争奪編13話 今、なんて言った?



訓練を終えたオレ達は食堂で反省会を始める。


「カンが良くて個人技に長けた相手の場合、私は近接に回った方がいいのかもしれませんね。」


「となるとリムセがブーメランで支援に回るのです?」


「リムセのブーメランは曲線軌道だから乱戦での支援に向いてるしなぁ。カナタはどう思う?」


「リムセ、小型のブーメランの練習もしてくれないか? 支援目的なら威力や距離より小回りが利く方がいい。」


「了解なのです。長距離支援はシオンに任せるのです!」





反省会を終えたのを見計らって、磯吉さんが料理を持ってきてくれる。


まずは冷製のオードブルか。


燻製の合鴨ロースにスモークサーモンサラダとチーズクラッカー、いいですなぁ。


「カナタさん、前菜はこんなもんでいいかい? 本番にはキャビアと男爵イモのポテトフライも用意するけどよ。」


「十分十分。熱の入ったメニューが出る前にリリスを呼ぶか。」


オレはハンディコムでリリスを食堂に呼び出した。




雪風タクシーに乗ったリリスは、料金の生ハムを渡してトコトコとオレらのいるテーブルにやって来た。


「ウォッカとリムセはわかるとして、そこの大女はいったい誰かしら?」


「小隊の副長を務めるシオンだよ。シオン、これが例の天才ちびっ子だ。」


「シオン・イグナチェフよ。よろしくリリス。」


リリスはシオンをガン無視して、オレの耳を引っ張って怒鳴る。


「准尉!副長は私がやるわよ!こんなどこの馬の骨かわかんない女に任せらんないわ!」


「無茶言うな。おまえは正規の軍人じゃないから無理なの!」


「だったらウォッカでいいじゃない!歳だけは食ってるんだから!」


「勘弁してくれ。俺は部下は持たない主義でな。」


「リリス、隊長の決めた事に従えないの?」


リリスは上から下までやぶにらみの目でシオンを眺めまわし、さらに毒を振りまく。


「フンッ!ちょっとパツキンでデカパイだからって調子に乗んないでよ!そのおっぱいで准尉をたらし込んだわね?」


「頑張ってミルクを飲んで大きくなるのね、お子様さん?」


顔合わせでツノを突き合わせてどうすんだよ。こうなるだろうとは思ってたけどさぁ。


「リムセが解決策を提案するのです。シオンが副長、その代わりリリスが正規の軍人になったら交代すればいいのです。」


同盟の正規の軍人は特例でも15歳からだ。いいその場しのぎの案ですな。


「リムセ案を採用する。二人共それでいいな?」


「ダー。」 「ヤー。」


(シオン、ちょっとの間は毒舌に耐えてくれ。リリスは賢いからシオンの能力を知れば副長って認めるよ。)


(はい、実力で認めさせます。)


