激闘編7話 決め台詞は丸パクリ



取り急いで戦術プランを練った新生コンマ中隊は、停泊地で実際に訓練を行う。


生兵法は怪我の元、なんて言うが、そんなコトを言っちゃいられないからな。


コンマワン、ツーに白狼衆は精鋭揃い、短時間の演習で、じきに滑らかな戦列を組めるようになった。これならいけそうだ。


戦術プランに沿って動くコンマ中隊の動きを確認するオレに、近付いてくる足音。……マリカさんだな。


「これならいけそうだね。元々白狼衆はシズルの指揮の下、辺境で鍛えられた精鋭達だ。この練度の高さはヒャッハー如きじゃどうにも出来なかっただろう。」


バイケンみたいな例外は極少数だろうからなぁ。リリスが言うには「無法鎌」バイケンは機構軍で問題を起こして脱走した元異名兵士だったらしいけど。そのバイケンにしたって、白狼衆には勝てなかったはずだ。


「ラマナー高原での戦果に期待しててください。」


「その前に先払いを頼みたい。」


「先払い?」


「ホタルが敗残兵の集結場所を突き止めた。何カ所かあって手分けして叩きに行くんだが、そのうちの一つをコンマ中隊に担当してもらいたいのさ。」


「了解です。敗残兵には気の毒だが、実験台になってもらう。」


「すぐに準備にかかれ。データはこれだ。」


手渡された戦術タブを確認し、地形と敵戦力を確認する。


結成直後にすぐ実戦か。アスラ部隊じゃいつものコトだ。なんのコタぁないね。





時が止まったままの時計塔を物見櫓代わりに哨戒にあたっていた見張り役は、先行したナツメが静かに殺した。


疲れた体に鞭を打って撤収準備を進める敗残兵達に、コンマ中隊は奇襲をかける。


夕日が半分隠れたゴーストタウンの一角で、生き死にを賭けた戦いは始まった。


先頭を走るオレは視界に入った敵に狼眼をお見舞いし、まとめて始末した。


左翼から車両を遮蔽に射撃で応戦してくる敵には、分厚い盾を構えたウォッカが壁になり、その頭を跳び越してナツメが空から強襲する。ナツメが切り開いた血路を通ってリック達が突撃し、敵兵達を蹂躙し始めた。


右翼の近接武器軍団には牛頭馬頭兄妹を従えたシズルさんが応戦、白狼衆と共に腕の違いを見せつける。


後衛からはシオンが支援狙撃で部隊を助け、凄腕スナイパーを狙う銃弾はリリスが障壁を張ってブロック。


……コンマ中隊はシステムとして機能している。オレの期待を上回って、完全に、だ。


迫る雑魚を一太刀一殺ひとたちいっさつしていくオレの前に、デキるヤツが立ちはだかった。


「……同盟の剣狼か。ここでの勝敗はもう決したというのに、まだ殺したりないと見える。氷狼の甥だという話は本当のようだな。」


わざわざオレの怒りゲージを上げてくれてありがとよ。


「名乗れ。……おまえの上げる、最後の名乗りだ。」


「機構軍大尉、シミオン・ブラックバーン。渾名は「黒刃」だ。」


名乗りながら「黒刃」のシミオンは黒い長剣を引き抜く。


「同盟軍少尉、天掛カナタ。渾名はご存知の通りだ。いくぞ!!」


「こいっ!!」


身に迫る斬舞は漆黒の長剣が阻み、刃と刃、交錯する視線が火花を散らす。


視線が合ってるなら……こうだ!


「貴様の邪眼の事は知っている!易々と喰らうか!」


ロックされた瞳に力を集中して振りほどくシミオン。


……この力量、コイツがこの敗残兵達の指揮官で間違いなさそうだ。


鍔迫り合いは邪眼の餌食と判断したシミオンは、渾身の力で刃を跳ね上げ、距離を取る。


得物の長さは向こうが上、おそらくリーチの差を活かす戦法に出てくるな。


「こおぉぉぉ!」


息吹と共に地面に落ちていた瓦礫が宙に浮き、ヒュンヒュンとシミオンの体の周りを旋回し始める。


……サイコキネシス使い、しかもかなりの強度だ。オレもサイコキネシス使いだが、コイツほどの強度はない。


石礫の連続投擲!!しかもオレを狙うだけじゃなく、躱したい方に向かって礫が


迫る礫を刃で弾くが、シミオンの狙いはそこだった。礫で刃を使黒剣で仕留める。そういう戦法だったか!


