第17話 人には色々恐れるものがある。

「いっくわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「・・・・・ふッ!」


 遺跡内部に真っ先に飛び込んだエルとフレーレだが、入り口に突っ込むと、三秒後には戻って来た。


「いやああああああああああああああああああああああ!」


「ぎゃああああああああああああああああああ!」


「何だ?! 如何した?!」


 いきなり来たか! 俺はノアさんを護りつつ、戦闘体勢を整えた。 二人がとび出して来た入り口からは、大量の黒の煙が溢れ出て来ている。 いや煙じゃない、これはGだ! 大きさも形も完璧なGが、無駄に大量に発生したGの群れが、空一杯に広がって行く。


「うあぁぁぁ、これは酷い・・・・・。」


 彼女達だってそれなりの兵士だ、ゴキブリの一匹や二匹だったら撃退していただろう。 しかしこの数は多過ぎた。 百は優に超え、何千、そして万にも届きそうな程だ。 もしかしたらもっといるかもしれない。


 そんなG達は、一度は空へと散って行くかに見えたのだが、俺達全員を囲い込み、一斉に襲い掛かって来た。 これはもしかしたら、このG達はゴキブリ型の魔物なのか?!


「ひいいいいいいいいいいいいい。」


「あわわわわわわ・・・・・。」


 この二人が居れば何とでもなるだろうと思っていたのだが、今は完全に足手纏いとかしている。 エルの体から出ている炎は、自分とフレーレの体を覆い護っている。 やるのなら俺達も護って欲しいんだが。


 Gとはいえ小さな虫なので、それ程攻撃力は無い。 普通の人でも、噛みつかれても痛いですむレベルだが、これ程大量となると馬鹿に出来ない。 それに、耳の中や目に入れれると、この大きさでも十分危ないだろう。


「ノアさん! 良いというまで目を瞑って耳を塞いで居てください! 頭の中に入られたら死にますからね!」


「は、はいいいいいいいいいい!」


「このゴキブリ野郎が! このッ・・・ウェッ! ッぺ。 クソが、ちっとも減りやしねぇ。 おいエル! お前が戦わにゃ、何時まで経っても終わんねぇぞ!  全部焼き尽くしてやれ!」


「エルちゃん頑張って、私応援だけしているから!」


「・・・ううう・・・やる・・・。」


 エルは立ち上がり、大気中全体が炎に包まれた。 相当嫌だったのだろう、かなりの出力で放出された炎は、一体も逃す事なく焼き尽くして行った。  俺達全員も巻き込まれているが、特に熱さもなく、息苦しさも感じない。 むしろほんわか温かかった。 これはエルの体温ぐらいなのだろうか? とするとこれはエルに触れているのと同じ事だ。 ちょっと全身で感じておこう。


「ぬあッちゃあああああああああ!」


 俺の尻と股間辺りだけが、高熱に包まれた。 まさか俺の考えを読んだというのか? ただちょっと腰をクネクネしていただけだというのに!


 完璧に燃やされ尽くしたG達だが、しかし恐怖はまだ続くらしい。 今日の天気は完全なる無風である。 燃やされ灰となった物がパラパラと落ちてきている。 正直俺も、積極的にGに触れられる程好きじゃない。 灰になっても触りたくない。


「いやああああああああああ、頭に振って来るううううううううううう! 逃げなきゃエルちゃん! もう一度遺跡の中に避難しましょう!」


「あうう・・・・・。」


 力を使い果たしたエルを背負い、フレーレが遺跡に逃げて行ってる。 ついでにノアさんもそれに同行して行く。 やはりGのカスでも嫌だったのだろう。


「隊長、俺達も行きましょう、このまま被り続けるのは嫌ですから!」


「ああ、俺も出来るなら被りたくねぇ。」


 急ぎ遺跡の中に入って行った俺達だが、まだGが残っているのかとビクビクしている。 もうあれで全部だと嬉しいのだが。


「・・・・・はぁ、やっとG共が居なくなったぜ。 んでノアさん、もうこれで全部退治したんじゃねぇか?」


「いえ、まだです。 情報によればこの遺跡の中には、四体以上の魔物の姿が確認されています。 さっきの虫は魔物として報告されていませんから、まだ四匹はいるのでしょうね。」


「ほぅ、四匹ねぇ。 入り口があんなんだったのに、そいつは良く調べられたものだなぁ。 一体どうやったんだ?」


「遺跡から出て来たのを確認したらしいですよ? あの虫達が襲わない所をみると、逆に餌として食われていたんじゃないんですかね?」


 おう、まだ四匹もいるのか。 近くには敵の姿は見えないが、きっと俺達の事を警戒しているかもしれないな。 一応敵の特徴でも聞いておこうか。


「じゃあノアさん、その四匹の特徴も分るんですよね? 参考までに教えといてください。」


「あ、はい。 一匹目はグニョグニョした海洋生物らしいです。 何か触手がいっぱいあって、まるでタコの様だとか。 何でこんな所にいるんですかね?」


「いや、俺に言われても知らないですけど、まるでタコじゃなくて、タコそのものなんじゃないんですか? まあ知らないですけど。」


「タコねぇ、昔は王国でもたまに食えたんだよなぁ。 海産物の流通もあったんだが、最近はトンとねぇからなぁ。 魔物じゃなければ食えたかもしれんのに。 ちいと、残念だ。」


「俺はあんなもん食いたくありません、なんかグニュグニュしてて不味いじゃありませんか。 食べるなら隊長一人で食べてくださいね。」


「だから食わねぇって言ってんだろうが! 人の言う事ぐらいちゃんと聞けや!」


 そんな話をしていると、奥から何かが這いずる音が聞こえて来た。 ヌルッというかジュルっというか、兎に角そんな気持ち悪い音だ。


「おいテメェ等、何かこっちに向かって来るぞ! 全員戦闘たい・・・・・フレーレは何処行った?」

 

 見るとエルをこの場に残して、フレーレの姿が消えている。 何処へ行ったのか?


「あ、隊長さん、フレーレさんなら、この先に行っちゃいましたよ。 ・・・・・あ、帰って来たみたいです。」


「はぁ?!」


 奥から現れたのは嬉しそうに手を振るフレーレと、そしてあれはタコではなく、巨大なクラゲだった。 目撃した者はクラゲという生物を知らなかったのだろう。


「べノムー、得物を連れて来たよー!」


「アホかああああああああああああああ! 変なもん連れてくんじゃねぇよボケエエエエエエエエエエエ! 連れて来るにしても準備ってもんがあるだろうがよぉ!」


「隊長、もしかしたら美味いかもしれませんよ?」


「うるせぇ! 食わねぇって言ってんだろうがコラァ!」




 そして否応なしに戦いが始まった。

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