入隊編4話 1番隊の愉快な仲間たち
いつものように目覚ましアプリで目を覚ます。
小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、一気に飲み干す。
今日は18:00時からオレの歓迎会が開かれるらしい。
本当は歓迎はされちゃいないのかもしれないが、自分でどうにもならないコトを考えても仕方がない。
無事に入隊できた。美人でスタイル抜群の上官もできた。
悪くない展開と言えるだろう。むしろ出来杉クンだ。
……ここからどう行動すべきか。
オレは高校大学とずっとボッチだった。人との関わり合いは極力避けて生きてきた。
関わり合いを持とうと思っても上手くいかなかったかもしれない。
だけど誰とも関わり合いを持とうとしなかったのだから、ボッチだったのは当然だろう。
波平ボッチの法則は、オレが自ら生み出した因果律だったのだ。
………決めた、オレは変わる。
変われないかもしれない。でも変わろうとすることだけは出来る。
元の世界なら孤高を気取って生きていくことも出来ただろう。孤独な人生が悪いものだとも思わない。
だけどこの世界ではオレは一人で戦い、生き抜いていくことはおそらく出来ない。
だから、オレは変わる。万人に好かれる聖人になろうとしてるんじゃない。
オレの目に映る範囲、ごく狭い世界の中でだけ、必要とされる人間になろう。
窮地を救ってくれる誰かがいなければ、オレは死体袋に詰められる運命を迎えるだろう。
………だからもう人との関わり合いから逃げない。そう決めた。
歓迎会の時間までは訓練だ、昨日、買い物してる時にマリカさんが教えてくれた。
オレは基本がまるでなっちゃいないのだと。
身体能力と念真能力に振り回されて、すべきことの優先順位が滅茶苦茶だ、まずは基本をマスターすることだとアドバイスしてくれた。
個人訓練が出来る小型のトレーニングルームで教わった事を練習する。
剣術の基本、素振りを繰り返す。そして格闘の演武、これは昨日寝る前に一通りパソコンで見て覚えた。
鏡の前で愚直に繰り返す。当分の間は基礎訓練だ。
それを17:00時まで続けた。強化された肉体はハードトレーニングにも根を上げたりしない。
17:00時を告げるアラームが体内で鳴ったので部屋に戻りシャワーを浴びる。
ローズガーデン中には大浴場があって、ジャグジーなんかもあるけど今はいく気にはなれない。
緊張してるのだ。マリカさんの部下は100人以上いる。上手く馴染めるだろうか。
さあ、行こう。もう決めただろ、この世界では人との関わり合いから逃げないって。
オレは食堂の前で軽く深呼吸してから、胸を張って食堂に入る。
入って間なしにクラッカーが鳴り響いて、オレを出迎えてくれた。
「この世の地獄へようこそ新入り!」
「坊主、棺桶は持ってきたか? じきに必要になるかもよ?」
「気をつけな、弾丸は前からしか飛んで来ないとは限らんぜ?」
なかなかの歓迎振りだ。でも元の世界で見た映画の中でも軍隊ってこんな感じだったな。
むしろシーンと静まって迎えられた方が反応に困っただろう。
予想した感じの出迎え方をされたので、ちょっと落ち着いたぞ。
「アスラのエース部隊って聞いてましたけど、口喧嘩のエースって事なんですかね?」
「言うじゃねえか小僧、人生の厳しさを体に叩き込んでやるぜ!」
2m以上ある白人の巨漢がオレの前に出てきた。
少し奥に座っていたマリカさんが、テーブルをガンと叩くと喧噪はピタリとやんだ。
「ウォッカ、そいつは後でやんな。」
巨漢は肩をすくめて席に戻った。だが、まだオレを睨んでる。後で本当に仕掛けてくるな、こりゃ。
マリカさんは席を立ってオレの傍まで歩いてきた。
「こいつが新入りの天掛カナタ伍長だ。ツラを見りゃ分かるだろうがアギトの甥っ子だ。」
日本人形みたいな感じの女の子が立ち上がって、
「ガモン大尉の縁者なんか部隊に入れるべきじゃないと思います。きっと厄介事を起こします。」
そーだそーだと追随の声が上がる。
覚悟はしていたが、やっぱりこうなるか。
マリカさんが部下達を鋭い目で見回すと、追随してた連中は沈黙する。
流石マリカさん、カンッペキに部下を掌握してますね、一生ついていきます。
「アギトはあんなだったからな、アタイも大嫌いだったよ。だけどな、カナタはアタイが1番隊に入れると決めたんだ。それでも文句があるってヤツは、かまわないから前に出な。」
誰も出なかった。当たり前だな、マリカさんに逆らうなんて、オレなら怖くて出来ねえよ。
それは1番隊の荒くれ達も同じみたいだ。
「全員の紹介なんか、かったるしくてやってらんないから中隊長だけ名乗れ。他の連中は後で勝手にやんな。」
