出張編39話 ありがたくない免除の理由
スーペリアの備え付け電話の呼び出し音で目を覚ます。
まだ6:00時じゃねえか。こんな朝早くに誰だよ。
昨日の事件で怪我をしてるからトレーニングは出来ない。
訓練をサボる真っ当な理由があるから、今日はギリギリまで惰眠を貪るつもりだったのに!
「早くでなさいよ。私はもうちょっと寝たいんだから。」
銀髪少女が気怠そうな声でボヤく。
………まず、なんでおまえがオレのベッドで寝てるんだってツッコんでいいか?
喉から出かかった台詞を飲み込んでから、オレは受信ボタンを押してコンピューターで通信を受けた。
相手が誰だか知らないが、惰眠を邪魔された不機嫌マックスの顔を見せてやろうと思ったのだ。
ディスプレイに映ったのは、尻のように割れた顎のイカツイ中年?だった。
「ストリンガー教官!どうしたんです? こんな朝早くに。」
「おまえはしばらく授業に出てこんでいいからな。」
「え!? もう落第ですか?」
「ンな訳あるか。立体テレビを付けてみろ。」
?? オレはコンピューターの画面を2分割してテレビを点けてみた。
見栄えだけ良くて中身はなさそうな女子アナウンサーがニュースを読み上げている。
「――――――昨日ラビアンローズ百貨店で起きたテロ事件は、アスラ部隊と市警察の共同作戦により解決しました。首謀者は環境保護原理主義団体エバーグリーン幹部サイモン・フィンチ受刑囚。犯行グループに機構軍軍人で「強欲」の異名を持つルーサー・オルセン中尉が加わっていた事が判明、機構軍はエバーグリーンと密接な関係にあるようだと軍関係者はコメントしています。」
元軍人に元中尉な? 情報操作してんじゃない。
「以前からエバーグリーンと機構軍は協力関係にあるのではないかと言われていましたが、今回の事件でそれが証明された、と言っていいのではないでしょうか。」
薄い頭髪を豊かにみせかける技術の結晶みたいな髪型の評論家が、知ったような顔で聞いた風な事を言う。
このオッサンは絶対、軍から情報操作を頼まれてんよな。
そして朝っぱらから見たくないツヤツヤの顔に派手なぶち眼鏡をかけた司会っぽい中年が、仰々しく喋り出す。
「この許されざる機構軍軍人に正義の鉄槌を下したのは、あの「剣狼」こと天掛カナタ曹長なのだそうですよ!」
正義の鉄槌じゃねーよ!個人的なワガママだよ!あ、写真まで出すなよ!許可してねえぞ!
「む、もうちょっといい男に映ってる写真を使って欲しいわね。」
リリス、文句を言うのはそこじゃない。オレはげんなりしながらテレビを切った。
「分かったか? ワイドショーの主役に来られちゃ騒がしくてかなわん。騒動が落ち着くまで授業に来なくていい。もう統合作戦本部前にテレビクルーがわんさといるからな。」
「………はぁ、事情は分かりました。おっかしいなぁ、昨晩は普通にメシとか食いに外に出てたのに………」
「報道管制が敷かれてたんだよ。今朝になって解除されたんだろ。昨夜ぐらいはゆっくりさせてやろうって剣狼のボスの思いやりじゃないか?」
思いやりっていうのなら、ずっと報道管制を敷いてて欲しかったですが………
「授業はどうなるんです? 遅れた分は補習とかですか?」
「座学の授業は今話してるディスプレイに転送してやるからホテルで受けろ。」
「実技は?」
「もう合格でいいと軍教官の話し合いで決まった。文句を言う奴もいたが、「強欲」オルセンを一騎打ちで倒した兵士相手になにを教えるつもりだって言ったら大人しくなったよ。」
「オルセンはそれ程のヤツだったんですか。まあ強さだけは一流でしたけど。」
強さ以外の全てを否定してやりたいヤツだった………いや、強さすら否定してやりたかった。
だから司令やクランド中佐じゃなくて、オレが戦ったんだ。
「ああ、俺が戦っても必勝とは言えんよ。7:3、いや8:2と強がりを言っておくか。」
ストリンガー教官は
念真強度さえ高ければ、オレの敵う相手じゃなかったのかもな。
………たられば話に意味はないか。結果が全て、それがオレらの生きる世界だ。
「10:0ですよ。教官に稽古をつけてもらいましたから、オレには分かる。」
「世辞を言ってもなにも出んぞ。実技はもう合格だが、どこかで射撃だけは練習しろよ。剣狼の銃の腕は褒められたモンじゃないからな。」
「了解です。」
ペンデ社にこっそり通って射撃練習をするか。専用銃の試作品のテストをして欲しいって言われてるし。
ストリンガー教官との通信を終えると同時にリリスが背中から抱きついてくる。
「しばらくお部屋で大人しくしてるしかないわね。思う存分、私とイチャイチャ出来るわよ?」
「キャッキャッウフフはしてもいいけど、イチャイチャはまだ早えよ。」
「倫理の壁に拘るわねえ。もう犯罪に片足突っ込んでるんだから、いい加減諦めなさいよ。私の為なら犯罪の一つ二つ、なんでもないでしょ!」
「性犯罪以外ならな!」
「准尉にこんないい女が惚れてくれるなんて奇跡はもう起こらないんだから!」
オレもそう思う。けどなぁ、人間、痛いトコをつかれるとキレちゃうコトもあるんだぞ!
