昇進編13話 チートへの道 初級編
目の前で浮遊していた塩の容器をキャッチしたオレは、容器を握ったままリリスに問いかける。
「おい、今なんつった?」
「私はなにもしてないって言ったのよ。」
「おまえがやんなきゃ誰がやるってんだよ。」
「軍曹以外にいないと思うけど。」
「え? ちょっと待て。どういうコトなんだそれは。」
「論より証拠。軍曹、3メートル先にコショウと醤油と七味と山椒があるわね。試してみたら? もちろん私にどれを動かすかは言わないでね。」
よ、よし。試してみよう。
動かすのは醤油だ。
オレは醤油を小ビンを動かすべく念をこらす。
………動いた、醤油の小ビンは浮遊してオレの目の前までやってきたのだ。
「これでわかったでしょ。私がイタズラしてたとしても醤油の小ビンを動かすことを当てる確率は25%よ。まだ疑うなら何度でも試していいけど、時間の無駄だと思うわ。」
「だ、だよな。というコトはオレは………」
「希少念真能力のサイコキネシスの使い手だったってコトね。」
このオレが、希少念真能力の使い手ねえ。ピンとこねえな。
いつの間にか集まってきてたゴロツキ達に囃し立てられる。
「おい、このロリコン野郎。希少念真能力を持ってやがったか。」
「やるじゃねえか。サイコキネシスは便利だぞ。」
「ああ、達人となると飛んでくる弾丸も止められるって話だぜ。」
リリスがドヤって感じで薄べったい胸を張る。
「私と愛の一時を過ごしたお陰でサイコキネシスが
ざわめくゴロツキ達。
「意味がわかんない? ようするに私と寝たって………」
オレはリリスを小脇に抱えてダッシュで食堂を脱出した。
何度目だよ、このパターン!
艦橋ちかくの通路にある休憩スペースまで逃げてきた。
ここで一息つこう。とりあえず炭酸飲料を買って、と。
シュワ~っと一気飲みだ。ふう、ちょっと落ち着いたぞ。
さて、シュリに倣ってお小言タイム突入だ。
「あ・の・な! おまえ何考えてんだ? オレは現在ロリコン疑惑の真っ只中にいるんだぞ!」
「私が研究所から帰ってきた夜に一緒に寝たのは事実でしょ。嘘は言ってないわ。それに巷の噂では疑惑の段階は過ぎてもう確定してるっぽいけど?」
「その噂、おまえが流してんじゃねーか!だいたい一緒に寝たなんて言ったら、ただ一緒に寝てただけなんて誰も思わねーんだよ!分かってて言ってんだろーけどな!」
「軍曹の心を我が手にする為には悪魔にだってなるわよ。」
「おまえは元から十分悪魔だってーの!」
「良かったわね。私の処女は軍曹のモノよ。感動で失禁しちゃダメよ?」
「それは謹んでご遠慮させて頂きたい。」
「10年後なら?」
「前向きに善処させて頂きたい。」
「正直ね。」
だってリリスは10年後はすんげえ美人さんになりそうだもん。
10年後ならおっぱいもさぞかし立派になってるだろうし。
って、今考えてるべきはサイコキネシスのコトだよな。
いや、オレのロリコン疑惑も重要案件なんだけどな。
「どうしたもんかな、この能力?」
「有用に活用すべきでしょ。おっぱいだって赤ちゃんに栄養を与える以外にも色々用途があるじゃない。それとおんなじ。」
「………おんなじ………なのか。ちょっと違うような? いや、激しく違うような。」
「なんにせよマリカの耳には入れといた方がいいんじゃない?」
「それは確かにそうだ。今から艦橋に行って報告してくる。」
「いってらっしゃい。私はネイルケアがあるから部屋に戻るわね。」
10歳でネイルケアとか覚えてんのか。
ホントにマセてやがる。いや、珍しくはないのかもしれないが。
なんせリリスの他に10歳女子に知り合いなんかいねえからな、わかんねえ。
口笛を吹きながら部屋に戻るリリスを見送ってから、オレは艦橋に向かった。
「サイコキネシスね、そんなモンを持ってたってのかい。リリスに負けず劣らずカナタもなかなか盛ったキャラしてんねえ。兵士として有望で希少能力保有までは褒めてやれるが、ネチネチ病でおっぱいフェチで女好きでお節介焼きで涙脆くてリアクションが面白いってのはどうなんだろうねえ。最近はロリコンに目覚めたって話もあったっけね。」
艦橋の指揮シートに行儀の悪い姿勢で座っていたマリカさんに
「ロリコンに関しては断固否定します。サイコキネシスに関しては、今し方食堂で離れたトコに置いてあった塩の容器を取ろうとして判明したんですが。」
「とりあえずSNC作戦の間はサイコキネシスのコトは忘れろ。」
「忘れろ、ですか?」
「不知火にいる間に訓練するのはいいが、実戦ではないモノと考えるんだ。生兵法はケガの元だよ。」
「なるほど。」
「しかしサイコキネシスか。1番隊はパイロキネシスの使い手なら結構いるんだが、サイコキネシスの使い手はリリスだけってのが難儀だね。しかもリリスのサイコキネシスは訓練によって強化し、使いこなしてるって訳じゃないからねえ。ただただ元から強力だったっていうだけで。」
「なんせ念真強度600万nのモンスターですもんね、リリスは。」
「カナタのサイコキネシスがどの程度のモンかは分からんがきっと役に立つ。アギトでさえサイコキネシスは持ってなかった。」
