第11話 人生とは理不尽なものよ。

 兵士達にマークされてる俺(バール)は、道行くお爺さんから古いローブを買い求めた。 それを着て会場に戻ると、舞台上には隊長一人と選手達が戦っている。 死屍累々と言った所だが、どうやら誰も死んではいないらしい。 再び起き上がりゾンビの様にもう一度挑みに行っている。


 そんな中で、一人だけピンピンした男が居た。 そう、あれはアーモン、隊長の天敵だ。 吹き飛ばされても叩き伏せられても直ぐに立ち上がって襲い掛かっている。(性的な意味で)


「その程度で俺は諦めませんよアンリさん! 俺を倒したいのなら、俺の心を満足させてもらわないと! さあ俺の為にもっと刺激を与えてください!」


「あああああ、クソうぜぇ! おりゃアツシだって言ってんだろうが! 人違いだ!」


 アンリさんというのは、随分前に隊長が変身した女性のことだ。 一応モデルも居て、隊長の家の近くのパン屋に努める娘、レインさんがモデルだそうだ。


「ふふふ、そんなに恥ずかしがらなくても良いじゃありませんか。 パワーアップした俺には、貴方の匂いを嗅ぐだけで判断できるようになったんですよ! どうです、凄いでしょう! 貴方がアンリさんだと言う事は、始まる前から分かっていたんですよ!」


「気色悪いんだよテメェ! どんだけ変態度を上げれば気が済むんだよ! 寄るな! 帰れ! 何処かで隠居生活でもしてやがれ!」


 今隊長と真面に戦えているのは、そんな変態のアーモンだけだ。 他の奴等は三人掛かり、四人掛かりの奇襲を仕掛けたりしている。 だがそれも相手にはなっていない。 隊長の性質上、木剣よりも真剣の方が使いやすいのだろう。


 ・・・・・そういえば負けた選手しか見当たらない。 不戦勝で負けた俺も、この戦いに参加するべきなのだろうか? よく分からないから、とりあえず横に座っていたお爺さんに聞いてみる事にした。


「あのすみません、もしかしてこれって、負けた人が参加するものなんですか?」


「あん? ああ、たぶんそうなんじゃないのかねぇ。 大金が貰えるって言ってたからのぉ、皆必死で戦っておるよ。 まあ出場資格の無いワシ等には関係ない話じゃがのぉ。 ふぉっふぉっふぉっ。」


「う~む、そうなんですか・・・・・。」


 やはり参加しないと不味いらしい、たぶん決勝も負けてると思うし、これまで参加しないわけにはいかないだろう。


「ありがとうお爺さん、じゃあちょっと行って来ますね。」


 俺は客席から飛び降り、隊長の居る舞台の上に向かい、叫びを上げて槍を振り上げた。


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 ガンッとお互いの武器がぶつかり合う。 やっぱり叫ばなければ良かった。


「チィッ! いきなり来やがって、誰だテメェは・・・・ってテメェかよ! 今まで何してたんだテメェ、俺がどれだけ苦労して時間稼いでたと思ってんだコラ! つうかこれは一体何のつもりだ!」


「いや、何か負けた人は参加してるみたいですし、たぶん不戦敗で負けた俺も参加しなきゃいけないのかなぁと。 それにこれだけ人数が居れば、合法的に隊長をボッコボコに出来るかなーと思ってはい。」


「アホかああああああああああああああああ! 俺が一体誰の為にやってると思ってるんだチクショウ! クソッ垂れ、もう良い、一回ぶっとばしてやるから覚悟しろよテメェ!」



「ふうぅぅぅぅ、アンリさん其方にばかり気が行って、俺の事を忘れてはいけませんよ。 どうでしょう? 俺の為に姿を変えて貰えませんか? 如何しても嫌だと言うのなら、もうそのままでも構いませんから。」


「ぎゃあああああああああ、テメェ耳に息を吹きかけるんじゃねぇ! マジ殺すぞコラァ!」


 姿を現した俺に、会場も盛り上がりを見せている。 もっと盛り上げようと、司会者がマリーヌ様に呼びかける様に、大きな声で声を上げている。


「うぉーっと! アツシ選手が必死で時間稼ぎをしていたというのに、なぜか待っていたバール選手がアツシ選手を襲いだしたぞ! 一体この後の試合はどうなってしまうのか! ・・・・・本当にどうするんでしょうマリーヌ様?!」


「面白そうなので続行しなさい! 後の事は後で考えれば良いのです! 私も血がたぎって来ました、これはもう参加するべきでしょうね! 因みに、途中で戦いを止めたら決勝は無しです。」


「駄目ですよマリーヌ様! マリーヌ様まで行ったら本当に収集がつかなくなりそうですから。 さてお許しが出た所で、舞台上では殆どの人物が力尽きて倒れて居る! 残る相手は二人。 アツシ選手は果たして生き残る事が出来るのか!」


 解説者の言った通り、もうアーモンと俺以外には完全に沈黙している。 時間が経てばまた復活するだろうが、そんな物を待つ理由は少ない。 俺は正面から、そしてアーモンは後から隊長に挑み掛かった。


 キンッ ガッ ギュイッ ヒュンッ!


 一気にスピードを上げて行く隊長は、俺達の攻撃を防ぎ躱して行く。 二人掛かりで戦っているというのに、此方の方も防御に回らせられている。 隊長は結構本気になってるらしい。


 連携を取って戦いたい所だが、このアーモンが俺の言う事を聞いてくれるとは思えない。 俺が勝手に合わせるしかないのだが、この男の行動が中々読めない。 後から隊長の足を撫でようとしたり、耳に息を吹きかけたり、まさか尻まで撫でようとするとは、俺には考えられない事だ。


 隊長も全力で攻撃しているように見えるが、何度斬られても復活するという謎性能を発揮している。 手加減されているとは思えないし、なんかもうドンドン化け物じみてきている。 連携が取れないのなら、いっそ何も気にしないで戦うしかない!


「行きますよ隊長! 俺のとっておきの一つを見せてあげます! デッド・ファランクス!」


 俺の最終手段の一つで、とっておきの魔法を発動した。 この魔法は隊長にも知られていない。 どんな効果があるのかも分かっていないはずだ。 これは肉体を強化するわけでも攻撃力が上がる分けでもない。 防御力が上がる分けでも回復能力があるわけでもない。 ただ少し、痛みに耐える事が出来るだけの魔法だ。 攻撃が当たれば傷が付くし、大量の血が出れば死ぬこともある。 でも痛みだけは軽減してくれる魔法だ。


 そんな魔法を使って、俺は隊長の攻撃の中へとあえて飛び込んだ。 


 ガッ ザンッ ザシュッ シュバッ!


 俺の体に無数の斬撃が与えられていく。 かなり痛いが耐えられ無い程じゃない。 このまま耐え続け、アーモンが動きだす瞬間を狙うとしよう。


「アンリさああああああああああああああん!」


 来た! 俺よりもアーモンを優先してぶちのめしている一瞬。 俺は隊長の背中をドンと押した。


「おおおおわあああああああッ!」


 いきなり押し倒された隊長は、倒れたアーモンへと倒れこんだ。 それが隊長の最後だった。 倒れて居たアーモンは隊長をガッチリと掴み、満足そうにしている。


「もう放しませんよアンリさん。 この俺の腕の中で眠ってください。」


「おまッ放せええええええええええええええ! この変態があああああ、やめろこの、口を近づけるな! うおああああああああああああああああ!」


「てぃ!」




 俺はその二人を舞台上から蹴り捨て、二人共が場外に落ちて行った。 ふう、虚しい勝利だった。

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