昇進編3話 ボッチ撃破完了!新たな敵、リア充発見!



オレに初めて友達が出来た。


お節介の鬼で融通の利かない生真面目眼鏡のシュリだ。


問題児と優等生委員長は案外気が合うって事なのかね。


今なら言える。


もうオレはボッチじゃない。


シュリに研ぎ方のレクチャーを受けた後、オレはウェポンショップに向かう事にした。




ウェポンショップ「剣銃小町」はゴロツキ共で賑わっていた。


真剣な表情でナイフを目利きしているヤツ、銃のライフリングを確認するヤツ。


命がけの戦いの、命を預ける道具だ、この時ばかりは不真面目なゴロツキ共も真剣そのものだ。


オレは店主のおマチさんに声をかける。


「え~と、刀が欲しいんだけど………」


「あら、新入りのカナタちゃんじゃない。昇進したってね。おめでとうさん。」


「オレを知ってるんですか?」


「そりゃあ氷狼の甥っ子で、念真強度100万nのルーキーの事を知らない訳ないじゃないのさ。」


後で分かった事だけど、おマチさんはアスラ部隊全員の顔と名前、念真強度や浸透率、得意とする戦闘スタイルまでそらんじているスーパー店主だった。


「正規採用刀のダンビラーⅡは、オレの念真強度に合ってないってシュリに言われてね。高精製マグナムスチール製の刀に持ち替えたいんだ。」


おマチさんは恰幅の良い体の、恰幅のいい腕で腕組みしながら頷いた。


「うんうん、それがいいわねえ。シュリちゃんは本当に世話好きのいい男だね。オバチャン感心したよ。」


「それでシュリはおマチさんに見立ててもらえば間違いないって言うんでここに来たんです。」


「カナタちゃん、オバチャンはね、武器のプロなのよ。でも武器のプロでしかないのよね。言っている意味、分かるかい?」


「はい、おマチさんは武器のプロであって兵士じゃない。アドバイスは出来るけど、結果は兵士が自分で取るしかない。そういう話ですよね?」


「そうそう、カナタちゃんはルーキーなのに、この世界を良く分かってるみたいだねえ。オバチャン感心したよ。」


オバチャン感心したよってのは、おマチさんの口癖だな。


「じゃあオバチャンからのアドバイスね、カナタちゃんは念真強度が高いだけじゃなく、中軽量級なのにパワーもある。肉厚のある刀がいいと思うわよ。特にカナタちゃんはまだ新兵で経験が浅い。技術を力で補う段階の兵士は折れにくい刀が一番さね。」


「そうだね。オレはキッドナップ作戦でも、結局は力技で乗り切ったようなもんだしな。」


「カナタちゃん、力技だって技のウチなんだよ。スポーツじゃあるまいし華麗に勝利する必要なんかないのさね。カナタちゃんは力技って選択が出来る分、有利なんだよ。」


「力技も技のウチ、か。今のオレには力技しかないんだけどな。それを踏まえておマチさんのお勧めは?」


おマチさんは背面のショーケースから刀を一本取り出してカウンターの上に置く。


「これだね。オニキリーアサルトモデル、高精製マグナムスチール製で肉厚のある刀だよ。ダンビラーより反り幅がやや大きいから、そこは慣れる必要があるけどね。」


ダンビラーの次はオニキリーっすか。全部こんなネーミングかよ、コピーライター雇えよ。


誰も疑問を感じないんだろうか? 上層部って心だけじゃなく脳味噌も腐ってんのか。


「分かった。それっていくらなの?」


「通常価格110万クレジット、アスラ部隊割引で20%オフの88万クレジットだね。」


「アスラ部隊割引!? そんなのあるんだ!」


「司令はアタシら本職の商人顔負けのタフネゴシエーターだからねえ。軍人じゃなくて、商人になっても超一流になれる大した才覚さね。オバチャン感心したよ。」


司令ならさもありなん。


「88万クレジットのところを、カナタちゃんの昇進祝いで、さらに8万クレジット引いちゃおう。それから今月は刀剣類のサービスキャンペーンをやってるから、脇差タイプのミニオニキリーもついてくるよ。ツイてるね、カナタちゃん。」


「は、はぁ、ラッキーですね。」


オレはカードで支払いを済ませ、オバチャンと雑談する。


「そういやマリカさんの紅一文字とかは凄い名刀なんでしょうね?」


「そりゃそうさね、今世紀最大の天才刀鍛冶、五代目鉄斎がわざわざマリカさんのために打ったモンだからね。ショップに出回るようなモンじゃないし、そもそも値がつけられないような代物さ。」


