争奪編12話 コンマワン小隊
昨日おっぱい革新党の幹事長に就任したばっかだってのに、シオンの歓迎会の幹事もやれってか。
シオンが副隊長をやってくれるのは大歓迎なんだから、オレが歓迎会の準備をするのが当然ですね。
マリカさんとナツメの後ろ姿を見送りながら、オレは歓迎会の趣向を考える。
「ナツメの奴、妙に機嫌が悪いな。ひょっとしてアノ日……」
ウォッカの脇腹にシオンの肘鉄が綺麗に食い込み、悶絶させる。
「ナツメは超気分屋なのです。いちいち構ってたらキリがないのです。」
んだんだ。アイツの気分は猫の目みたいにコロコロ変わる。
髪をとかしてる時に枝毛でも見つけて不機嫌なんだろ。
「怖い目で私を睨んでました。ナツメとは面識がない筈なのですが………」
「基本、ナツメの目付きは悪いんだ。だから気にすんな。ちょっとここで待っててくれ。2、3するコトがある。」
オレは明日の歓迎会の料理をオーダーするべく、同志磯吉のいる厨房に向かった。
「昨日は危ないトコでしたね、磯吉さん。」
「まったくだねえ、カナタさん。いやカナタ幹事長って呼ぶべきかい?」
「よしてください。壁に耳あり、障子にメアリーですよ。」
磯吉さんお気に入りの巨乳グラビアアイドルはメアリー・ホワイトっていうらしい。
「オイチャン秘蔵のメアリーコレクションは次の党大会で披露するよ。で、何の用だい?」
「別の幹事を命じられましてね。あそこに座ってるシオンがクリスタルウィドウに入隊するコトになったんで。」
「なるほど、それで歓迎会ってワケかい。いつやるんだ?」
「まだ未定だけど、たぶん凜誠と合同でやるコトになると思う。どうにかなりそう?」
シオンの話じゃコトネは凜誠入りが濃厚らしい。
「お茶の子さいさいよ。任せときな。夕方ここに来ねえ、料理の試作品を作っとくからよ。」
「あんがと。じゃあまた夕方に。」
これでパーティーの料理はオーケーだ。後はコンマワンの実戦訓練の準備だな。
バイパーさんに頼んでみるか。さっそく電話してみよう。
「ボーイじゃないか。どうしたんだ?」
「バイパーさん、実はオレ、小隊を率いるコトになりまして。」
「ほう、それじゃあボーイになにかお祝いをしてやらなきゃなあ。」
「それ、労働でお願い出来ませんか? ヒマなゴロツキを3人連れて、屋外演習場に来てもらえると助かります。」
「4番隊はウロコ姉さんと配下のインテリヤクザ以外は全員ヒマだ。ボーイはえらく腕を上げてるって話だし、どの程度か見てみるのも一興だな。30分後に演習場で会おう。」
よし、バイパーさんがヒトのいい人でなしで助かったぜ。
「演習の相手は「
「4番隊のバイパー・ザ・リッパーですか。噂は聞いた事があります。ナイフの名手だとか。」
排撃拳を装着しながらシオンが答え、リムセは屈伸を始める。
「腕がなるのです!」
煙草を咥えたウォッカがベテランらしくチームを引き締めにかかる。
「シメてかかれよ。人殺し以外は能がないのが4番隊だが、人殺しの技だけはアスラ部隊でも屈指のゴロツキ共だ。………来たぞ。」
バイパーさんを先頭に凶悪なご面相のゴロツキが5人、やって来た。
あれ、5人? ってパイソンさんもいるじゃん!
「
「なんでパイソンさんまで?」
「ただの見物だよ。でも審判はいるだろ、あんちゃん。」
ホッ、そういうコトかよ。
「すいませんね。じゃあ審判をお願いします。」
「ボーイ、さっそく始めよう。シチュエーションは遭遇戦でいいか?」
「はい。距離20mからヨーイドンで。」
「ボーイ、俺らは加減しないからボーイ達もするな。邪眼もアリだ。」
「了解。コンマワン、配置につけ。フォーメーション1でいく。」
オレとウォッカがツートップ、中距離にリムセ、最後衛がシオンのベーシックスタイルでバイパーさん達を迎え撃つコトにする。
「兄ぃもあんちゃんも配置についたな。そんじゃ………
パイソンさんの声と共にバイパーさんはコンバットナイフを2本抜いて両手に構え、無雑作に突進してくる。
「バイパーさんはオレが押さえる!ウォッカは後ろの2人を足止めしろ!」
「任せろ!」
目の前に迫ったバイパーさんがナイフを振りかざし、肉食獣の咆哮を上げる!
「りゃあああぁ!行くぜ、ボーイ!」
「おう!」
しなる腕で速い斬撃を立て続けに繰り出してくる! 切裂魔の異名は伊達じゃねえ!
「どしたぁ? 防戦一方だぞ、ボーイ?………うぉっと!」
チュンという音と共に飛来するライフル弾をバイパーさんはナイフで弾く。
隙あり!だがバイパーさんはオレの繰り出した胴薙ぎをもう一本のナイフで止めて、バク転しながらのハイキックを返してくる!
キックは躱したが、そのまま大きく後方に飛ばれて距離を取られてしまった。仕切り直しか。
距離が空いたので周囲の状況を確認、ウォッカは予定通り2人を押さえ込んでくれてる。
よし、プラン通りに進行中だ。
「こいつはマジで殺らないといけないようだ。ボーイ、覚悟はいいな?」
バイパーさんの軍靴に仕込まれてるレッグナイフがジャキンと飛び出してくる。
「じゃあオレもマジでいきますよ!」
瞳に力を込め、殺戮の視線の照準を定める。
狼眼を目の前にかざしたナイフで遮り、バイパーさんはナイフ付きのキックを繰り出してくる。
ナイフを刀で止めてオレも蹴り返すが、バイパーさんは身をよじって蹴りを回避する。
息をつく間もなく矢継ぎ早に襲ってくる斬撃、オレは脇差しも駆使して受けに回る。
バイパーさんクラスの技量になると、目を合わせずに体の動きだけを見ながら戦えるのか。
狼眼は強力だが、それだけで戦場は渡っていけない。マリカさんが言ってた通りだ。
左右から挟むように襲ってくるナイフを刀と脇差しで受ける!今だ!
ナイフで目を守れないバイパーさんに狼眼をお見舞いする!
(ウォッカ!)
(おう!)
痛みに怯んだバイパーさんに追撃をかけるフェイントをかけてから、ウォッカと体を入れ替えて敵をコンバートした。
「ハロー、人でなし。」
「しゃらくせえ!」 「小細工が好きだな、小僧!」
4番隊の隊員二人に狼眼を喰らわせ、仕留めにかかる。
ウォッカが懸命にバイパーさんを押さえてる間に、オレは1人をなんとか倒す。あと1人!
だが残った1人を仕留めると同時に、ウォッカの脇を縫うように投擲されたナイフが、中衛のリムセに命中した。
「やられたのですー!」
油断鯛焼きだぜ、リムセ。
「ボーイとウォッカは俺が殺る!おまえはパツキンを押さえてろ!」
リムセが倒れ、フリーになったゴロツキがシオンに向かってダッシュする!
シオンはライフルを捨て、排撃拳を構えて迎撃態勢。シオンの本領発揮だ。
「バイパー!こいつ近接もデキるぜ!」
「なんとかしろ!人殺ししか能がねえんだろうが!」
アハハッ、シオンを甘くみてたね?
狙撃手なのに近接もこなせる頼りになる副長、それがシオン・イグナチェフなんだぜ。
オレとウォッカはバイパーさんと引き気味に戦う。無理に勝負にはいかない。
「もっと踏み込んでこないと俺は倒せないぜ、ボーイ。」
「いや、時間稼ぎしてるだけなんで………」
「時間稼ぎ?………!!」
バイパーさんはトゼンさんばりの危機察知能力でライフル弾をナイフで弾く。
「このボケェ!狙撃手相手にタイマン勝負で負けたのか!」
「……面目ねえ。このパツキンちゃん、素手ゴロも強えわ。」
シオンに負けたゴロツキさんは天を仰いでボヤいた。
オレ達3人に包囲されたバイパーさんは不敵に笑い、
「ボーイはいい指揮官だな。だがテメエの強さだけが頼りの人でなしは、ここからが本番……」
「兄ぃ、そこまでな?」
「パイソン、まだ俺が残ってるだろ?」
「あんちゃん、いや、カナタがやりてえのは訓練で、殺し合いじゃねえよ。ヤバイ目付きになってきてんぜ、兄ぃ。」
うん、爬虫類みたいな目になってますよ、バイパーさん。
「成長したボーイに手練れ二人はさすがにしんどいか。………俺らの負けだな。やられたぜ、ボーイ。」
「ありがとうございました。」
訓練を終えたバイパーさんはゴロツキ3人の頭をナイフで叩き、
「ウチのゴロツキ共はまだまだだな。弱いからこうなる。」
「まったくだ。弱いのが悪い。」 「俺らにゃ殺意が足りてねえな。」 「こりゃ久しぶりに特訓しなきゃよぅ。」
連携を磨こうとか考えずに、さらに個人技を磨こうって発想になるのが4番隊らしいよ。
バイパーさん達が演習場を去った後で、オレ達はハイタッチして初勝利を祝った。
「死の4番隊に勝ったのですー!」
「俺らはいいチームだな!」
「イワン、喜んでばかりもいられないわ。隊長、いくつか課題も見えましたね。」
「ああ。それに勝ったワケでもない。」
「どうしてです? バイパーは負けたって言ったですよ?」
ウォッカがリムセに釘を刺した。
「バイパーは倒せてないだろ? アイツが本気で戦ったら3人がかりだろうと、俺とシオンは道連れにされかねねえ。」
ウォッカが刺した釘をシオンが叩く。
「それにリムセ、これが実戦だったら、あなたは戦死してるのよ?」
「うっ!も、もう油断はしないのです!」
「隊長、今から反省会をしましょう。」
シオンは真面目だなぁ。シュリと気が合いそうだ。
「そうだな、食堂で反省会だ。終わったら磯吉さんが歓迎会用の試作料理を作ってくれてるはずだから、リリスも呼んで結成記念パーティーをやろうか。」
「やったのです!結成記念パーティーなのですー♪」
「まず反省会!特にリムセには色々言いたい事があります!」
「ブーブーなのです!」
ブーたれるリムセの背中を叩いて食堂に移動する。
コンマワン小隊はいいチームだよ。これならうまくやってけそうだ。
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