マリカさんがそう言うと年は20代後半くらいか、オールバックの糸目の男が立ち上がった。
「
はい、ラセンさんね。この人がナンバー2か。
次は不満顔な日本人形ちゃんが口を開いた。
「
そこまでイヤそうに言わんでも。早く死んでくださいって顔に書いてあるぜ。嫌われたもんだ。
次に立ち上がったのは爺さんだった。白髪を長く伸ばして後頭部で束ねている。
「ワシは
はい、こちらこそ。よかった、やっとフレンドリーな人がいたよ。
ゲンさんの隣に座ってたメガネの委員長みたいな男が最後の中隊長だった。
「
見た目通りの委員長キャラかよ。この生真面目キャラでもガーデン内の風紀に関しては諦めてるってのがある意味スゲえな。
自己紹介をまとめると、
第1中隊 マリカさん。大尉。総隊長でおっぱいとお尻が魅力的。ハンドレットで超姉御で素敵で無敵。
第2中隊 ラセンさん。中尉。副長で実直そうなオールバックの糸目。
第3中隊 ホタルさん。准尉。日本人形っぽい。推定Aカップ。アギトとオレが嫌い。
第4中隊 ゲンさん。 少尉。温厚な感じのお爺ちゃん。唯一オレにフレンドリー。
第5中隊 シュリさん。准尉。メガネの委員キャラ。
この中隊長5人がそれぞれ部下20人を率いてるみたいだ。それに戦闘員以外のスタッフが20人ばかりいるのだそうで。なかなかの大所帯だな。
その後は飲めや歌えの宴会になった。別にオレを歓迎するって訳じゃない。バカ騒ぎする口実が欲しいだけってのが主な理由だろうよってマリカさんが言ってたけど、その通りだった。
波平ボッチの法則に囚われているオレは主賓であるにも関わらず、ポツンと一人でオレンジジュースを飲んでいた。
だが救世主が現れた。ゲンさんだ。
「楽しんどるかね、お若いの。」
「え~と、タガメ少尉、オレはその……」
「ゲンさんでいいと言ったじゃろ。ぶっちゃけ、ここでは階級を気にするヤツはおらんのじゃ。司令があんなじゃからのう。」
「軍隊としてはどうかと思いますけど。」
「それじゃあおまえさんは謹厳実直、堅苦しい軍隊が好きなのかい?」
オレは首を振った。堅苦しいのはオレもイヤだ。息がつまる、実家がそうだった。
「お若いの、おまえさん、氷狼の甥っ子なんだって?」
「はい、叔父はここでは評判が悪いみたいですね。何をやったんです?」
「ワシは人の噂話は苦手でのぅ。悪い噂はなおさらの。」
「いいんです、叔父がどんな人間であろうと、オレには関係ない事ですし。」
「確かにの、だがそうは受け取ってくれぬ者もおろうよ。おまえさんには酷な話じゃがの。ワシで力になれる事があるなら、いつでも手を貸すからの。」
あれ、目から汗が。こんな世界にも人間はいたんだ!
「ありがとうございます。どうにもならない時は相談します。」
「なんの、年寄りは節介焼くのが生きがいなんじゃよ。」
そこにビール缶をもったロン毛の白人男性が近付いてきた。
「なんだ、新入りは飲まないのか? それとも飲めないのか?」
「アルコール分解アプリをインストしてないもんで。あなたは?」
「アクセルだ。よろしくな。」
「アクセルさん、名字はないんですか?」
「アクセルは渾名だよ。アレクセイ・ルキャノフが本名だ。縮めてアクセル。階級は少尉でリガーチームのリーダーだ。」
名前からして、元の世界で言えばロシア系になるんだろうな。
「リガー、確か意味は……そうだ。巻き上げ機の操作でもするんですか?」
「それもやるけどな。軍じゃ戦闘用車両の操縦をするヤツをリガーって呼ぶのさ。陸上戦艦から三輪車までハンドルのついてるモンならなんでも任せとけ。操縦も修理もお手のものだぜ。」
元の世界では普通自動車免許は取ったけど、ペーパーもいいとこだからな。
アクセルさんから学ぶ事は多そうだ。
「よろしくお願いします。その辺は自信がなくて。」
「おうよ、オレは普段は格納庫で、可愛いベイビーちゃん達の面倒をみてるからよ。いつでも訪ねてきな。」
「はい、近いうちに顔を出します。」
そこでアクセルさんはオレに小声で耳打ちしてきた。
「オレはちょい前にマリカさんに別の部隊から引っこ抜かれたんだけどよ。カナタもその口か?」
オレも小声で耳打ちした。
「オレは司令に引っこ抜かれました。」
「司令もいいもん持ってるよな、Eカップあんだろ、ありゃあ。」
「ええ、オレもEだとにらんでます。Fに近いEだと。」
「いいセンスしてるな兄弟、だがこの基地最強のおっぱいはマリカさんだぜ。なんたって……」
「理想的なロケット、地上に舞い降りた奇跡ですよね。」
オレとアクセルさんは花京院とポルナレフのようにハイタッチを交わした。
オレのソウルメイト誕生の瞬間だった。
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