戦役編17話 キングスマットの会戦



機構軍第8師団とヒンクリー師団の主力部隊は「王の平原キングスマット」の中央で激突した。


いったん下がって戦線を再構築したいメデム少将には不本意極まりない状況だろうが、応戦せざるを得ない。


ここで中央を突破されれば、戦線が瓦解するのは明白だからだ。


だがヒンクリー師団とて楽ではない。現時点では倍ほどの数の差があるのだ。


数の差を補うべく、不屈の猛将は戦術を駆使する。


自軍を包囲すべく横に長く展開した敵軍を集結させないように、左右に布陣してある部隊に牽制と陽動を指示しつつ、主力を押し出してメデム師団にプレッシャーをかけていく。


側面から進撃してくるマリカさん達が防衛ラインを突破し、キングスマットに来援すればオレ達の勝ち。


それを果たせず、メデム師団に後退されて布陣を再編成されれば、戦いの長期化は避けられない。


長期化や引き分けは、オレ達にとっては負けに等しい。


なにがなんでも勝利し、この平原の王にならねばならない。




「陸戦隊、出るぞ!」


軍刀サーベルを抜刀したエマーソン少佐の号令の下、ヒンクリー准将が誇る歴戦の強者達は出撃ハッチから平原へ飛び出して行く。


遅れはとらない。オレもナツメとリックを連れて白兵戦が繰り広げられる戦場へ向かって駆け出した。


ヒンクリー准将は旗艦を最前線まで進軍させている。故に、目の前=最激戦の舞台だ。派手に踊ってやろうじゃないか!


挨拶代わりに密集した敵兵の群れに狼眼をお見舞いする。


1ダースほどの敵兵が目と耳から血を吹き出し、平原に崩れ落ちた。


「同盟の剣狼だ!倒して名を上げろ!」


オレはユパ様かよ。指揮官らしき敵将校が号令を下したが、部下達は動かない。


「どうした!いかに剣狼といえど人間だ!邪眼に注意すれば普通の兵となんら変わらん!」


部下達を叱咤する指揮官目がけてリックが突進しながら叫ぶ!