ダッシュしてきたシミオンの刃が肩をかすめ、破けたコートから血が噴き出す。


「お館様!!ええい!邪魔だ、どかぬか!」


過保護なシズルさんが悲鳴を上げ、なんとか雑魚を仕留めて援護に駆けつけようとするが、雑魚達も意地を見せて懸命に食い止める。


シズルさんに援護してもらってるようじゃ、指揮官失格だ。自力で切り抜けるぞ。


畳みかけてくるシミオンの連続攻撃をなんとか凌いで距離を取る。


網膜にアラート!……なるほど、そういう事だったか……


「よく凌いだと褒めてやりたいが……終わったな、剣狼。」


黒い液が滴る長剣を下段に構えたシミオンは、勝ち誇った顔を見せた。


「……ど、毒とは卑怯な……」


片膝を着いたオレに近付きながら、シミオンは解説を始めた。


「新開発の水溶性の劇毒、バジリコック。じきに体が動かなくなる。……残念だったな。」


上段に振りかぶったシミオンの腹に膝を着いたまま、小太刀の抜刀術である、四の太刀、破型・龍鱗りゅうりんをお見舞いした。


「ぐほぁっ!!……バ、バカな!」


下腹からこぼれようとする内臓を片手で押さえながら、シミオンは下がって長剣を構える。


「オレに毒は効かない。……残念なのはおまえの方だったな。」


「と、投降する!パーム協定に従って捕虜として……」


「武器に毒を塗るのはパーム協定違反だ。自分は協定違反しといて、オレには協定を守れ? そんな話が通るか!」


毒を隠す為に黒剣を使うような輩にかける情けはない。それに協定違反を犯した者に、協定は適用されない。自業自得だ。


一気に畳みかけるオレを、シミオンは内臓をこぼしながら応戦したが……すぐに勝負はついた。


「ぎゃひぃぃぃ!!」


心臓まで食い込もうとする刃を手で防ごうとするシミオン。オレは指ごと切断し、トドメを刺す。


「投降しろ!指揮官はもう死んだ!」


オレの言葉に敵兵達は次々と武器を捨て、降伏していった。




投降した兵士達を拘束させ、部隊全員の無事を確認して安堵したオレの耳にバイクのイグニッション音が聞こえた。


音の方向に全速ダッシュして、物陰から走り出そうするバイクの前に立ちはだかる。


「ヒイィィィ!け、剣狼!!」


怯えきった顔の若い兵士。歳はオレとおなじぐらいか……


「投降しろ。協定に従って捕虜として扱う。」


「い、いやだ!俺はどうしても帰らなきゃいけないんだ!!そうしなきゃ返済が……」


借金のカタに兵役に就いた兵士か。投降すれば借金は家族が返済するコトになる……


「……故郷くにに帰るんだな。おまえにも家族がいるだろう。」


言ってから気付いたが、これってソニックブームを放てる米国軍人さんの勝ち台詞だな。懐かしいな、元の世界じゃオレの愛用キャラだった。あまりの強さにゲーセンじゃ嫌われ者だった時代があったってのはホントなのかね?


「……いいのか? 本当に逃がしてくれるのか?」


「行けよ。そしてもう戦場には帰ってくるな。次はないぞ?」


「恩に着る!」


脱兎の如くバイクで駆け出した敵兵の背中を見送るオレに、シズルさんが話しかけてくる。


「お館様、我々の情報を敵に伝えられてしまいます。よろしいのですか?」


「構わん。そんなものはいずれ知られる。だったらオレ達の恐ろしさを喧伝してもらった方がいい。あの怯えきった兵士なら、尾ヒレどころか胸ビレや背ビレまでつけてスポークスマンをやってくれる。だから逃がした。」


「そこまでお考えでしたか。さすがはお館様、その深慮遠謀は当主としても役に立ちまする。」


「継続審議の話はどこ行ったの!もうオレが当主みたいじゃん!当主やるなんて言ってない!言ってないよ!」


せっかく格好つけてたけど、そんなメッキはすぐ剥げる。オレは本来、ツッコミキャラなのだ。


「お諦めなさいませ。これは天運、宿命、運命なのでございます。」


「勝手に私の少尉を祭り上げないでよ!私は許可を出してないからね!」


いいぞ、リリスさん! もっと言ってやって!


「私の少尉? お館様、このチビ助はなにを言っているのです?」


「あのね!時代錯誤の戦国女!まず助ってのは男につけるモンよ!なんとか野郎とおんなじ!それからね、少尉がお館様なら私は奥方様よ!いいコト、わかった?」


「……まさかとは思いますが、お館様は幼女趣味……」


「違う!!違わないかもしんないけど違うから!!」


幼女が好きなんじゃない、リリスが好きなんだって叫びたいけど、この小悪魔に言質を取られれば地獄を見る。


「カナタが好きなのは私なの。だからロリコンじゃない。」


……ナツメさん、話をややこしくしないでくださる? ナツメさんも好きですけど……


シズルさんは掛けたタスキで左右から強調されてるお胸に手を当てて呟く。


「……なるほど。お館様は貧乳好き……」


それも違う。オレはおっぱい好き。巨乳も並乳も貧乳も好きです。


「隊長、バカな事を言ってないで帰投しましょう。さあ!」


シオンに手を引かれるオレの姿を見たシズルさんはまた呟く。


「……お館様は女好き……八熾の繁栄を考えれば悪い事ではないな……」




悪いコトじゃないかもしんないけど、悪い顔してますよ、シズルさん?



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