出張編36話 裁きの刃は兵の手に
軍用ヘリの中で、フィンチから取り上げたハンディコムを調べていた司令が冷笑する。
「不用心だな。ロックもされてない。」
そりゃ受刑者がハンディコムを持ってるコト事態があり得ないコトですから。
「解析の手間が省けて助かったじゃないですか。コトネ、出番だぜ。」
「了解ですえ。テレパス通信でフォローをよろしゅう。」
コトネは喉を指でイジると、ハンディコムを手にして通信を始める。
「こちらモスグリーン、ウッドペッカー応答せよ。」
「こちらウッドペッカー、ヘリは手に入れたか?」
「ああ、一通り調べたが仕掛けの類はされていない。今からテイクオフする。」
「了解した。人質は何人連れて行く。」
(コトネ、子供を連れて行くように指示してくれ。)
「子供を全員、いや、乳児はいらん。それに市長の愛人も忘れるな。」
………ホントはテロ屋を始末するところを子供には見せたくない。
だけどヘリポートにリリスがいるかどうかは重要だ。ヤツらはリリスが兵士だと気付いてない。
「俺が立てた作戦だぞ。市長の身内を忘れる訳があるまい。ヘリは何人乗りだ。」
「搭載可能人員はパイロットとコパイロットを除いて12人。子供が5人なら全員乗って、まだ余裕があるだろう。連れて行く人質は屋上に上がった時点で、目隠しと猿轡をしておけ。」
コトネは出来るヤツだな。これで子供達は悲鳴を聞くだけで済む。
「了解だ。到着予定時刻は?」
「15分後、ちゃんと出迎えろよ?」
「俺の計画に手抜かりなどない。通信終わり。」
コトネは通話を終えると、ふぅと息をついた。
「いい仕事だ。もう1回頼むぜ?」
「緊張しますわぁ。ぶっつけ本番でなりすますようなモノですさかいに。」
クランド中佐がヘリをオートパイロットに切り替える準備を始めた。
ラビアンローズのヘリポート近くでオートパイロットを起動させ、フィンチの死体を操縦席に固定し、オレは副操縦席に身を隠す。
着陸前に機体に取り付けておいた小型カメラでヤツらの位置を確認、視界に収めて狼眼を発動、殲滅する。
狼眼でヒトを殺すのは初めてだが、泣き言いってる場合じゃない。やるしかないんだ!
ラビアンローズが見える位置の手前で、オレは副操縦席に身を隠した。
司令達は後部の兵員席で待機、シオンも狙撃地点で待機しているハズ。
そして物真似名人の芸が始まる。
「モスグリーンよりウッドペッカー。ヘリが見えたはずだ。」
「ウッドペッカー、確認した。最上階のイベントスペースから屋上に移動する。」
「他の人質は解放したか?」
「イベントスペースまで連れてきている。今から解放する。」
「急げ、もう到着する。」
「了解。」
コトネ、ご苦労様。お膳立ては無駄にしないからな。
(そろそろ時間だ。カナタ、準備はいいか?)
司令からのテレパス通信、いよいよか。
(オーケーです。カウントダウンよろしく。リリス、聞こえてるな?)
(もちのロン。拘束には切り目をいれてある。いつでも動けるわ。)
(リリスはオルセンだけをマークしてくれ。以前話したシグレさん対策のあの手でいこう。他の打ち漏らしはシオンが始末する。)
(了解。イスカ、始めていいわよ。)
(分かった。………しかしカナタは手を変え品を変え、狡い事ばかり考えるな?)
(そんなに褒めないでください。ほっぺが林檎みたいになっちゃう。)
(フフ、この状況で冗談を言えるとは頼もしいぞ。カウントダウン開始!5、4、3,2,1,ゼロ!)
ヒュ~という音と共にヘリの目の前で花火が炸裂する。事前にシオンに頼んでおいたのだ。
脱出用のヘリの目の前で花火が上がれば………当然コッチを見るよな!
オレは隠れていた座席から身を乗り出し、ヘリを見上げたテロ屋共の目をロックした。
最大威力の狼眼を食らえ!
8人全員を狼眼で捉えた!5人は耳から激しく血を吹き出して即死、残るは3人!
残ったモブテロリスト2人は、目を押さえてのけ反ったところをシオンに頭を撃ち抜かれて死亡。
いい腕だ、後はリーダーのオルセンだけだ!
だがオルセンだけは他の雑魚とは違っていた。ヘリから飛び降りた司令の斬撃を辛うじてだがバク転して躱し、向き直るや司令と人質に向かって
(リリス!)
(合点!)
乱射しようとした機関銃の銃身はリリスの単分子鞭で切断されていた。
他に注意を向けさせておいて、そっと地面を伝って単分子鞭を巻き付けておく。
足に巻き付けて転ばせるのが理想だが、体に巻き付ければオルセン程の手練れなら気付く可能性がある。
リリスめ、土壇場でアドリブを効かせたか。いい判断だ!