「だったら自分が手本を見せろや!」


阻止しようとする敵兵をポールアームでまとめて薙ぎ倒し、さらに吠える。


「雑魚が邪魔すんじゃねえ!口だけ将校さんよぉ、そこを動くな!すぐに殺しにいくからよ!」


リックを取り囲もうと散開する敵兵達、だが殺戮天使が立ちはだかる。


左右に展開しようとした敵兵達は、瞬く間に喉笛をかき切られ、死んでゆく。


相手が止まって見える程のスピード差だな。ここまで基礎能力に開きがあると勝負にさえならない。


「あんがとよ、ナツメ!」


「バカなんだから前だけ見てて。左右は私が殺るから。」


「バカは余計だろ!可愛いんだけど可愛くねえな!」


フッ、仲がいいコトだ。しかしナツメは普段も天然だが、戦場では違う意味で天然だな。


真正面の敵に集中させれば無類の強さを見せるリックの特性を本能でわかってる。


オレもリックと肩を並べて戦うか。


「兄貴!こんな雑魚共、俺一人で十分だってばよ!」


「だろうな。距離を見てろよ?」


ん、わかってくれたみたいだな。


リックがポールアームで薙ぎ払い、アームをかい潜って距離を殺しにきた敵兵はオレが斬り伏せ、左右の敵はナツメが始末する。


トリオによるコンビネーションプレーだが、白眉なのはナツメの働きだろう。


羽根でも生えてるみたいに左右を跳び回り、一人で側面の敵を始末してるのだから。


空から舞い降りる死の天使、ナツメの面目躍如だ。


「風の噂で聞いちゃあいたが、実際に見るとスゲえな。そんでついた渾名が「殺戮天使」ってか。」


「バカのクセに風と話が出来るの? 意外な特技ね。」


敵兵の肩に飛び乗り、鎖骨の間に忍者刀を突き込みながらナツメが答える。


「兄貴、ナツメの口の悪さはリリスと勝負出来るんじゃね?」


「さすがにリリスには及ばねえよ。だがアスラのナンバー2は狙える。跳躍力はナンバー2確定なんだが。」


「この跳躍力でナンバー2? 1は誰だよ!」


「姉さんに決まってるでしょ、バカ!」


「バカバカ言うなぁ!バカって言うコが一番バカなんだぞ!」


パイソンさんのママンの支持者がここにもいたか。………ん、いい距離になったな。


オレはリックの後ろに回り、少し距離を取る。


「リック!」


「おうよ!」


助走で勢いをつけて、合図と同時に少し屈んだリックの肩を踏み台に、オレは目一杯前に跳んだ。


跳ぶ瞬間にリックが肩でかち上げて補助してくれたお陰で、一跳びで敵指揮官の手前まで到着。着地しながら二の太刀、鷹爪撃を振り下ろす。


肩甲骨を叩き割り、肺まで届く斬撃を浴びた指揮官は口から激しく吐血する。


「ハロー。オレは同盟軍少尉、天掛カナタだ。アンタの名は?」


「グボッ………オアアァ………」


「答えたくない?……じゃあ永遠に黙秘権を行使してな!」


これ以上苦しまないように、斬舞で首を斬り跳ねる。


指揮官の戦死を目撃した部下達は逃げにかかったが、射撃でバタバタと倒れていく。


「逃げるな!戦線を死守せよとメデム閣下からの厳命である!」


左腕に8連装のガトリングガン……サイボーグか。


「スパルタ式の度が過ぎねえか? ブリキのオモチャさんよ?」


「スパルタ? それはどこの街だ?」


スパルタが街なのはわかったらしい。


「スパルタを知らねえのか、無知だな。ところで質問なんだが、サイボーグってのは真ん中の足もオモチャで出来てるってのはホントかい? ああ、わかったから答えなくていい。デカいガタイに釣り合わねえ粗末な足が惨めでサイボーグになったんだよな?」


「ぶっ殺す!」


怒声と同時に火を噴くガトリングガン。側転して鉛玉の雨を躱し、刀を構え直す。


「剣狼、貴様を殺すのはこの「人間凶器」のスタッグス様よ。俺様の手にかかる事を光栄に思え!」


「人間凶器? 人間狂気の間違いだろ? 味方を射殺するとか頭のネジが緩んでんのか? フランケンシュタイン博士のところへ帰んな。」


「さっきから意味のわからん事をグダグダ抜かしおって!蜂の巣にしてやる!」


右、左とステップを踏んで、ガトリングガンの的を散らしながら接近する。


念真障壁も展開していたが、何発かは防ぎ切れずに被弾した。大したダメージじゃないから問題ない。


ようやく距離を詰めたと思ったら、真後ろに水平移動しやがった。……この機動力は問題だな。


ムーンウォークみたいだが、こいつはマイケル・ジャクソンじゃない。足にジェットローラーを装備してただけだ。


「んん~? 距離を詰めたと思ったかぁ? 残念だったなぁ?」


「自分とこの兵隊にゃ「逃げるな」なんて言っといて、自分は逃走用のギミック搭載とかみっともねえなぁ。」


「バカが、逃走と戦術的後退の区別もつかんのか!おとなしく俺の左腕の餌食になれ!」


「ガトリングガンじゃ無理だ。………オレを殺したけりゃサイコガンでもつけてこい!」


もう一度距離を詰める!今度は<型に念真障壁を展開し、真っ直ぐに走ってやる!


「猪かぁ? 少しは頭を使え、剣狼!」


距離が詰まりそうになると、またローラーダッシュで後退しようとするスタッグス。


だが………すっ転んで倒れた。


「なんだと!」


「アホ、足元をよく見ろ。尖った石が落っこちてんだろが!」


オレがサイコキネシスで置いといたんだがな。


真っ直ぐ突っ込んだのは射撃に夢中にさせて、足元に注意させない為なんだよ!


スタッグスは慌てて立ち上がったが、もうオレが目の前に立っていた。


「………オレの距離だな。」


「………それはどうかな?」


ガトリングガンを除装し、代わりに飛び出してきたブレードの斬撃をしゃがんで躱しながら、四の太刀、咬龍で胴を薙ぐ。


ヘソの下あたりから真っ二つになったスタッグスの上半身が地面に落ちて、立ったままの下半身の切断面からは内臓の代わりにチューブが露出した。


「カナタ、大丈夫!」


雑魚を片付けて駆け寄ってきたナツメの頭をポンと叩いて、無事をアピールしておく。


「平気だよ。兵器だけに。」


「やれやれ、天掛少尉は戦闘中でも寸劇をやめないのだね。」


「エマーソン少佐、見てたんなら助けて下さいよ。」


「准将が若手ナンバー1だと評価する君の戦いを見ておきたくてね。技術や身体能力だけに頼らず、アイデアもあるようだ。確かに有望な兵士だよ、ウチに来ないか?」


「ありがたいお話ですが、ガーデンが気に入ってますので。」


「それは残念だ。……さて、見物料代わりに一つ、アドバイスをしておこう。」


エマーソン少佐はそう言ってスタッグスの死体の上半身に近付き、サーベルを突き立てた!


「グボエェ!!………き、貴様!………」


ウッソだろ!まだ生きてたのかよ!


「サイボーグの中にはね、体を真っ二つにされたぐらいじゃ死なないのがいるんだよ。遮蔽機能とか言ったかな? 確実に殺したければ頭を潰す事だ。」


エマーソン少佐は突き刺したサーベルを引き抜き、頭に狙いを定める。冷酷で乾いた目で。


「………待て!こ、こう……ふ……く……」


「うん、幸福なんだね。わかるよ。最前線で戦い、名誉の戦死。兵士の死に様はそうありたいものだ。」


「違っ……ゲベッ!!」


エマーソン少佐は口の中にサーベルを突き込み、トドメを刺した。


「見苦しい生き様を通してきたんだ。死に様ぐらいは綺麗にせんか、馬鹿者が。」


味方を射殺しなけりゃ少佐も捕虜にしてくれただろうに……ホント、馬鹿なヤツだ。


「天掛少尉、追撃にかかろう。陸戦隊、前へ!」


エマーソン少佐を先頭に陸戦隊が追撃に移行する。




………平原に流れる血は、まだ止まらない。



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