「話がまとまった事だし、コンマワン小隊の結成を記念して乾杯しようや。」


ウォッカが景気よくシャンパンを開けてグラスに注ぐ。おっと未成年が二人いるな。


「リムセとリリスはこれな。お子様シャンパン。」


「ブーブーです!」 「カタッ苦しい事言わないでソッチを寄こしなさいよ!」


「未成年の飲酒は認めません。これは隊長命令です!」


「横暴な隊長なのです!」 「自分は性犯罪者のクセして他人には法令順守を強要するなんて最低ね!」


「性犯罪者はよせ。せめて犯罪者、いや犯罪予備軍にしといて。」


「………無罪の主張はしないんですね、隊長。」


………イロイロ心当たりがあるもんで。


「とにかく乾杯しましょ。野郎共……野郎じゃないのもいるわね。」


コンマワン小隊は野郎二人と女三人の編成ですね。


「とにかく、みんなまとめて私が面倒みたげるから、しっかりついてきなさい!プロージット!(乾杯!)」


「乾杯!」 「イランカラプテ!」 「ザ・スダローヴィエ!」×2


楽しい宴の始まりだ~♪




飲み食いしながらバカ話に興じている間に晩メシの時刻になったみたいで、食堂にやってきた顔見知りのゴロツキ達がオレの昇進と小隊長就任を祝ってくれた。


宴に便乗してきたゴロツキ共と一緒に、磯吉さんのスペシャリテを楽しみながら成人組は痛飲する。


「隊長、どうぞ。ピザも取り分けますね。」


シオンに酌をしてもらう酒もいいもんだなぁ。ホントに世話焼きなんだねえ。


「あんがと。おっとっと。」


「もう!准尉にお酌するのは私!さあ准尉、飲みなさい!」


言われなくても飲んでますよ~♪


「お!ナツメじゃねえか!俺らの小隊結成記念の宴だ、飲んでけよ。」


「…………いらない。」


ウォッカの呼びかけに、ナツメは不機嫌極まりない顔で応じる。


「ああそうか。ナツメは未成年だったなぁ。二十歳になったら一緒に飲もうや。」


………考えてみたらウォッカに言われたんだよな。ナツメには関わるなって。


そのウォッカが気軽に声をかけるぐらいには、ナツメも打ち解けてきたってコトか、結構結構。


「隊長、トマトソースが口の周りについてますよ。」


シオンがハンカチを取り出して、口の周りを拭ってくれる。


嬉しいんだけど、みんなが見てるから!子供みたいで恥ずかしいから!


し、しかも体を寄せすぎてませんか!お、おっぱいが肘に当たってますって!


「………父親殺しと一緒に飲んで楽しい?」


ナツメの放った一言が、場の空気を凍りつかせた。





水をうったように静まり返った食堂。


その沈黙を引き裂いたのは、誰かの落とした皿の割れる音、それに……オレの胸の鼓動だ。


「ナツメ……今、なんて言った?」


やめろ、落ち着け。おまえは酒が回ってんだよ!


「聞こえなかった? と一緒に飲んで楽しいって言ったの。」


だから立つな!お茶を濁せよ!取り返しがつかなくなるぞ!


「ナツメ、おまえ何のつもりだ? 無責任な噂がどんだけヒトを傷つけるか、一番わかってんのおまえだよな?」


オレはオレの制止する声に耳を貸さず、ナツメと至近距離で睨み合う。


「なんのコト? ま、とお子様二人の小隊で仲良くやってればいいわ。」


部下殺し、と聞いたウォッカは静かに目を閉じた。


「………いい加減にしろ。いつまで悲劇に酔ってんだ?」


「悲劇に酔ってる? 私が? 今の言葉は許せない!!」


………もうダメだ。オレの怒りゲージは振り切れちまったぞ!!!


「許せないはこっちの台詞だバカ女!! あ~あ~確かにおまえの境遇は悲劇だよ!2時間ドラマに仕立りゃ全世界が泣くね!けどなぁ、辛い思い出があんのはおまえだけじゃねえんだよ!みんな歯を食いしばって生きてんだ!おまえみたいに自分の殻に閉じこもったりせずにな!!」


「アンタに何がわかるって言うのよ!!」


ナツメのパンチが顔面に飛んできたので左手で掴んで握り締める。


「おまえがなんにも言わねえのに、わかるワキャねえだろ!!でもな、これだけはわかる!わかって貰いたいなら、まずわかろうとしなきゃいけねえコトぐらいはな!そんなコトぐらいわかんねえか? わかってねえなら許せもする。けどよ、そうじゃないよな? 自分を偽って気付かないフリしてるおまえは卑怯だよ!弱虫だ!」


「こ、の、言わせておけば!」


空いてる手で平手打ちを食らったが痛くも痒くもねえよ!


「みんながおまえに気を使ってるコトぐらいわかってんよな? 関わりあうのが怖いか、臆病者!!」


「いつ裏切られるかわかんないでしょ!!親切顔してた人間だって状況が変われば悪魔に変わる!」


………ナツメの両親は酸素吸入器を奪おうとした近隣の住人達に撲殺された。


最悪の悲劇。でも、でもな。オレは………


「悪魔じゃない、人間だよ。ソイツらはただ怖かったんだ、死ぬのがな。」


「怖かったら、死にそうだったら何やってもいいの? パパはみんなで吸入器を使おうって言ったのに!!」


「おまえの両親を奪ったヤツらを許せなんて言わねえよ。恨むのは当然だ。」


「じゃあアンタは何が言いたいのよ!!」


「………ナツメに笑って欲しいだけだ。」


「はぁ!?」


「おまえの受けた心の傷は一生癒えるコトはないと思う。心がうずいてどうしようもなく辛くなる時だってあるだろう。………でも、たまには笑って欲しいんだ。消せない傷を抱えて生きていかなきゃいけないにしても、笑っちゃいけないなんてコトはないだろ? オレは……いや、オレだけじゃない。マリカさんも1番隊のみんなも、ナツメの笑顔が見たいんだ。………それだけなんだ………」


ヤバイ、涙が滲んできた。体を乗り換えても涙腺が緩いのだけは変わってないとか下らねえ話だ。




しかし………やっちまったな。せっかくナツメと少し打ち解けてきたってのに、これで台無しだぜ。




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