懊悩編2話 居酒屋デビューもしてみたい
司令のバースデーパーティーで、オレはアスラ部隊5番隊隊長である「豪拳イッカク」こと阿含一角大尉にさっそく色モノ認定されてしまったようだ。
ま、しゃあないか、実際色モノだしな。
他の会場も覗いてみたいし、そろそろお暇するかね。
「それじゃアビー姉さん、イッカクさん、オレは他の場所も覗いてみたいんで、そろそろお暇しますね。」
「ああ、その前におチビを部屋に連れていってやんなよ。」
はいぃ?………寝てる、あっかい顔して気分良さげに寝てやがる。
こ、こいつぅ。酒飲みやがったな!…………しかもこれテキーラじゃねえか!半分も残ってねえぞ!
「いきなりテキーラ飲むとか、なかなかチャレンジャーなおチビだねえ。」
イッカクさんが冷や酒をあおりながら、
「アビー、気が付いてたなら止めろ。未成年の飲酒は感心せん。」
「イッカク、人間ってのは自分がやれてねえことを他人様にやらせるってのが一番みっともねえことだって思わないかい? アタシは未成年の時から酒を飲んでた。そんなアタシがおチビに説教とか出来る訳ないだろ?」
「む、それは確かにそうだな。」
納得しないでイッカクさん、アビー姉さんの言ってるコトは正論ですけど、正論だって時と場合によりけりですって!
「リリス、起きろ!呑む蔵クンはインストしてないのか?」
「んん、准尉がどうしてもって言うならインサートしてもいいのよ?」
インサートじゃねえよ!インストだよ!
「リ~リ~ス~!呑む蔵クンをインストしてるならすぐ起動させろ。してくれ!」
「うぅん♡もう准尉のモノはそそり立つように起動してるみたいね。私がオトコにしてアゲル♡」
ヤバイ寝言を口走るんじゃねえ!わざと言ってねえかおまえ!
ほらぁ、案の定、アビー姉さんとイッカクさんのオレを見る目が氷河期に突入してんじゃねーか!
おまえは寝ててもオレに迷惑かけんのかよ、天才か!………天才でしたね。いろんな意味で。
「…………カナタ、ロリコン野郎ってのはマジ話なのかい?」
「…………どうも人としての倫理を拳で叩き込む必要があるようだな。」
指コキしはじめる重量級兵士のお二人。
ここは………逃げるしかねえ!
オレはリリスを素早く背負うと、100mを7秒フラットにまで成長した自慢の脚を披露するコトにした。
あのお二人が重量級であったコトがオレに幸いした。
なんとか逃げ切って自室に戻り、リリスをオレのベットに寝かせる。
…………はぁ、もう、ホントコイツってトラブルのタネだよなぁ。
リリスさん、せっかく美少女に生まれついてんだから、ヨダレはヤメなさいヨダレは。
いい夢見てるみたいだけど色々台無しでしょ、それじゃ。
オレはタオルでリリスのヨダレを拭ってやりながらため息をつく。
気持ちよさげにロクでもない夢を見てるみたいだし、このまま寝かせとくか。
ベットも占領されちまってるコトだし、オレは夜遊び続行といくかな。
オレは娯楽区画に行ってみることにした。
娯楽区画には色んな誘惑がオレを待っていた。
雀荘、ここにはマリカさんがいそうだ。オレと脱衣麻雀とかしてくんないかな。
ダメか。麻雀のルールは知ってるけど、マリカさんは麻雀が滅茶強いっぽい感じがする。
脱衣麻雀に応じてもらっても勝てないんじゃ意味がない、オレが脱ぐだけになっちまうよな。
ビリヤード場か、オレ、ビリヤードはやったことねえんだよな。カッコイイからやってみたいんだけど。
そういえば2番隊副長のアブミさんはビリヤードが上手いらしい。
今度教えてもらおう、ビリヤードデビューはその時だ。
ボーリング場ね、ここは今日だけはパスだな。クランド中佐のドヤ顔なんか見たくもねえよ。
カラオケボックスだとぅ、司令じゃあるまいし一人でシャウトなんか出来っかよ!
そもそもこっちの世界の歌なんかロクに知らね~よ!
ゲームセンターもあるけど………大学時代に日参してたし、今もよく行く。なにも今夜いくこともないよな。
ついこないだまでボッチだったって現実が、オレの肩に重くのしかかってきていた。
遊び方を知らない坊や、それがオレだった。
憂さ晴らしに酒でも飲むか!最近、酒の楽しさは分かってきた。
よおし!今日はオレの居酒屋デビューの日にするぞ!