「へえ、そうなんですか。」
「ヤツは別なのを持ってたがな。なんにせよ高い念真能力に浸透率、狡っ辛いオツムに希少能力のサイコキネシスか。カナタ、おまえは順当に成長すればアスラ部隊の隊長になれる器なのかもしれないね。」
アギトは別なのを持っていた? どんな希少能力なんだろう。
どうでもいいか。もう死んだ人間だし、ホタルほどじゃないが、オレもアギトって男は嫌いだ。
「オレは自分がそこまでの器だと思いませんし、仮にそうだったとしても隊長なんてなりたくないです。マリカさんのいる1番隊にいたいですよ。」
「カワイイ事言うじゃないか。ま、先の事より今を考えろ。とにかくこの作戦ではサイコキネシスはないモノと考えるんだ、いいな。」
「了解。」
「格納庫にでも行って、どの程度のモノを動かせるかは把握しておけ。まずそっからだ。」
「じゃ、早速行ってきます。」
報告を終えたオレは格納庫に向かうコトにした。
格納庫についたオレは整備班の邪魔にならないように、隅っこでサイコキネシスの能力把握の訓練を始める。
スパナやレンチはイケル、と。
バイクは無理か、じゃあちっちゃめの工具箱はどうだ。これはイケルか。
大きい工具箱は、………無理かぁ。
う~ん、多分10キロ前後までなら動かせるってとこか。
「いよう、同志サイキッカー。早速訓練か。」
「おや同志アクセルじゃないですか。」
「希少能力サイコキネシスか、なあ同志、俺達は同志だよな?」
「今更何を言ってるんです? 同志に決まってるじゃないですか。」
「うんうん。この作戦が終わったら一緒に休暇を取ってロックタウンに行こうぜ。」
「ロックタウン?」
「ガーデンから一番近い街だ。周りが岩だらけの辺鄙な街だが、女の子のレベルは高い。」
「一緒にナンパでもしようって言うんですか? おっぱい黄金比を持つ女の子を探して歩くとか。」
「同志はおっぱい黄金比否定派じゃなかったか?」
「それに関してはオレの間違いを認めます。おっぱい黄金比とラピュタは存在しました。」
証拠の乳神様の画像がある以上、認めざるをえない。
この画像はまさに至宝、オレがラピュタを発見しても、乳神様を見た時ほどの感動はないと断言出来る。
「ラピュタとやらが何のコトだか分からんが、おっぱい黄金比の存在を認めるとは成長したな同志。」
「思春期の女子のおっぱいのようにオレも成長してるんですよ。話を戻しますが本気でロックタウンにナンパに行くんですか?」
「違げーよ。そのサイコキネシスを有効活用しようって話だよ。見た感じ10キロぐらいの重さまでなら動かせるんだろ?」
「そうみたいです。」
「同志カナタ、女の子のスカートは10キロもないんだぜ?」
そういう使い方もありますよね、いいコト聞いちゃったな。
「確かに。だけどサイコキネシスじゃないですよ。あくまで突風、突風が吹いたんです。オレと同志は偶然その場に居合わせただけですよね?」
「ああ、突風が吹くコトなんて珍しかないよな。たまたまオレと同志の周辺でそんな偶然が何度か起こっても、なんら不思議じゃないさ。」
「2度あることは3度あるっていいますもんね。偶然って怖いなあ。」
そこで目玉から火花が出た。同志アクセルも頭を抱えてうずくまっている。
右手にレンチ、左手にスパナを握りしめたタチアナさんにお仕置きされたのだ。
「このスケベ野郎ども!偶然は2度続かないって言葉もあるんだよ!」
「めっさ痛いです。タチアナさん。」
「希少能力を性犯罪に使おうなんて輩は少々痛い目をみたほうがいいのよ。」
「………タチアナ………生理不順で機嫌が悪いのは分かるが、俺らに当たるのは………」
うずくまっているアクセルさんにタチアナ旋風脚が決まり、同志アクセルは倒れ伏した。
「カナタ、言っとくけどホントにサイコキネシスをスケベ目的に使ったりしたら………」
「わかってます!わかってますって!同志とオレの軽いジョークですよ。小粋なジョークです。」
「どこらが粋な訳? いい加減にしとかないと棺桶のネームプレートを「性犯罪者 カナタ」に変えるわよ。」
それはロリコン野郎よりもイヤだ。ロリコンも性犯罪だけど。
「タチアナさん、あのネームプレート溶接しちゃったでしょ。あんまりにも酷いですよ。」
「あの毒舌淫猥小娘ともども少しは反省なさい。まったく、カナタの希少能力が念動力でまだ良かったわ。透視能力だったら大変な事態になるトコだったわね。」
「え!透視能力もあるんですか!それ滅茶苦茶欲しい!」
あ!しまった、つい本音が!
タチアナさんは首をゴキゴキ鳴らしながら、
「………そんな能力はないわ。本音が出たわね。覚悟はいい?」
タチアナさんのスパナを握ったままのタチアナアッパーカットがオレに炸裂する。
ぐ、ぐはぁ。………こ、この威力、この切れ。
隻眼のムエタイの帝王ばりのアッパーカットだぜ。
ノックアウトされたオレは同志アクセルの隣に倒れながら思った。
タチアナさんは整備クルーじゃなくて兵隊になったほうがいい、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます