懊悩編41話 ドキッ!美人だらけの麻雀大会!



日付も変わった真夜中に、オレのハンディコムの呼び出し音が鳴る。


一体誰だよ、こんな時間に。


リリスも目を覚ましちまったみたいで、目をこすりながら布団に頭から潜り込んでボヤく。


「もう~誰よ、こんな時間にぃ。私の惰眠を妨害するのは国家反逆罪レベルの重罪なのよ。」


ちょっとリリス帝国の法律は過酷すぎませんか? 国民としては寛容な君主でいて欲しいのですが。


寝直しを決め込んでネコみたいに布団で丸まったリリスを見て、右に倣えをしたくなったがハンディコムを手に取って出てみる。


「アロー、こちら葬儀屋ですが……」


「都合が良ければ来い、悪くても来い。場所は緑一荘だ。」


こんな時間に麻雀のお誘いですか………さては面子割れしたな。


都合が良ければ来い、悪くても来いってホームズみたいなコト言うなぁ。


「マリカさん、オレは一応営倉入りの身なんですよ。それに明日、もう今日か。オレはリグリット行きも控えてるんですが?」


「リグリット行きはアタイもだ。営倉入りは一週間、日付が変わったから自由の身だろ? シグレが抜けるこのラス半が終わるまでにこなきゃ、リグリット行きが地獄行きになると思え。」


やれやれ、脱衣ルールの麻雀なら飛んででもいくんだけど。


オレが行かなきゃシグレさんが抜けられないかもだし、行くしかねえな。


「行きますよ、行きゃいいんでしょ。シグレさんを解放して上げて下さい。」


さて、毛布にくるまったリリスの説得をしなきゃな。麻雀とはいえ、やるとなれば勝ちにいくぜ。




月の明かりが照らす夜道、オレとリリスは特別営倉から娯楽区画の雀荘に向かう。


惰眠を妨害されたリリスはオレの背中におぶさったまま、アクビを噛み殺し、不機嫌顔でボヤく。


「………も~、こんな時間まで子供を連れ回すなんて児童虐待よ。しかも行き先が雀荘とか、准尉には大人としての良識ってモノがないのかしら?」


「都合のいい時だけ子供になるのはやめれ。マリカさん達が健全麻雀をしてるワキャない、100パー賭け麻雀だ。レートもそれなりに高いだろうし、負けたかないんだよ。」


「それでなんで私まで引っ張り出すのよ。私は麻雀のルールは知ってるけど、卓を囲んだ事なんかないわよ?」


その歳で卓を囲んだ経験があったら怖いわ。


「駆け引きはオレがやるよ。だけどリリスの演算能力を借りたいんだ。牌効率は知ってるか?」


「………な~るほど。ええ、どっちのが受けが広いかは一瞬で計算出来るわ。」


麻雀は将棋やチェスと違って最善手が運悪く裏目に出る事もあるし、効率ばっかり重視してるとそこに付け込まれもする。


だがやはり効率は重要で、牌効率の計算がヘボの強い打ち手なんかいない。


「オレが駆け引き、リリスが計算、これなら勝負になるかもしれないからな。やるからには勝ちたいんだ。」


「その考えには同意するけど、私に見返りってある?」


「勝った金はリリスが総取り、負けた金はオレが支払うってのはどうだ?」


「あらあら、今日び珍しいノーリスクでリターンのある話じゃない。そういう魅惑的な条件ならやるわ。」


リリスはオレの背中からピョンと飛び降りると、ピシャリと頬を叩く。目覚ましアプリを起動させたか。


「よし、リリスはテレパス通信で、主に残り枚数の多い選択肢を教えてくれ。」


「オッケー、どっちの選択が手役の高さに繋がるかもナビしてあげるわ。」


頼りにしてまっせ、リリスさん。




娯楽区画の雑居ビルっぽい建物の二階に雀荘「緑一荘」はある。


安普請のドアを開けると紫煙うずまく賭場の空気を肌で感じる、これが鉄火場の熱気ってヤツかな。


もう深夜だってのに結構客がいて、歓声があがったり、怒鳴り声がしたりとにぎやかだ。


ホント、ガーデンってゴロツキの巣窟だよなあ。


受付ではバーコード頭のオジサンがデジペーパーを読んでいて、オレ達の姿を見るとデジペーパーで奥のドアを指してくれた。


一枚モノの樫の木のドアをノックしてから開けて室内に入る。


そこは赤を基調にデザインされたゴージャスな造りになっていた。


場末の雀荘の中に高級麻雀サロンがあるって感じだ。多分、マリカ様専用部屋ってコトだろうな。


卓を囲んでいるのはマリカさんにシグレさん、アビー姉さんと……ヒビキ先生か。


部隊長の三人はいいとして、ヒビキ先生、医務室をほったらかして麻雀に興じてていいんですか?


