再会編3話 悲劇の龍姫に祈る父



同盟首都リグリットに用意したアジトは快適そのものだ。当分の間はここを拠点に御門グループへの関与を行う。


グループの再編作業と並行しながら、地球からもたらされた情報と照らし合わせながらの伝承調査も進める。


イズルハ列島にも龍ヶ島にあたる場所に孤島が存在した。名前も同じ、龍ヶ島だ。


御門グループの相談役となった私は、グループ全てのデータベースにアクセス出来る。


そして御門グループには出版部門もあり、多くの古文書のコピーとその解析もデータとして存在していた。


「800年近く前に帝の娘である天継あまつ姫が龍ヶ島に流罪になったのは間違いないようだ。流罪にされた娘は世を儚んで入水自殺したという伝承も残ってるが、おそらく事実は地球へ転移したのだろう。」


「本家権藤の推測が当たってましたか。どうします?」


「聞くまでもなかろう?」


「ですね。龍ヶ島へ向かいましょう。セクションDから人員を出しますか?」


御門グループに創設された秘密のセクション、それがセクションDだ。そして私はセクションDのリーダーという訳だ。


御門グループが元々持っていた特殊対策部門、セクションA~Cからさらに人員を選抜した少数精鋭のセクションDにはあらゆる部門のスペシャリストが揃っている。忠誠心と秘密保持に長けた彼らには私とバートは顔を見せている。顔も正体も分からない人間に盲目的に従うような甘い人間を選抜する訳にはいかなかったからだ。


もちろん、私はカナタの双子の兄だという事になってはいるが。


爵位を再授与された弟とミコト姫の為に、影働きを行う兄とその相棒という筋書きは、セクションDのメンバー達にも納得出来るストーリーのはずだ。


「いや、この件に関してだけは二人で動く。セクションDの機材は持っていくがね。」


「了解です。すぐに出発しますか。」


「ああ。機材の準備を頼む。私は1stセルに指示を出さねばならん。」


私は3rdセルからの報告を下に1stセルに命令文を送る。本格的な再編の前に、御門グループに巣くう病巣を摘出せねばならん。


巨大組織には必ず病巣が発生し、放置すれば組織全体を損なう。ミコト姫から全権を委託されている身だけに、事がスムーズに進んで助かるよ。


犯罪組織対策に回した2ndセルからの報告も上がってきたな。組織犯罪のエキスパートである2ndセルも有能で頼りになる。フフッ、やはりアンチェロッティファミリーも御門グループにちょっかいをかけてきてるようだ。末端と若干繋がりがある程度だから今は構ってられんが、いずれ相棒の家族を奪った報いを受けさせてやる。


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私とバートは龍ヶ島の洞窟の奥深くに隠された祠で、地球の龍ヶ島にあったのと同じ台座を発見した。


この台座からはわずかだが念真力を感じる。どうやら特殊な念真力が篭められているようだな……


……流罪にされた天継姫の姿絵の胸元には勾玉が描かれていた。


カナタが親父から贈られた天掛神社の御神体は、天継姫のものだったに違いない。流罪にされなければ天継姫は八熾家に嫁ぐ予定だったらしいから、八熾家から贈られたものだと推測出来る。雌雄一対の勾玉を夫妻で提げるのが八熾の伝統らしいからな。八熾家のしきたりでは、結魂けっこんの儀、というらしい。


結魂の勾玉を奪われなかったという事は、おそらく冤罪だな。権藤の推測通り、突出した力を帝が恐れたという事か。帝位を継ぐ嫡子より、天継姫の力がはるかに優っていたがゆえに、お家騒動を恐れた帝が島に流したという事だろう。……不憫な話だ。


雄の勾玉は親父、八熾羚厳と共に焼失したが、雌の勾玉はもっと昔に地球へと渡っていた。地球に転移した天継姫が、この神台を使って地球へ送らせていたのだ。


この神台は天継姫が作ったモノだろう。ミコト姫の話では、カナタは金属に殺戮の力を込める事が出来るらしい。天継姫も似たような付与能力を持っていたのではないか? この神台から感じられる念真力はその残滓、という訳だ。


……狼眼、虎眼、鷹眼ようがん(鏡眼)の三種の邪眼はそれぞれの血統が持っていた固有能力。だが神剣、至玉、聖鏡、御三家の神器を司る家宝は初代帝から下賜されたモノらしい。


初代帝、御門聖龍……龍石も御三家家宝も彼が創り出したモノなのかもしれない。


表層意識を読める龍眼、テレパス通信のベースになった天心通、さらには類い稀な付与能力で、念真力の結晶体である宝玉を創り出す力を持っていた聖龍だからこそ、御三家の惣領達はささえ仕える事にした。あり得る話じゃないか。


龍眼と天心通を継承した帝はいたが、付与能力だけは聖龍一代のモノと思われていた。だが天継姫は神祖と同じ力を持っていた。御門家は嫡子が帝となる伝統、だが末姫の天継姫が神祖と同じ力を持つとなれば、姫の意向と関わりなく、担ごうとする家臣達が必ず現れる。帝は龍ヶ島へ天継姫を流し、お家騒動の芽を摘んだ。


"誰知らぬ、我が心こそ、哀れなれ。ただ泰平の、世こそ願えば"


天継姫の父である帝の残した辞世の句。……泰平の世を守らんが為の悲しい決断だったのだろう。


「コウメイ、どうしたんですか?」


「父である事より、天下人であらねばならなかった帝の胸中を哀れんでいたのさ。この神台に残された力はわずか。一度の使用に耐えうるかどうかすら微妙だな。」


勾玉と違ってこの神台の念真力は使い切りのようだ。時間経過で回復可能なら力が満たされていなくてはおかしい。


「使えるとしても神台の大きさからして、送れるモノには限度がありますね。」


地球から送ってもらうのは髪の毛と有用なデータを詰め込んだスマホかな。充電器は御門グループの技術力なら簡単に作れるだろうし。


「いったんリグリットに戻ってグループの仕事を片付けよう。クローン体製造の準備をせねばならんしな。」


髪の毛の入手が不可能だった場合にも備えておかねばな。風美代とアイリのそっくりさん探しは入手が失敗してからでもよさそうだが。


「そうですね。入念に計画を練りましょう。」


家族と引き裂かれ、時空を越えて地球へ渡った天継姫よ。私の切なる願いを聞いてくれ。




どうか……どうか、私が家族を取り戻す為に、そのお力を貸して欲しい。あなたの末裔である私の願いを叶えてください。


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