小洒落たバーとかにも行ってみたいけど、まずは居酒屋でレベルを上げよう。
何事も順序が大事だ。オレは飲み屋街に歩を向けた。
たどり着いたのは娯楽区画の奥にある飲み屋通り。
うん、いい感じで飲み屋が並んでるね。一人じゃなければ夢だった、居酒屋で連れと一緒にキャッキャ飲みが出来るのになぁ。
しまった、シュリを誘ってくれば良かったんだ。それに同志アクセルやウォッカもいれば、居酒屋トークも楽しかったに違いないのに。
う、通りは賑わってるけどボッチはオレだけじゃねえか。
肩を組んで軍歌を歌いながら連れだって歩くゴロツキ達、女子会をやってるっぽい女性士官のグループはキャッキャウフフしながらオイスターバーに入っていくし、向こうの街灯の下ではブロンド美女と抱き合う金髪先生………ってトッドさん、マジでモテるんですね!
「カナタさんじゃねえでやすかい? どしたんです、こんなところで。」
ボッチなオレに声をかけてきたのはサンピンさんだった。
暗がりで見ると人相の悪さが一層際立つ、日本にいた頃のオレなら顔を見た瞬間に脱兎の如く逃げ出してたコト請け合いだ。
「居酒屋デビューしようかと思ってやってきたんですが、場違い感がパなくて逡巡してました。」
「そうですかい、アッシはこれからバーで一杯引っかけようかと思ってやしたんですが、カナタさんも来やすかい?」
「是非是非、居酒屋デビューじゃなくてバーデビュー出来るんなら、なおいいです。そこのオイスターバーにでも入ります? 入ったことないんですけど、牡蠣料理がいっぱいあるんでしょ?」
「さいでやすねえ、オイスターバーも悪かないんでやすが、アッシは違うバーで副長達を待たせてるんでやすよ。」
「それじゃオレはお邪魔じゃないんですか?」
「アッシらがそんなこまけえ事を気にするようなタチに見えやすかい、こっちでさぁ。」
オレはサンピンさんに連れられて、飲み屋通りの場末にあるバー「スネークアイズ」に入った。
スネークアイズはダーツバーってやつらしい。
結構な数のゴロツキさん達がダーツに興じていた。
角のテーブルにウロコさんとマフィア、もとい、そのスジの人っぽい白人黒人の4番隊隊員が3人で座って飲んでいた。
「なんだい、サンピン。カナタも連れてきたのかい。」
「カナタさんがバーデビューしたいらしいんでね。連れてきやした。」
「お邪魔なようなら退散しますけど……」
「アタシらは構わないさ、ま、座んな座んな。何を飲む?」
「そ、そうですね、じゃあこのソルティドッグってのを飲んでみようかな。」
「マスター、ソルティドッグをこの坊やに!」
ウロコさんの夜の装いは男モノのヘビ柄シャツにショートパンツ、似合ってますわ。
自分をよく分かってらっしゃいますね。シュッと伸びた脚が魅惑的です。
「カナタ、こっちの2人はバイパーとパイソンだ。兄弟なんだよ、これでも。」
はぁ? バイパーさんは白人っぽいけどパイソンさんは黒人っぽいよな。
「合点がいかねえかい。パイソン、説明してやんなよ。」
「俺っちと兄ぃはよ、異父兄弟なんだよ。共通のママンが白人と黒人のハーフでな。白人の父親との間に生まれたのが兄ぃでよ、その後離婚して黒人の親父との間に生まれたのが俺っちよ。」
「めっちゃ複雑っぽいですね。」
「ぽいだけだな。ボーイ、俺とパイソンはよくいる普通の兄弟さ。」
「兄弟喧嘩で殺し合いまでいくのは普通とは言わないでやすよ。」
「サンピン、昔の話は野暮ってもんじゃないか。今は仲良し兄弟、それでいいだろ?」
「そうだぜ、今の俺っち達はトゼンの兄貴の為に一緒に派手に死ぬって誓ってんだからよ。」
「それを旦那が喜ぶとは思えやせんがね、多分気にもとめねえでやすよ、あん人は。」
「サンピン、愛が分かってねえな。愛ってのは見返りを求めるもんじゃねえのさ。」
「さすが俺っちの兄ぃだ、いいコト言うぜぇ。」
ウロコさんが苦笑しながら、
「見るからにバカっぽいだろ? 実際にバカなんだけどさ。けど腕は立つのさ、こんなんでもな。」