専用機みたいなもんか。うらやましい。特に格好いい名前が。


「シュリちゃんも凄い刀持ってんだよ。マリカさんが紅一文字の前に使ってた名刀、紅蓮正宗ってのをね。」


「紅一文字を手に入れたからシュリにあげたんですね。」


「その時のシュリちゃん、一時間ばかり直立不動で感動してたらしいね。」


「シュリらしい話だ。でも紅一文字に持ち替えたってことは、おんなじ名刀でも紅蓮正宗は紅一文字には劣る訳か。」


「そうでもないんだよ。刀としての格は変わらないのさ。紅一文字が鋭なら紅蓮正宗は剛、マリカさんは自分に合うのは紅一文字だと判断したんだろうね。」


「自分との相性、か。」


「刀と兵士は夫婦みたいなもんだよ、カナタちゃん。相性の合うのと一緒になるのが長続きの秘訣さね。」


「おマチさん、オレは独身なんでその例えはよく分かりません。」


「あ~ら、そうだったわねえ。」


「………ついでに彼女もいないです。」


「あららら、ドンマイだねえ。」


テンションだだ下がりのオレはオニキリーを手にウェポンショップを後にした。


ボッチは脱出出来たけど、彼女が出来た訳じゃない。


リア充への道のりってなんて険しいのだろう。




オレはオニキリーを持ってトレーニングルームで素振りをする。


早く慣れないとな。刀は体の一部だ。


1時間ばかり素振りをやっていたらマリカさんがやってきた。


「刀を変えたか、いい判断だ。」


「はい、まず主兵装の強化から始めようと思って。オレに何か用ですか?」


デートの誘いとかじゃないだろうな。


リア充になりたいって願いを神様が聞いてくれたのか。そうであってくれ。


「ああ、カナタに話があってな。いい話だ。」


いやが上にも期待が高まっちゃうぜ~。


「カナタに剣の師匠を紹介してやろうと思ってな。」


………うん、わかってた。わかってたさ。


「師匠? オレの師匠はマリカさんだけです。」


「アタイじゃ駄目だ。一緒に戦って分かったろ。アタイの戦闘スタイルは刀と格闘が半々って感じだ。カナタはもっと刀にウェイトを置いたスタイルを目指すべきだ。アサルトニンジャとコマンドサムライはスタイルが違うからね。」


マリカさんの言う通りだな。アギトはほとんど剣術で戦っていた。


オレがマリカさんの戦闘スタイルを真似るのは無理がある。


「分かりました。剣の師匠ってどんな方なんです?」


「明日ガーデンに帰ってくる。喜べ、師匠は女剣客だぞ。」


「ひゃっほう!どうせシバかれるなら女の人がいいぜ!マリカさん、分かってますね。」


「アタイの親友だ、色目で見たら目をエグるよ。わかってんね?」


「アイアイ、ボス!」


「アスラ部隊2番隊隊長、壬生みぶシグレ。通称「雷霆ライテイシグレ」。それがおまえの剣の師だ。」


シグレ、入隊の時にチラッと名前が出たな。


たしかあの時は………そうだ、アギトとなにかあったと思われる人だ。


おいおい、大丈夫かよ。


「浮かない顔だね、不満かい?」


「………マリカさんが選んだ師匠なら、信じてついていくだけです。」


「カナタがなにを心配してるかは分かってる。だが心配はいらないよ。アタイがちゃんとシグレと話をしといた。」


「はい、それで2番隊隊長はどんな方なんですか?」


「ゴロツキだらけのガーデンの数少ない常識人で、鏡水次元流を極めた剣術の達人さ。」


「凄味のありそうな人ですね。」


「いや、凄味はまったくない。」


「え? アスラ部隊の2番隊隊長なんですよね?」


「カナタ、凄味がないのと凄くないとは違うんだ。立ち合えば分かる。シグレの凄さがな。」


「………言葉で表現出来ないんですか?」


「無理矢理言葉で表現すれば、超凡人とでも言うしかないねえ。明日の夕刻帰投してくる。陸上戦艦が帰ってきたら出迎えに出ろ。アタイがシグレに紹介する。」


「了解。」


「さて、せっかくだしちょいとカナタをもんでやろうか。飯はまだ食ってないんだろ?」


マリカさん、リバースさせる気満々ですね。




無論、マリカさんとの立ち合いでは何度も胃液の味を楽しむ羽目になった。


夕食のカレーは口の中の胃液のおかげで酸っぱかったよ。


左腕以外を結構痛めつけられたし、早めにベットに入り休む事にした。




雷霆シグレ。オレの剣の師匠、か。どんな人なんだろう?





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