第六章 出張編 異名兵士「剣狼」、同盟軍首都へ

出張編1話 同盟軍首都、リグリット



同盟軍首都リグリット、オレは人口1500万人と公称する巨大都市メガロポリスをビル屋上のヘリポートから見下ろしていた。


夕日に照らされた大都会を見るのは久しぶりだ、最後に東京の夕焼けを見たのはいつだっただろう?


今、オレが立っているこのビルは周辺にあるビル群よりも頭二つは高い。


こんな巨大ビルをまるまる個人所有しているってんだから司令の財力も大したもんだよ、気前もいいよな、そりゃ。


司令に中佐、オレとリリスとマリカさんにナツメ、同志アクセルとタチアナさんがリグリット行きのメンバーだった。


ラセンさん達、火隠れの里組は別便で業炎の街へ向かった、もちろんシュリとホタルもだ。


あの二人、少しでも昔みたいな関係に戻れるといいんだけどな。


火隠れの里の出身ではないリムセやウォッカ達は、リムセの故郷にある温泉に湯治に行くらしい。


なんだか一番隊クリスタルウィドウの慰安旅行みたいになってんなぁ。激戦の疲れを癒すのに温泉はいいんだろうけど。


「カナタ、キョロキョロしてないでサッサといくぞ。」


マリカさんにそう言われたので慌てて後を追う。


ガラス張りのエレベーターに乗り、アスラ部隊ご一行様は地上へと降りていく。


このビルは御堂財閥のグループ企業の入ってるビルでホテルじゃない、オレやマリカさん達は今からホテルへ移動だ。


リリスもついてきたがったが、司令に抱きかかえられて連行されていった。


司令がリグリットに来たのはグループ企業に損失付け替えの疑惑が発覚したからだそうで、その疑惑を見つけたのはリリスらしい。


当然、監査にリリスの手を借りたいと、豪腕司令はネコ耳を出してニャーニャー暴れるリリスを連行して行く事になった、というワケだ。


………まさに猫の手も借りたいって奴かなぁ。ハイパー猫の手だけど。


改竄された損益計算書から損失付け替えを見つけるって、どこの凄腕会計士だよ。


多分、他の書類と損益計算書の間になにか矛盾点があったんだろう。


金勘定が得意なリリスの目はそれを見逃さなかったってところかな?


暗記や演算はリリスの独壇場にしても、会計士の仕事は専門性が高いってのに軽々こなしちまうか。


も、もう驚かないぞ。だってリリスだし。


地上に降りたオレ達は映画でしか見たことがない、ダックスフンドみたいな長~い黒塗りの高級車でホテルへと向かう。


すげえ本革張りのシートに広い車内、備え付けの冷蔵庫まである完璧なVIP専用車だ。


こんな車に乗れる日が来るなんて思わなかったなぁ。


オレと同乗するのは、同志アクセルとタチアナさんのルシアンコンビとナツメだ。


つまりマリカさん以外の全員、マリカさんはダックスフンドに一人乗りである、まさに女王様。


「リリスが好きそうな車ですねえ同志。今回ばかりは才能が仇になったみたいですけど。」


そのチートじみた多才っぷりには同志アクセルも感心したらしく、半ば呆れ声で、


「そうみたいだな同志。だがよ、リリスって稀代の怪物なんじゃねえか? 会計士でもねえのにグループ企業の損失付け替えなんか見抜くか普通?」


「おっぱいぱい、答えは簡単であります同志。リリスは普通じゃありません、以上オーバー。」


「………おっぱいぱい、確かにな。………だってリリスだしな。」


「ええ、リリスですから。」


もうあの天才ちびっ子のインテリチート能力は全部、だってリリスだし、で片付けるしかねえよ。


まともに考えるだけムダだ、ムダ。


「でも良かったじゃねえか同志、仮に戦争が終わって戦闘能力が無用の長物になっても同志はリリスに食わせてもらえるぞ。将来は安泰だなあ。」


う、今を生き残るのに精一杯で戦争終結後のコトまで考えもしなかったけど………戦争なんて終わってくれなきゃ困るんだよな。


司令に天下を取ってもらって戦争を終わらせ、ほどほどに満足できる生活が出来ればオレはそれでいいんだ。


で、でも………その生活って…………ヒモ生活? 10歳も年下の女の子に養われる?