オレの姿に気付いたシグレさんが安堵の表情を浮かべる。


「カナタ、来てくれたか。局の朝は早いから日付が変わる前に仕舞いにしたかったのだが、マリカが離してくれなくてな。」


シグレさんも苦労してますね。持つべきモノは良き友人、でも最良の友も時には悪友になりますか。


「シグレが勝ち逃げしようとするからだ。」


悪友と化したマリカさんがシグレさんを非難する。


「勝ってなどいない、たぶんトントンだ。南場が終われば私は帰るぞ。いいな?」


「ちぇ、シグレにやられっぱなしで終わりかよ。」


バンダナを頭に巻いたアビー姉さんがボヤく。


「シグレだけにじゃなくてよ? アビーが一人負けの状態なんだから。」


ショットグラスを片手にヒビキ先生がツッコミを入れた。


ヒビキ先生はいつもの白衣じゃなくて黒のナイトドレス姿だ。


ウィスキーを飲む姿がサマになってるなぁ。医者というより高級キャバ嬢っぽいぞ。


「ヒビキ先生も飲むんですね、ちょっと意外でした。」


「カナタ君、私だって人間よ。お酒ぐらい飲むわ。それにアルコールに弱いようじゃ医者は務まらないでしょ?」


「消毒に使いますもんね………って違う!いや、そうは違わないか。」


「ええ、医療用のアルコールが出来るまでは、焼酎で消毒してた時代があったんだから。なんだか焼酎が飲みたくなってきたわね。………カナタ君、そこのキャビネットに舞妓はんって焼酎が入ってるから取って頂戴。」


「アタシにはテキーラを取ってくれ。銘柄はなんでもいい。」


「アタイはワインセラーにあるワインだ。ムーランルージュ2085ってラベルのだよ。」


「はいはい、卓が割れるまでボーイをやらせて頂きます。」


酒を飲みながら麻雀をつ、ねえ。ゴロツキライフを満喫してますなぁ。


「皆よく飲むものだ。だがヒビキはドクターなのだからほどほどにな。医者が二日酔いなど馬鹿げてるぞ。」


シグレさんの正論はここでは全く無力なようだ。三人は麻雀を打ちながら飲む飲む。


リリスがテレパス通信で囁いてくる。


(せっかくだからケンに回りましょ。打ち筋のクセを見ておきたいわ。)


(だな、麻雀には結構人間性が出るモンらしいから。)


オレとリリスはマリカさん達の麻雀を見学する事にした。


南四局でラス親はアビー姉さんってところまで見学すると、それぞれの打ち筋の傾向が分かってくる。


(シグレさんとは打たないワケだけど、実にシグレさんらしい麻雀だ。メンタンピンが基軸の基本に忠実な打ち筋だよ。守備を重視してて、普通ならリーチにいくような手でもいかないってのが特徴かな。)


(そうね、リーチにいかないのは危険牌の読みに自信があるからよ。ロン牌を掴んでも、しっかり抱えて振り込まなかった。)


(ああ、大勝ちはしないけど、崩れもしない、小勝ちを重ねるド安定タイプ。トータルすればプラスになる技の雀士だ。)


(アビーは単純ね、典型的なイケイケ麻雀よ。とにかく全局アガリにくる。)


(一人負けってのはしゃあないよな。アガるよりも振り込まないってのが強い雀士だし。)


(でもこういう攻撃一辺倒の麻雀って、たま~にくる大波に乗ったりすると怖いのよねえ。)


(ほとんど負けるが勝つ時はバカ勝ちするのがこのタイプだ。まあ、勢いだけなんだけど。)


(ヒビキは理論派よ。牌効率を最優先、見え見えの待ちでも受けの広さがあれば勝負してくるんじゃないかしら?)


(ああ、振り込みは期待してないっぽい、ツモリ麻雀ってヤツかな。)


(厄介なのはマリカね。王道かと思えば奇襲もしてくる。)


(変幻自在の打ち筋だ。配牌時に必ずドラを持ってくるあたり、運も強いな。)


(おもしろいわね、麻雀って確かに人間性が出てるわ。)


卓を囲むのはオレも初めてなんだけど、なかなか面白そうだ。




オレとリリスのコンビでどこまでやれるか、楽しんでみよう。




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