激闘編34話 バーバチカグラードの会戦
散発的に交える砲火は徐々に平原全体に広がっていき、本格的な砲撃戦が開始される。
夜明けを待って始まった戦い、日が落ちる頃には雌雄が決しているのだろう。
機構軍兵員約8万、同盟軍の兵員もほぼ互角。この戦役最大の会戦は元帥同士の激突でもある。
本陣手前に配置された薔薇十字は、まだ戦いに参加してはいない。戦況をスクリーンで眺めるだけだ。
前線に投入された最後の兵団は、卓抜した戦いぶりを見せている。老師、リットク、どうか無事でいてください。
「爺さんとリットクは心配ないよ。そう簡単に討ち取られるようなタマじゃない。」
……また心を読まれちゃったよ。ボクってそんなにわかりやすい顔をしてるのかな?
「そうですよね!なんたって機構軍きっての
「……爺さんは持病のギックリ腰を起こせばわからんがね。」
え!? 老師は腰痛の持病があるの!
「だ、大丈夫なんですか!もし戦闘中に腰痛が出たら……」
「姫、「鉄拳」バクスウが腰痛持ちの訳がありません。少佐、姫をあまりからかわないでください。」
ボクの後ろに佇立していたギンが少佐に文句を言うと、髑髏マスクの口元が笑った。
「もう!少佐、そういう冗談はヤメてください!」
「キキッ!(ダメなの!)」
「すまんすまん。姫が硬い顔してるんでね。緊張をほぐそうかと思ったんだよ。」
ホントにぃ? 少佐はボクをからかって楽しんでるだけじゃないのかなぁ?
ジト目でボクが少佐を見つめると、少佐はニヤニヤ笑いながらとんでもない事を言い出した。
「ま、いい機会だ。薔薇十字の指揮は姫が執ってみちゃどうだい?」
「え!? ボクに代わって指揮を執る為にこの船にいるんですよね?」
「ああ。だがこの状況なら手頃な練習になる。なに、簡単な話だよ。アシェスの部隊で敵をブロック、横っ面からクエスターで叩く、やる事はこれだけだ。マズいと思えばアドバイスするから、やってみてごらん。」
よ、よし!やってみる!
散発的にだけど、何度か薔薇十字の前まで到達した敵部隊を、ボクの指揮で撃退出来た。もちろんボクの指揮が優れていた訳じゃない。優れていたのはボクの剣と盾の力だ。
「そうそう。そんな感じでいいんだ。ただし、弱い兵を指揮する時はすり鉢状に敵を引き込んで挟撃する態勢を構築するとか、工夫も必要だ。真っ正面からブロック、側面から叩く、なんてのはアシェスやクエスターだから出来る戦術な? 戦術とは兵の強弱に合わせて組み立てるものだ。」
自身は超人なのに少佐は細かい戦術を駆使する人だ。何度も見てきてそれがわかってきた。
「んで、悪い例がこれだ。」
戦術タブには兵団4番隊の戦いぶりが映されていた。
「ただただ暴れるだけで戦術もクソもない。アスラの4番隊も似たような戦法をとるが、ヤツらには卓抜した個人技がある。だから戦法として成り立っているが、レギオンの4番隊には大した個人技はない。」
「それでも強いんですよね?」
「狂犬を筆頭に幹部だけはな。ま、幹部連中の直属中隊だけはなかなかの練度を持ってるが、大半は見た目だけの雑魚だ。」
その狂犬が前面に出ると様相は一変した。超巨大な戦槌を振り回して敵兵をトマトみたいに叩き潰し、さらに群がる敵を念真衝撃波でまとめて吹き飛ばす。……4番隊の隊員ごと、だ。
「あれが「狂犬」マードック、聞きしに勝る豪勇ですね。味方も巻き込んでますけど……」
「4番隊の隊員はもれなく囚人。使い捨ての駒なのさ。狂犬の攻撃に巻き込まれて死んだ奴も多い。」
狂犬マードックはトーマ少佐と同じく超人タイプの兵士、バトルスタイルはよく似てるけど、思考や性格は正反対みたいだ。
「生半可なテクニックなどパワーだけでねじ伏せる
「俺と違って天性の、いや、本能の戦闘技術を持ち合わせているみたいだがな。ま、俺とは大きな違いがある。」
「はい、少佐と違って思考がない。あるのに放棄しているだけかもしれませんが……」
天賦の才能だけでただただ強い。それもあそこまで強いとなれば、思考を不純物と捉え、あえて放棄しているのかもしれない。
「姫の推察通り、狂犬は考える頭がない訳じゃない。あえて考えないだけだ。」
「外面的には近く、内面的には少佐と違うタイプの超人兵士、ですね。」
闘法は酷似、内面は真逆の超人二人、か。
「……だが俺との違いはそこじゃないんだ。」
え!? 他になにが違うんだろ……ん~、どこだろう?………ダメだ、ギブアップ!
「少佐との違いを教えてください。」
「……フフッ、俺の方がハンサムってトコだよ。」
もう!真面目に考えたのに!
「そう仰るなら是非一度、マスクを外してお顔を見せてください!髑髏マスクで俺の方がハンサムだなんて言われても説得力皆無です!」
戦傷のせいで化け物面してるなんて広言してるクセに!……でも、それは嘘だ。トーマ少佐には顔を隠さなきゃいけない理由があるに違いない。たぶん、少佐の生い立ちに関係している秘密だ。
「ハハハッ。しかしまだ皇帝は自力でなんとかするつもりか。早く右翼師団の指揮権をセツナに預けないと面倒な事になるぞ。ザラゾフは左翼はあえて均衡させているんだ。その分、右翼に精鋭を回してきてる。」
ボクにはまだわからないけど、右翼で優勢なのは最後の兵団だけみたいだ。よく見ておこう。拮抗しているように見える戦況を、少佐は機構軍不利と見ている。
少佐の読みは当たった。最後の兵団以外の部隊は切り崩され、孤立を避けねばならない兵団は下がって右翼のカバーに回る。
「……なるほど。それで正面に薔薇十字を配置したのか。」
「どういう事ですか?」
「……すぐ分かる。」
左右を抑えたザラゾフ師団は正面突破を図ってきた。一気に突き崩されていく前衛部隊。「災害」ザラゾフが自ら陣頭に立った同盟軍の勢いは止まらない。
災害ザラゾフは屈強な護衛兵を引き連れて進撃してくる。護衛兵とは元帥の周囲を囲むように周回する巨岩達だ。
立ちはだかる機構軍兵士はザラゾフ元帥に近付く事さえ出来ずに、巨岩の餌食にされていく。
なんて強さ、あれじゃ誰にも止められない!
「……ったく。ああいうのにこそ狂犬をぶつけるべきなんだがな。」
2m近い巨軀のザラゾフ元帥がフワリと宙に浮き、一気に中衛に飛び込んでくる!
「!!……ザラゾフ元帥って重量級なんですよね!」
「重力操作だけじゃなくサイコキネシスも持ってる。どっちも同盟最強クラスのな。あの程度はやってくるだろう。」
アシェスの部隊が迎撃に出た!ボクは何も言ってないのに!……父上が命令したんだ!
「少佐!」
「俺が出る。」
アシェスの力を信じてるけど、ザラゾフ元帥も普通じゃない。同盟軍が最強のカードを切ってきた以上、こちらも最強のカードを切るべきだ。
パラス・アテナから漆黒のバイク「ナイトメア」で出撃した少佐は、アシェスの元へと疾走してゆく。
父はこうなる事を読んでいて薔薇十字を前衛に配置したのか。二重の保険の一枚目として……
父の思惑は後回し、ザラゾフ元帥を前面のアシェス達に集中させちゃダメだ!
「クエスター!サイドからアシェスの援護を!」
「私もアシェスに合流した方がよくはないですか?」
「ザラゾフ元帥を迎撃する役は少佐にお願いしました。クエスターは戦線全体のコントロールを。」
「ハッ!」
もう一枚、駒が欲しい!そうすれば左右から応戦出来るのに!……老師かリットクがいてくれれば……
ザラゾフ師団の動きが速い!今までの敵とは……違う。このままじゃ……
アシェスと共に配置しておいたスペック社の企業傭兵がみるみるうちに蹴散らされていく。こんな時でも前線に立てない自分の非力が恨めしい。
「企業傭兵部隊は左右に展開!被害を抑えてください!赤銅の騎士団、前へ!真銀の騎士団を援護するのです!」
スペックの企業傭兵団も強いけど、ボクの騎士団には及ばない。薔薇十字の仲間を無駄に死なせる訳にはいかないんだ。ここは真銀と赤銅の騎士団で食い止めるしかない。
企業傭兵の散開支援に亡霊戦団が動いてくれている。少佐の指示だろう。
アシェスがザラゾフ元帥と接敵……大丈夫!アシェスはボクの、帝国の誇る守護神。アシェスが斃される訳がない!
……でも急いで!急いでください、少佐!
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