「姉さん、バカはヒデえッスよ。実際俺っちも兄ぃもバカッスけど。」
「違えねえな、ギャハハハハハ!」
「こんなのが4番隊の4、5中隊の隊長なんでやすよ。いかに4番隊がイカレの集まりか、カナタさんもお分かりでやしょ?」
ウロコさんの第2中隊以外は個人技だけに頼る4番隊らしい話だよ。
ここは羅候の中隊長の飲み会の席でしたか。
「ソルティドッグお待たせしました。」
場末のバーには似つかわしくない小綺麗なウェイターが、テーブルの上にグラスを置いてくれた。
オレがグラスを上げて飲もうとするとパイソンさんが教えてくれた。
「あんちゃんあんちゃん、ソルティドッグは塩を舐めてから飲むもんだぜ。な、兄ぃ。」
「塩? あ、このグラスの縁に載っかってる塩ってそういう意味だったんですか。」
「そういう飲み方するヤツもいるって話だ。あんまし気にせんでもいい。酒なんて楽しく飲めりゃあそれでいいのよボーイ。」
「兄ぃはいいコト言うぜえ、確かに楽しけりゃあなんだっていいよな。」
バーデビューのオレとしてはまずは言われた通りに塩を舐めてみよう。
うん、ショッパイね。でもこの塩は………
「へえ、カナタは味は分かるみたいだね。ここの塩は産地は忘れちまったけど、このご時世じゃ珍しい天然モノの岩塩を使ってるらしいよ。」
そう言ってウロコさんは細くて長い舌でペロリとオレのグラスの塩を舐める。
「ん、飲まないのかい?」
「えっと、ウロコさんが舐めたのはここだから、間接ちゅ~にならないようにグラスを回してと………」
どっと笑う4番隊の中隊長カルテット。
「兄ぃ、純情ちゃんがいる。純情ちゃんがいるよぅ!ギャハハハハハ。」
「パ、パイソン、に、兄ちゃんは間接ちゅ~なんて言葉を10数年ぶりに聞いたよ!ヒャハハハハハ。」
「カナタ、アンタは10歳児とちゅ~しちまった人でなしだろ? 今更アタシとの間接ちゅ~がなんだってのさ。クックック、こりゃおかしいったらないねえ。」
「ななな、なんでそのコトを!サ、サンピンさん、床で転げ回るほど笑うコトないでしょう!」
隻眼から涙を流すほど笑いまくっていたサンピンさんは、床から立ち上がって席に座り直し、
「いやいや、すいやせん。あんまりアッシの思惑通りにいきやしたもんで、そいつも合わせてツボっちまいやして………」
思惑通り? あ、サンピンさんは………
「サンピンさん!最初っからオレを酒のツマミにするつもりだったんですね!」
「カナタさんならナチュラルに、そこいらの宴会芸なんざ足元にも及ばない芸を見せてくれるんじゃねえかと期待はしてやしたよ。」
「………ヒデえ、あんまりだ。」
「お詫びはしてあげやすよ。」
「ここの飲み代を奢ってくれるとか?」
「よござんす。それとね、聞いた話じゃカナタさんはサイコキネシスを持ってるんですってね。」
「ええ、リリスに比べたら誤差みたいなサイコキネシスですけど。」
「ソイツの生かし方を教えてさしあげやしょうか?」
「え、じゃあサンピンさんも………」
「ええ、大っぴらにゃしてやせんが、アッシも念動力使いでやしてね。どうでやす?」
「お願いします!1番隊には念動力使いがいなくて困ってたんです!」
「じゃあ決まりでやすね、教えるとなりゃあアッシは厳しいでやすよ。よござんすかい?」
「望むところです!」
「ヘイボーイ、お仕事の話はそこまでにして楽しもうぜ、夜は長えんだ。」
「俺っちと兄ぃをもっと笑わせてくんなよ、あんちゃん。」
バイパーパイソン兄弟は心底楽しそうに、イヤらしい笑いを浮かべた。
「さてどういじってやろうかねえ。サンピンはいいオモチャを持ってきてくれたもんだよ。」
蛇みたいに舌をチロチロさせながらウロコさんは妖艶に微笑む。
「こいつぁカナタさんに悪いことしやしたねえ。蛇3匹に絡みつかれやしたか。こりゃ朝までコースってヤツになりそうでやすな。」
なんでオレはサイコっぽい人と波長が合っちゃうんだよ!帰して~!おうちに帰して~!
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