魔法エブリパーティ少女えり☆ちゃん!

4番目につよいやつ

第一話 ~魔法エブリパ少女始めました~1/4

【エブリパーティ】とは:

 2005年12月10日、第七世代ゲームハード『Xbox360』と同時発売されたゲームソフト。

 世界64億1千万本の売り上げを達成し『最も売れたビデオゲーム』他8種と『もっとも世界平和に貢献したテクノロジー』の名でギネスに登録され、『全ての国が幸福となった』ことで幸福指数が廃止されるきっかけとなった。

 今日利用されている論理学、経営学、統計学、心理学等のあらゆる学問にも多大な影響を及ぼし、人類史における現代の定義を『第二次世界大戦終結後』から『エブリパーティ発売後』に進めた『全ての戦争を終わらせたビデオゲーム』である。

 (『お祭り騒ぎが変えたもの』序文より抜粋)







 『東京都得分利区えぶりく』。かつて目黒の名で呼ばれたそこは、エブリパーティの開発元『ゲーム○パブリック』第三新本社が立つ人類の聖地である。

 大人も子供も家に帰れば家族でエブリパーティを遊び、公園では老人達がボードゲーム版エブリパーティに興じ、ゲームセンターでは筐体に100円玉の塔を作りアーケード筐体に入ったエブリパーティをやりこむ若人が列を成す。運動会では必ず【あがり】の手前で流れるワクワクドキドキなBGMが流され、ガジェットに聡い若者はバックパック型Xbox360を背負いARグラスに画面を映し歩きながらエブリパーティに興じる。巨大な交差点を見下ろす大型ビジョンにはT○KIOのMVが24時間流れ続け、その真下の歩道にはメンバー五人の胸像が鎮座している。

 そんな世界の最先端をリードするこの街で、半年前から奇怪な噂が広がっていた。


 曰く、ク○ゲーを福と称して配り回る顔に包帯を巻いた怪人を見たとか。

 曰く、顔に紙袋を被り子どもの落書き以下の絵を崇める宗教団体が存在するとか。

 曰く、暗闇で突然顔が見えない男に話しかけられ、その問いに答えられなかったら魂を抜かれるとか。

 曰く、いま世界で最も人気のY○utuberがこの街のどこかに居るとか。

 そんな都市伝説としか言いようがない噂話の数々を、多くの人は信じる事なく忙しい日々を送っていた。


「ちゃっちゃーちゃららーちゃららー♪」

 The R○lling Stonesの『Ju○pin' Jack FLASH』――Xbox360発売当初のCMソングで使用された世界で二番目に有名な歌のメロディを口ずさみ、おさげを揺らしながら横断歩道の白線をピョンピョンと跳ね歩く小さなリュックを背負った少女。

 年の頃は10歳前後だろうか。白いシャツの上に赤いチェックのワンピースという一見野暮ったい姿は、その実エブリパーティの筆頭女の子アバター【こずえ】とおそろいの格好であることは言うまでもない。