飛び道具をなくしたオルセンの前に司令が立ちはだかり、クランド中佐とコトネが子供達と愛人さんを後方にかくまう。
そして猫の皮を脱ぎ捨てたリリスが念真障壁を展開し、人質を守る………チェックメイトだ。
オレもオートパイロットで屋上に着陸したヘリから降りて、司令の隣まで走る。
「うまくいきましたね、司令。」
司令は追い詰められたオルセンを牽制しながら、
「よくやったぞ。剣狼の名に恥じぬ兵になってきたな。」
進退窮まったオルセンが投げやりに述懐する。
「………「女帝」イスカが出張ってきていたとはな。ツイてない。」
「年貢の納め時だな、「
「その渾名はよせ。気にいらん名だ。」
カネの為ならなんでもやる。強欲の名が相応しいじゃねえかよ。
「大人しく投降しろ。多分助からんだろうが。」
「………だろうな。市長は俺を生かしておくまいよ。女帝を道連れに名を上げるのが一番マシな死に方か?」
司令はゾッとするような怖い顔で応じる。
「信念も矜持もない貴様如きが私を道連れ? 冗談にすらなってないぞ。」
「司令、オレが殺ります。」
「カナタ、コイツは下衆だが名は通った奴だ。過信は禁物だぞ?」
「コイツに死に様の名誉なんて飾らせたくない。こんなヤツが司令に勝てるワケありませんが、女帝相手に討ち死になら元機構軍兵士としてまあまあな死に方だ。勿体ないです、こんな下衆には。だから………
「………分かった。やってみろ。」
「と、いうワケだ、強欲さん。オレがアンタを地獄に案内してやるよ。」
「女帝や神兵ならともかく、貴様如きが俺を地獄に案内するだと? 返り討ちにしてやる!」
司令が下がったのと同時にオレは宝刀斬舞に手をかけ、オルセンと対峙する。
「この戦いをモーガン・ボーエン………犠牲になった三人の魂に捧ぐ。照覧あれ。」
「ボーエン? 誰だそりゃ?」
「貴様らが最初に射殺した三人の中の一人だ。母子家庭で育ち、先月から働き始めたばかりだった。ラビアンローズにいたのは、初めての給料で母親へのプレゼントを買うためさ。」
そんなヒトを、懸命に生きる人間の命をコイツらは愚弄した。
ボーエン君の記録をヘリポートに行くまでの車内で見てなかったら、オレはこんな戦いはせずに司令に任せていただろう。
「ハッ、貴様だって兵士だろう!貴様が殺してきた敵は悪人ばっかりだったとでも言うつもりか!」
「偽善なのは分かってるさ。だがな、これは間尺の問題でね。」
「間尺?」
「オレの個人的な
言い捨ててからオレはオルセンに挑みかかる。
まず四の太刀、咬龍から一の太刀、平蜘蛛へ繋ぐ。
オルセンは初太刀は山刀で受け、脛への払いは跳んで躱した。
そして山刀を左右の手で持ち変えるフェイントを入れてから薙いでくる。
オレは脇差しを抜いて山刀を受け、同時に脇差しと斬舞で切り払うが飛び退って躱される。
三の太刀、双牙も通じないか。破型の太刀も交えていくべきだな。
オレは基本の太刀に派生技である破型の太刀も交えて戦ったが、決定打が出ない。
夢幻一刀流の技が通じないワケじゃない。単にオレが未熟なダケだ。
零式にアップグレードして身体能力が上がったおかげで、力負けもしないし速さにもついていける。
だがオルセンは最低でも10年選手、技術だけはオレより上だ。
時折、狼眼を混ぜて幻惑しなければ、形勢はオレが不利だったろう。
「どうした小僧? 大口叩いた割に手傷は貴様の方が多いぞ?」
「かすり傷をつけたぐらいで粋がるなよ、オッサン。スポーツやってんじゃねえんだぞ?」
オレが狼眼で睨んでやると、オルセンは目を背けて大きく距離を取る。
気になってんのはそこなんだよ。えらく狼眼を警戒してるよな。
ヘリから一度、狼眼を食らってるから警戒するのは分かる。耐え難い痛みだからな。
けど、いささか過剰な気がする………なんでだ?
………そういや、コイツの念真撃や障壁はえらく効率的だ。最小出力で最大威力の見本みたいな………
手練れの兵士としての技術だろうと考えていたけど………そういうコトか。
今、コイツに小細工を弄する余裕はないだろう。泣き所を見つけたぞ。
勝機は掴んだ。後はやるだけだ。………愚弄してやる、貴様の命をな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます