二刀の転生剣士ルイン=ハルト~聖剣抜いちゃった編~

英知ケイ

はじまり

 異世界マギアムンド。

 それは剣と魔法の世界。


 もう少しかみ砕くと、中世ヨーロッパ風のお城や建物が建ち並び、これまた中世ヨーロッパ風の王と騎士が国を収める、中世ヨーロッパ風の世界だ。国々はその剣を以て覇権を争っていた。まったく便利な言葉である、中世ヨーロッパ風。


 ……しかし、そんなことをしている場合では無くなったのだ。


 どこかにあった封印が解かれたのか、それとも海を越えた向こうからやってきたのか、妖魔がマギアムンドの全土に現れた。


 妖魔とは、単純に化け物の類である。

 竜型、人間型、獣型、不定形型とその形は様々であり、また人々に与える被害も様々だった。


 各国は休戦協定を結ぶとともに、各国のよりすぐりの精鋭を集めた聖騎士隊を編成し、その対応にあたった。また、それまで忌むべきものとされていた魔法も解禁し、剣と魔法という人に与えられた力の全てを以て妖魔を駆逐することを目指した。


 そして、少し前に聖騎士隊と妖魔との一大決戦が行われ、妖魔の首領バニョラスが討ち取られることで、一時的に事態は沈静化し、現在に至る。

 だが、首領をやられはしたものの、なおも妖魔の存在は健在であり、各地でいまだに妖魔の被害は相次いでいる。


 聖騎士達は各地でその対応に追われていた。


――――――――――――


 ハルトとルインは旅をしていた。

 その目的は……ちょっと後にしようか。


 今は二人、川で体を洗っている。


 異世界マギアムンドにお湯を桶にためて入る、いわゆるお風呂がないことはないのだけれど、あまり一般的ではなく、また青空の下旅をしている2人にとっては、手軽な身を清める手段なのである。


 ひととおり自分の体を洗った後、ハルトはルインの方をじっと見ていた。それに気がついたルインが尋ねる。


「ハルト、僕の顔に何かついてる?……も、もしかして妖魔とか?」

「いや……お前、背中洗うの、まだ苦手なんだな、って思ってな」


 そうなのだ。さきほどからルインは一生懸命背中を洗っているのだが、背中の真ん中あたりが上手く洗えないのが気持ち悪いらしく、何度も何度も試みて失敗している。


「見てられんから俺が洗ってやろうか?」

「そんなことしなくていいよ、ハルト。男同士で気持ち悪いし」

「男同士だから問題ないんだろう?」

「あるよっ、大ありだよっ!」


 ルインは自覚していた。


 男らしく野生を感じさせる筋骨隆々な短髪のハルトに比べ、自分の貧相な細身の、男にしては小柄で長髪な、街で一目見られて女性ではないかと疑われ二目見られるその風貌を。


 ハルトがそういう類の好みの持ち主でないとは思っている、おそらくそうだと思いたいのだが、そういったことを考えていないからか、意識してしまっているルインに対し、とても直接的な台詞をよく言ってくるのが、ルインの困りごとだった。


 だが、こんなことでハルトの機嫌を損ねるわけにはいかない。ただでさえ、自分の妄想の可能性もあるのだ。ルインがそんなことで今日も頭を悩ませていると、丁度都合が良いことに、いつもの使いがやってきた。


 バサッ、と音をさせて、川の畔の木の枝にとまる。

 鳥だ。

 その首のところに何やら丸めた紙のようなものがくくりつけられている。


 鳥は口を開いて囀った。


「ルイン=ハルトサマ、ルイン=ハルトサマ……」

「メンサヘロか……やれやれ、また仕事か、こちらは呪いの解き方を探して大陸全土を回るのに忙しいってのにな」


 ハルトが頭をかきながらごちる。


 メンサヘロとは、聖騎士隊の伝令を務める鳥である。


 マギアムンドの全土に散らばる騎士達に、指令を伝えるために用意されており、魔力の加護を受けているため妖魔に襲われることはない。

「どれどれ……何?」


 メンサヘロの首にくくりつけられている指令書を開いた瞬間にハルトが顔色を変えた。


「どうしたのさ、ハルト?」


 気になったルインが尋ねる。


「見てみろ、これを」


 ハルトは、ルインの目の前に指令書を広げて見せた。

 そこにはこう書いてあった。


 *************

 バルサローナの街のあたりで人心を惑わす願いを叶える石

 至急調査されたし

 *************

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