 彼女もまた、そんな多くの人々のひとりに過ぎなかった。

 その日、その時までは。


「――けーっけっけっけっけっけーーーー!」

 突如、少女の居る交差点全体に奇怪な叫び声が響き渡る。

 周囲の人々がざわめき、声の出所を探して首を巡らす。やがてその視線の数々が大型ビジョンの上に集中した。

 そこに立っていたのは目鼻を残して顔を包帯で覆い、右手にソフ○ップ福袋を、左手にクリスマス柄の紙袋を抱えた、あまりにも奇怪な姿のおっさんだった。

「レディースエーンドジェントルメーンアンドおとっつぁんおっかさーん! 潤いの足りない人生を送っているみんなにおいらが福を届けに来たでやんすよぉぉぉぉ!!」

 おっさんが叫び、左手の紙袋を宙に投げる。

 高々と上がったそれが頂点に達した時、紙袋がはじけ、その中から闇の雲があふれ出した。

 雲は交差点全体の空を覆い隠し、紙袋の中身を降らせる。その途端、下に居た人達が続々と苦しみの声を上げ始めた。


「な、なんだこのク○ゲーの山は……!」

「いや! ワ○チャイコネクションなんかやりたくない!」

「こ れ は ひ ど い」


 自分の手の内に降ってきた物を一目見た途端、次々と意識を失い倒れ伏す人々。その様子を大型ビジョンの上から眺めるおっさんが嘆くようにため息を吐いた。

「ああ……これほどの福を前にしてみんな気絶してしまうなんて、酷い話でやんす。どいつもこいつもろくな神力じんりきを持っていない証拠でやんす……おやぁ?」

おっさんの視線の先、他の全ての人間が倒れ伏した交差点の横断歩道にただひとり立つ少女の姿があった。


「へー、おもしろそー!」

 周囲の状況にまったく気付く様子もなくパッケージの裏面を読んで感想を口にする幼い少女。その姿を見初めたおっさんが颯爽と大型ビジョンの上からジャンプし、数十メートルの距離を飛んで少女の目の前に着地する。

「お、おおおお嬢ちゃんんんん!!!!」

「ひゃんっっっ!? て、あれ? どうなってるの……?」

 突然空から降ってきた怪しいおっさん。その衝撃でやっと周囲の様子に気付き怯える少女にずんずんと近づきつつ、おっさんがまくし立てる。

「その『毎日が楽しい! 綾小路きみ○ろのハッピー手帳』の面白さを一目で見抜くとは驚くべき神力でやんす! それにその格好! 【こずえ】ちゃんのコスプレでやんすね! 素晴らしいでやんす! 是非とも今度一緒においらとエブリパってほしいでやんす!!」

「え、え、え??」

 一方的にしゃべり倒すおっさんに目を白黒させる少女。やがてその視線がおっさんの包帯顔を捉えた。

「お、おじさん、もしかして、都市伝説の……」

「そうでやんすそうでやんす! おじさんがみんなに最高の福を与えるということで今話題沸騰中のやつでやんすよ! そ、そうでやんす、お近づきの印に――」

 おっさんは残ったソフ○ップ福袋の中を漁り、パンチパーマ風のグラサンのおじさんが大きく口を開けた顔が全面にプリントされたあまりにもコメントに窮する一品を取り出す。

「お嬢ちゃんには特別にこの姪の自作福袋最大の福! ピ○太郎お面をあげるでやんすよぉぉぉぉ!」

「ふえええぇぇっ!?」

 今まさに怪しいおっさんの魔の手がいたいけな少女に触れようとしたその時、どこからか降ってきた物体がおっさんの頭部を直撃した。

「ぶぎゅるでやんすっ!?」

 怪しいおっさんを吹っ飛ばして地面に落ちる物体。目の前に転がってきたそれをおもむろに少女が拾い上げる。

「これって……?」

 手のひらに難なく納まるほどの大きさの白い箱のような物体。その名前を少女は思い出す。

『Xbox360専用メモリーユニット(64MB)』――それは通常のXbox360からHDDを取り除いた廉価モデル『Xbox360コアシステム』用に作られた、多くのエブリパリストがお世話になった外部記録ユニットである。

 へんなおっさんに狙われているという状況も忘れて少女が手の内のそれを眺めていると、突然頭のなかに声が響いた。


<――見つけた!>


 そして、メモリーユニットからまぶしい光が放たれる。

「ふひゃあっ!?」

 おもわずそれを取り落とし尻餅をつく少女。

 光は一瞬周囲を照らすほどの強さとなり、すぐに消え去った。

 突然の事態の連続に思考が追いつかない少女が立ち上がるよりも早く、メモリーユニットの直撃を受け悶絶していたおっさんが復活する。

「あづづづ……いきなりメモリーユニットが空から降ってくるなんて不思議なこともあったもんでやんす……とにかく、お嬢ちゃんにはなんとしてもこいつを受け取ってもらうでやんすよぉぉぉぉ!!」

 再びピ○太郎お面を構え、今にも少女に飛びかからんとするおっさん。

 だがその行動に、またしても邪魔が入った。


「――待てっ!!」

 突然、どこからかおっさんを制止する声が響く。

「こんどはなんでやんすかぁ!?」

 辺りを見回すも、周囲に意識のある人間はおっさんと少女だけ。

 けれど、人間でない存在がいつの間にか一匹、そこに居た。

「黒い……うさぎさん?」

 両手に収まらないくらいの大きさの丸くて黒い、おそらく生き物。それが少女を守るように目の前に浮かんでいたのだ。

「福のエブリパーティ仮面。きみの好きにはさせない」


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