出撃編8話 多少のズルは生活の知恵




心配していた戦闘ヘリの追撃はなく、無事に陸上戦艦不知火に帰還出来た。


無茶振りの極み、みたいな作戦だった、無傷の者は少ない。


仲間に死人が出なかったのは奇跡だったのかもしれない。


………いや、修羅場慣れした精鋭だから成しえた戦果なのだろう。


ほぼ無傷のマリカさんですら消耗は激しい。オレのお守りをしながら瞳術を乱発したせいだな。


ありがとう、マリカさん。



不知火の格納庫のハッチが開き、オレ達を迎えいれる。


アクセルさんが、ふーと息をついてハンドルから手を離す。


「不知火に帰ってくれば一安心だ。コイツを落としたきゃ戦闘ヘリが10ダースは要るからな。」


10ダースは大袈裟でも、この陸上戦艦不知火は実戦で1ダースの戦闘ヘリを撃墜した事があるそうだ。


とりあえずは一安心だろう。


マリカさんに声をかけられる。


「カナタ、おまえは重傷の部類だ。すぐに医療ポッドに入んな。」


「はい、そうさせてもらいます。じゃな、リリス。また後で。」


「チャオ、伍長。」


指揮車両を降りるとウォッカが出迎えてくれた。医療室に歩きながら会話する。


「カナタやったな。なんでも守備隊長を討ち取ったらしいじゃねえか。報酬金がたんまり出るぜえ。」


「おかげで左腕がこの様だよ。痛い思いをした甲斐があったって事にしとくか。」


「そんなもん医療ポッドに入りゃじき治る。初陣で生き残って大将首も取った。万々歳じゃねえかよ。」


「不知火に帰ってこれてホッとしてるよ。なんとか任務完了だよな。」


後ろからラセンさんに声をかけられた。


「まだだ、ローズガーデンに帰投するまでは油断するな。」


オレとウォッカは振り向いて敬礼する。


「サー、イエスサー。」


「似合わん事はするな。家に帰るまでが遠足という話だ。」


物騒な遠足もあったもんだ。


ウォッカと別れ、オレは医療ポッドに入り傷を癒す。




目を覚まし、医療ポッドから出る。


脇腹の銃創は完全に、剣を刺された左腕もかなり傷は塞がっている。


どのぐらい眠っていたんだろう。


時間を瞳に表示させる。


24時間経過か。後1日でローズガーデンに帰れるな。




不知火に帰還したのが明け方前だったから24時間たった今も明け方だ。


だけど腹が減ったな。


カロリーをかなり消費したし当然か。



オレは休憩コーナーに向かった。


確か自販機にカップ麺らしきものがあったはずだ。



休憩コーナーのテーブルにはマリカさんがいた。


オレに気がつくとこいこいと手で合図してくれた。


無論オレはマリカさんの向かい側の椅子に座る。


「まだ明け方ですよ。えらく早いですね。」


「ちょっと目が冴えてね。たまには早起きもいいもんさ。」


「あの子供達はどうなるんですか?」


「健康な子達はどこかの養護施設に、実験ポッドの中の子達は病院に送られるだろうね。けどカナタが聞きたいのはディアボロスXの事だろ?」


「マリカさん、ディアボロスXじゃありません。リリエス・ローエングリンです。」


マリカさんは頭をかきながら、


「そうだったね、どうもアタイも戦争ズレしてきてるねえ。…………あの娘は同盟軍の研究所に行く事になるだろうね。」


「ちょっと待って下さいよ!それじゃなんにも変わらないでしょう!研究所の名札が機構軍から同盟軍に変わるだけで!」


「あの娘は最初からそれを理解してた。助けにきたってカナタが言った時にあの娘はこう答えたろ。私にとっては結果はそう変わんないと思うけど、ってな。恐ろしく頭のキレるガキだよ、まったく。」


「本人が理解してるからいいなんて話じゃないでしょう!」


「残酷な言い方をすれば、あの娘は人間じゃなくて兵器としての扱いになる。それが正しいことだとか当然だとか言う気はない。善悪で言えば間違いなく悪だろう。だが今の現実はそうなんだ。」


