epilogue END of last flame.

 ──身体が軽い。

 それが初めに彼が感じた事だった。

 こんな感覚は、久しい。

 永劫の苦しみと共に歩んだ彼──大典太終火の人生は決して幸福とは言えるものではなかった。


 三日月凛音の言う通り、彼は孤独の中にいた。

『大典太家』では代々、一人の『蠱毒』を生む。それは偶発的に産まれるものではなく、人為的に生むのだ。


 先代の『蠱毒』が年老い、不死性の意味が成されなくなった時、儀式は行われ、新しい『蠱毒』が生まれる。

 そして、先代の『蠱毒』から知識とその能力の全てを継承した後に殺害する。

 それを永遠と繰り返してきた一族だ。

 そんな歴代の習わしを破壊したのが、大典太終火だった。新しい『蠱毒』になってしまった彼の願いは──。


 誰か、誰か。助けてほしい。

 寂しい、寂しい。誰か側にいて欲しい。


 それだけだった。

 その願いに呼応して、彼の異能は生まれた。

 寂しいからという理由で他人に触れただけなのに、自分が触れる事によってそれは自由意思を失った傀儡オモチャになる。


 そんな事は欲していなかった。故に、破壊した。

 先代の『蠱毒』に出逢った時、それを即座に殺害した。彼が七歳の時だった。

 それからは『大典太』の序列一位として、一族の全てを傀儡にし、君臨し続けた。


 本物の孤独だった。


「……くん?」


 誰かが自分を呼んだ気がした。

 誰も自分を必要となんかしていない。だから、そんな風に呼ばれることなんてない。

 そう終火は心の中で唱える。


「終火くん、だよね?」


 終火が目を開けると、彼女は、立っていた。

 尚も変わらない笑みで。


「……の?」

 声が上手く出せない。


「こんな所まで会いに来てくれるなんて、嬉しいなぁ。やっぱり終火くんは私のことが大好きなんだよねー」

「……梨乃」

「うん」

「神崎梨乃」

「何よ? そんなに怖い声出さないでよ。ここを何処だと思ってるのよ、怒られちゃうよ?」

「お前、ふざけんな」

「…………」

「なんで相談してくれなかった」

「…………」

「なんで自殺なんてしたんだ」

「……ごめんね」

「ふざけんな!! なんで俺を頼ってくれなかった! なんでだよ!」

「情けない私を、あなたにだけは、知られたくなかったの」

「──ッ」


 梨乃が、終火の前に立つ。

 そして、愛を込めて抱きしめた。


「好きな人にだけは……知られなく、なかったの……」

 彼女は泣きながら続ける。

「本当にごめんなさい……ごめんなさい……あなたに会えなくなることがこんなに辛いなんて思わなかった……そして、あなたを傷つけた。本当に、ごめんなさい……」

「謝るな」


 今度は、終火が梨乃を抱いた。

「俺こそ、気づいてあげられなくて、ごめんな」

「…………」

「お前のおかげで、俺は救われたんだ」


 終火は想う。


 おい、凛音。聞こえてるか。……聞こえてる訳ねぇか。直ぐにこっちに来たら、絶対に許さねぇからな。

 ……人生ってのはそう悪いことばかりでもねぇぞ。

 本当に、ありがとな。





 ──「あーうん、じゃあ、いいよ」

「やった!私達、もう友達って事でいいよね?」

「そうなるね」

「私、行きたい所あるんだけど、良い?」

「私でよければ」



「あなた、お名前は?」

「私は、赤谷あかり」

「違くて! 赤谷さんじゃないでしょ!あなた!女の子の格好して、赤谷さんのフリしてるなんてる、『あなた』のこと!」

「……なんのこと──」

「友達に隠し事なんて、ぜーったいダメなんだから!」


「……終火だ」


「しゅうび?」

「終わりの灯火って書いて、終火」

「ふーん……よろしくね! 終火くん!」


 With love from heaven from the end of last flame.

 END.

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