね。」
「カナタに頼んでアスラの部隊長の手を借りる以外にあるまい。ロッシがいくら強かろうとアスラの隊長級に勝てるとは思えない。」
「それだとカナタさんは"オレが殺る"と言いだしかねませんよ? カナタさんは照京動乱の一件でコウメイに恩を感じていますし、無関係の人間を巻き込む事を嫌う性分です。」
「……だろうな。取りあえず最強中隊長決定トーナメントの結果を見てから考えよう。」
「例のトーナメントですか。カナタさんが優勝したら話を持ちかけるつもりなんですね?」
「アスラの中隊長は強者揃いだ。その中隊長達で争うトーナメントに優勝したならカナタは実質、部隊長級の力を持っているという事。ならばロッシを倒せるはずだろう?」
鉄拳バクスウを退け、最強中隊長決定トーナメントでも優勝したとなればフロックではなく実力だ。偶然は二度、続かない。……私達の事情にカナタを巻き込むのは忸怩たる思いがあるが、私とバートの二人がかりでもロッシの相手は分が悪い。しかもロッシは軍隊時代の部下4人と常に行動を共にしている。1,1中隊を率いるカナタでなければ、相手にならない。
カナタと仲間達ならロッシ・チームに勝てる。だがそこに至るまでの段取りは私の仕事で、その下準備は完璧でなくてはならない。息子ではなく、異名兵士「剣狼」に仕事を依頼する立場としての義務だ。
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