「納得できません!」


「納得できなきゃどうする?」


「リリスを連れて逃げます。」


オレとおんなじ目をしたあの娘を見捨てられない。


………それに、オレはなんだかあの娘を気に入っちまったんだ。


どこが気に入ったのかはオレにも分からない。


口は悪いし可愛げもないけど、気に入っちまったもんはしょうがない。


それに命を張れっていうなら妥当な対価だ。喜んで払ってやるさ。


どうせ安い命だ。




「脱走はよくて禁固、悪けりゃ銃殺だよ。それを上官の前で言うかね? おまえはバカか?」


「上官の前で言ってるつもりはありません。尊敬している人に迷惑をかけるので言っておく義理があるだけです。」


「本気で言ってんのかい?」


無茶は承知だ。オレは脱走しようにも脱走防止の仕組みが組み込まれている。


リリスが研究所に引き渡される前にそれをなんとか出来ても、司令達に追跡されれば逃げ切れないだろう。


今度こそ無理ゲーだ。完全に詰んでる。


だが、譲れない。少なくともところまでは死のうがやる。


「本気です、脱走とは限りませんが、リリスに選択をさせるところまでは、必ず道を用意する。」


「選択をさせる?」


「同盟軍の研究所にいく道か、もう一つの道か。それでリリスが研究所に行くと自分で選択したのなら、オレも納得出来ます。」


マリカさんは珈琲を飲み干し、煙草に火を点ける。


顔に手間のかかるヤツだと書いてあるな。


ライターをクルクル回しながらオレに話しかけてくる。


「カナタは本当に面倒で手間のかかるヤツだねえ。」


「すみません、ホントに面倒ばっかりおこして。」


「まったくだ。………だが面白い。あの娘をなんとしても助けたい、なんて甘ちゃんの言い草じゃなくて、あの娘に選択をさせるところまではやるってあたりが気に入ったよ。子供だって一つの人格だ。過保護にすりゃいいってもんじゃない。だけど、子供に道を選択させるところまでは、大人の仕事だよねえ。ん? そうだろ?」


マリカさん、悪い顔してんなー。ここはオレも便乗して悪い顔になろう。


「もちろんですよ。そして大人って少々あくどい事もやりますよね?」


「世知辛い世の中を渡っていくには多少のズルは生活の知恵さ。カナタの悪巧みにアタイも乗ってやるよ。ネチネチ考えるのがカナタの取り柄だ。アタイが共犯になるなら脱走以外の手を考えられるんじゃないのかい?」


マリカさんが共犯になってくれるなら思考の幅は飛躍的に広がる。


考えろ、考えろ、考えるんだ。おまえは金田一耕助の孫だろ!


…………孫じゃありませんでした。オレは天掛翔平の孫でした。


………!! これなら、イケルか?………うん、悪くない手だ。


「イケそうです。司令の説得が可能なら、ですが。でもそれはオレじゃ不可能です。なんせかなり無茶な要求なんで。」


「そこはアタイの仕事だね。イスカにはいつも無茶なオーダーをされてんだ。たまにゃアタイが無茶を言ってもいいだろうよ。」


「そこをクリア出来れば、仕事はほぼ終わりです。そこから苦労するのは司令です。豪腕に期待しましょう。」


「イスカの不景気なツラを拝むのが楽しみになってきたねえ。それで具体的にはどういう悪巧みなんだ?」


あ!大事な事を思い出した。これは非常に重要だ。


「内容はバーター取引でお願いします。」


「バーター取引?」


「マリカさん、オレに言ったじゃないですか。生き残ったら乳輪の色を教えてくれるって。」


「覚えてやがったか。このおっぱい小僧め。」


「約束ですよ。教えて下さい。何色なんです? さあさあ、プリーズ、テル、ミー!」


「おまえはホントにアップダウンの激しい性格してんねえ。さっきまでのお通夜みたいなツラから、よくそんだけ鼻の下を伸ばせるもんだよ。」


「テル、ミー、ナウ!ナ~ウ!」


「ま、今回の作戦じゃいい仕事をしたしな。特別ボーナスだ。…………自分の目で確かめな。」


そう言ったマリカさんは軍服の上着をはだけてくれた。


オレのまなこに飛び込んできたのは究極にして至高、原点にして極北きょくほくの生ロケットおっぱいだった。


まさに桃源郷!乳輪の色は淡いピンク!


特筆すべきはその完璧なバランス、乳輪はおっぱいの大きさに完全にマッチしている。


同志アクセルの言っていたおっぱい黄金比は実在したんだ!


ブバッという音がした、何の音だ?


なんだか知らんが邪魔すんな。今はオレの人生の至福の瞬間なんだ。


「女の乳見て鼻血だすヤツが実在するとは思わなかったねえ。おまえはマンガキャラか?」


気付けばオレの鼻から、鼻血がナイアガラフォールしていた。


マリカさんは軍服を整え直しながら言った。


「はい、お終い。鼻血で失血死とか間抜けな死に様は洒落になんないだろ。」


「例え死んでも悔いはないんでもうちょっとだけ………」


「作戦中にナツメの乳も拝んだろ。一作戦で二度も乳を拝めたんだ。よしにしときな。」


「そうですね。残念至極、無念極まりないですが上出来としておきます。」


「ほれ、これで鼻血を拭きな。」


マリカさんはハンカチを渡してくれた。オレはハンカチを鼻にあてる。


「悪巧みとやらは後で聞こう。カナタ、そんな体たらくじゃ当分は童貞だね。お気の毒だ。」


いいもん。おっぱいがあればオレは生きていけるからいいもん。


ナツメの時は失敗したがオレは同じミスは2度しない男だ。


マリカさんのおっぱいは網膜に焼き付けた。


カメラ機能で撮影しておいたのだ。この画像は絶対消さない。




この画像がキッドナップ作戦の最大の戦果だ。やったね、オレ。




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