「ヒモ生活なんてイヤだぁ~!お、男の沽券に関わりますよ!」


同志アクセルは、ナニ言ってんだコイツとばかりに、


「同志、男の沽券だの面目だのつまんねえモン捨てちまえばよ………最高だと思わねえか、ヒモ生活ってよ?」


た、確かに!働かないで食える毎日が日曜日な生活って………プライドさえ捨てれば………最高じゃないか!


「で、ですよね!ヒモ生活も悪くな……」


タチアナさんが栓抜きを片手でクルクル回し始めたので、オレは貝になった。


「………空気は読めるみたいだね。アクセル、若人を悪の道に誘うんじゃない。だいたいアクセルは平和になったらどうするつもりなんだい?」


アクセルさんは少し考えてから、


「そうなってもハンドルは手放せねえなぁ。タクシーの運ちゃんでもやるかねえ。」


………クレイジータクシーが誕生しそうなんですけど………


「同志、オレと一緒に運び屋とかどうですか? 預かったブツは必ず届ける凄腕の運び屋!ハンドルは同志、オレが荒事って役割分担で。」


タチアナさんに殴られてばっかの印象が強い同志だけど、ウォッカが言うには喧嘩も強いらしい。


だったらジェイソン・ステイサムのトランスポーターを地でいけそうだよな。


薄い頭髪で華麗なアクションを見せるステイサムはオレの大好きな俳優さんだ。


ステイサムは「俺に頭髪なんざ似合わねえ。」と言い切った男の中の男でもある。


ジェイソン・ステイサムにブルース・ウィリス、そんでニコラス・ケイジ………オレの好きな俳優さんってみんな薄毛だよ。


女優さんなら断然ミラ・ジョヴォヴィッチなんだけど。


「アウトローもいいねえ。でもヤクは運ばないとか自分ルールは決めないとだな。」


そうそう、アウトローには誰でもなれるが、格好いいアウトローになるには自分ルールが必要だ。


「ヒモの次はアウトローかい? 真っ当な選択をしなよ。アクセルならインディレーサーとかさ。アンタ、人格は変態でもハンドル捌きだけは一流なんだし。」


「変態は余計だ。レーサーねえ………」


ちょっとだけ顔を赤くしたタチアナさんがモジモジしながら小声で、


「レ、レーサーやるってんなら………私がメカニックをやったげても………いいんだけど?」


「うんにゃ、レーサーはやめとく。速さを競う為に走るのがレーサーだ。けど俺は速さを競う為に走ってるんじゃねえ。仲間の為に走ってるんだ。俺はレーサーじゃなくてリガーなのさ、骨の髄までな。」


ああ~、同志!タチアナさんが目一杯の勇気を出してアプローチしてんのにぃ。


でも速さ比べの為じゃなく、仲間の為に走るって信念はタチアナさんを感銘させたらしい。


「………そうだね、アクセルに表彰台は似合わないかも。ま、戦争が終わったらゆっくり考えなよ。」


「……………レーサーだって速さ比べだけしてる訳じゃないと思うけど。」


およ? ナツメが参戦してきたぞ。


「ん? チェッカーフラッグを目指して走るのがレーサーじゃねえか?」


「……………その先にあるのは………支えてくれた仲間チームの栄光もあるのかも………」


………確かにナツメの言う通りだな。自分の為だけに走るレーサーだっているだろうけど、チームの栄光の為に走るレーサーだっているだろう。


「こいつぁ一本取られたね。そりゃそうだ。レースだってレーサーだけでやってる訳じゃねえわな。………そういやなんでナツメがコッチに乗ってるんだ? いつもだったらマリカさんにくっついてるだろ……ンゴッ!」


タチアナさんの肘打ちがアクセルさんの脇腹にめり込む。うん、いつも通り容赦がありませんね。


………あれ? でも何かマズいコト言ったか? 当然の疑問じゃないかな、今のは。


「……………べ、別に………なんとなく…………コッチに乗っただけ………」


なんで上目遣いでオレを見るのさ。オレはなにもしちゃいねえだろ。


………お、宿泊予定のシャングリラホテルってあれじゃないかな!


「同志アクセル、シャングリラホテルが見えてきましたよ!」


「おお!あれがリグリットで最高の格式を誇るシャングリラホテルだよ、同志!」


摩天楼の中にそびえるクラシカルで荘厳なホテル、あそこがリグリット滞在中のオレらの寝床だ。





カリキュラムは明日からだ、今夜はリグリットの夜を満喫しちゃうぞぉ~!




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