「すごい美女になりそうってのは認める。美貌と知力の引き換えに常識と倫理が欠如してる美女だがな!」
「はん、カマトト女が好みなのかしら? でも残念、そんなの全部演技なの!女に幻想持っててもロクな事になんないわよ?」
「オレの幻想はおまえがあらかたぶっ壊してくれたけどな!」
「あらそう、現実が見れて良かったわね。」
「夢を壊してごめんなさいなさいだろ!まったくもう!」
そこでオレらは顔を見合わせてクスクス笑う。ホント、リリスと一緒にいるのは飽きないよ。
仲良しのオレらはルームサービスを頼んで、仲良く朝飯にするコトにした。
一流ホテルの豪華な朝食に舌鼓を打ちながら、オレはリリスにお願いする。
「実技が免除されるなら座学の勉強を余分に出来るな、手伝ってくれるか?」
「いいわよ。それと冷血女対策もしときましょ。マリカから聞いたけど、小隊長の座をかけて勝負するんだってね。」
ああそうか、そっちもあるんだよな。
「だな。あの女は本職は狙撃手だが、近接戦も相当なモンだ。舐めてかかれる相手じゃない。」
「隣のビルの狙撃地点からワイヤー弾を使ってまで移動してきて、准尉とオルセンの戦いを食い入るように見てたわよ?」
だいぶ手の内を見せちまったか。まあいい、試験までに新たな手を準備するまでだ。
「問題ない、オルセンの戦い方をこの身で学んだ。得たモノのが大きい。」
「あの下衆はとことんまで准尉の養分になってもらえばいいわ。でも狼眼抜きで冷血女に勝てそう?」
「………なんで冷血女との決闘では狼眼を封印するって分かった?」
「昨日も言ったでしょ。私は分かってるって。准尉の性格ならそうするに決まってるもの。」
ホントにリリスはオレの最大の理解者だよなぁ。
「狼眼を封印して戦うって言ったら、あの冷血女はまた理解出来ないとか言って激昂するんだろうな。」
「たぶんね。別にいいじゃない。准尉の言葉を借りれば、あの女と准尉とは間尺が違うのよ。違う物差しを使ってるんだから理解してもらう必要はないわ。それよりあの女はどういうタイプの兵士なの?」
オレはシオンとダニーの対決の様子を話した。
「なるほどね。離れれば氷の槍、近づけば格闘技か。足止めに氷結能力を使ってくるあたりが厄介ね。格闘技と相性がいい。」
「思うに氷結能力があるから得物を使わず、格闘技に磨きをかけたんだと思うね。オマケに特殊兵装の排撃拳がある。距離を選ばず戦えるいい兵士だ。」
「狼眼を封印するなら離れて戦う選択はないわね。それに元々准尉は典型的な近接屋だもの。でも距離を詰めすぎても相手の土俵か。」
「ああ、刀の届く範囲の近接戦に活路を見いだすしかなさそうだ。」
リリスはフォークをビシッとオレに突き付けながら、威勢のいい台詞を口にする。
「だったら剣に磨きをかけましょ。あんな女に負けて欲しくないわ。いえ、目指すは地上最強よ!」
地上最強ねえ。ピンとこねえわ。
でもこの体は完全適合者になる素質がある。強さの果てになにがあるのか、見てみるのも悪くない。
それにオレには夢もある。シュリと誓った「程々に妥協出来る世界を創る」って夢が。
………弱者に優しい世界を創りたいなら、強くあらねばならない。残酷だろうが、それがこの世界の真実だ。
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