最弱学校の異端児「ルデア」
烏猫秋
第1話
『発端』
2050年、ジュノー(日本特別プロジェクト機関)によって、体内へ特殊なウイルス(SV)を注入することによる、VP(Virus Player)の生成に成功。ジュノーは、2051年世界にこのことを発表。
それを聞いた世界の国々は、第二次世界大戦以来の戦争が起きかねないと懸念した。そして、世界の多くの国が、日本にSVの製作方法を輸入した。
この頃から、VPが国家戦力であることが世界中で認められ、VPは国家の管理下に置かれるようになった。
しかしながら、この時の政府はまだ気づいていなかった。
成功の光には影が生まれることを。
『家族を守れなかった』
あれは、俺が5歳の頃だった。いつものように、朝から夕方まで外で友達の紗綾と遊んでいた。
「楓守、時間大丈夫?」
「うん、まだ大丈夫だよ。明るいし」
紗綾からの質問に、空を見上げて質問の答えを返す。
「じゃあ、あと一回かけっこしたら一緒に帰ろ」
「うん、分かった」
かけっこの結果は、もちろん俺の完敗だ。いつも紗綾には敵わない。何か手品でも使っているのか、などと思ってしまうが、それは失礼だ。なので俺はいつも、気にせず楽しんでいる。
「もう、暗くなってきたし帰ろっか」
「そうだな。帰るか」
紗綾の後ろに俺が付いて帰る。これがいつものスタイルだ。帰っている最中は、今日の話や明日の話をして帰る。
歩いて三分ほどで、一軒家の住宅街が見えてくる。俺の家と紗綾の家は、道路を挟んで向かい合っている。
「じゃあ、また明日ー」
「「バイバーイ」」
紗綾に別れの挨拶をして、玄関を開ける。
「ただいまー」
「・・・・・」
あれ?いないのかな。
「ただいまー」
「・・・・・」
居ないはずないのにな。可笑しいな。
俺は、少し恐怖を抱きながらリビングの扉を開ける。
えっ?
リビングの風景は、とても殺風景なものだった。
血生臭い臭いが鼻を衝く。
賑やかで楽しいリビングが、壊されていく。いつも両親と一緒にテレビを見ていたソファには、血だらけになった両親が投げ捨てられたかのように、転がっていた。
「父さん、母さん?・・・」
「・・・・・」
きつねにつままれたような表情をして、絶望のあまりに地面に膝をつく。蕭条な雰囲気になったリビングには、今は俺しかいない。
そっと俺は呟いた。
「この世界は理不尽だ」
『春は物語の始まり』
俺は、小学校卒業と共にこの地を去った。その理由は、修行を積むためだ。もちろん生半可な気持ちではなく、しっかり臍は固めている。俺は、高校入学までの約3年間日本VP序列2位の砂川メイの下で、修行を積むことに決めた。
まあ、初めてメイに会ったときは驚いたものだ。日本VP序列2位の人が、修行をつけてくれると聞いたときはとても光栄だ思ったが、まさか20歳だとは思わなかったのだから。さらに、容姿端麗で長い金髪をポニーテールで結っていて、俺の好みの女性像に限りなく近かったからだ。
本当にあの時は、ある意味ヤバかった。
メイは、TP(Triple Player)、つまり3つの能力を持っている。俺が知っているのは「天走」「高速演算」の2つだけだが。メイに比べて俺は、DP(Double Player)だ。能力は「未来視」と「活性化」の2つだ。しかし、俺自身思っていることが、1つだけある。
活性化はせこくね?
メイの「天走」は、足が強化されて音速の速さで走ることができるが、俺の「活性化」は、体のどこの部分でも強化することができる。当然のようにとても使いにくいが。
閑話休題。
あっという間に時は過ぎるものだ。メイとの修行生活は、色んな齟齬があり逆に楽しかったが、10年前のことは愁眉を開くことはない。
俺が入学する高校は、俺がVPになったその時から決まっている。羽愞中等特別教育学校、それが俺の入学する高校だ。まあ、入学といっても俺の場合は途中入学になるが。その理由は、知っての通り中学部と高等部が併合した特別教育学校だからだ。
たぶん俺以外は、中学部から上がってきてるんじゃないのか。
途中入学と聞いたら、試験をする必要があるんじゃないかと思っていたが、その必要はないと羽愞中等特別教育学校の校長に言われた。
メイの奴が何かしたのか?
俺側からしたら、楽なので何の問題はないが、俺自身の力が学校内でどれくらいなのかが分からないのは、嫌だ。
日本には、VPのための中等特別教育学校が2校ある。それは、我が校と国上中等特別教育学校の2校だ。しかし、この2校には圧倒的な差がある。それは、VP個人個人の戦闘力だ。我が校を10とするなら、国上中等特別教育学校の方は30だ。つまり、3倍もの差がある。なので、例年行われる夏のトーナメント戦では、いつも我が校は負けている。悔しいがこれは事実として受け止めるしかない。
入学式当日、俺は入学式が始まる前に学校の下見をしたいと思っていたので、早くに家を出た。学校の前に着くと俺は目を見開いた。
「こんなに大きいのか」
俺は、こんなに大きな建物を見たことはなかった。メイと修行をしていた時には、普通の一軒家に住んでいたし。
初めて見た学校に圧倒されながらも、俺は校内へと足を進めた。校舎の案内図を見ながら初めに訪れたのは、組み分けの表が貼られているアリーナの前だ。アリーナの近くに近づいたとき、少しアリーナの中が見えたが、あれは大きすぎる。
俺の考え的には、5000人は収納できそうな大きさだった。
組み分けの表を見ると、A組とB組があり、俺はB組だった。
「1学年48人、1クラス24人か」
ていうかVPの人数が意外と少ないな。テレビのニュースとかを見ても、まったくVPの話が出てこないし。
まさか、国がVPの存在を隠蔽している?そんなことやって何の意味がある?
「だめだだめだ。また独り言だ」
俺の悪い性格だ。疑問に思ったら、すぐにほかの考えを止めそのことに集中してしまう。
治さないと。
「あのー、すいません」
⁉
俺の後ろから声が掛かる。
俺は無意識に危険を感じる。しかし、声が女性のものだったのですぐに心を落ち着かせる。
「はい、どうしました?」
後ろに振り向き、平然を装う。
冷静になれ。冷静になれ。呪文のように心の中で唱える。
「あなたも私と同じ高等部1年生ですか?」
この質問の時に俺は初めて顔を上げる。
その時、何かを感じた。俺に似た何かを。
身長は、俺の5センチ位低くて、顔は整っている。髪の色は、俺と同じ白色。いや、違うな。銀髪だな。目の色は、きれいに透き通った緑色をしていた。
素直にかわいい。うん、メイよりかわいい。
正直今まで15年間、メイよりかわいい女性は見たことなかった。
これは驚き。パチパチパチ。そろそろ現実に戻ろうか。
「はい、そうです」
俺の答えを聞くと彼女は、少し嬉しそうな表情を見せた。
「なら、一緒に校舎の中を見て回りませんか?」
チャンス到来。即返事。
「もちろん。けど、校舎内の構図を知らないってことは君も途中入学?」
「はい、少し事情がありまして」
暗い表情を彼女が見せる。
俺は、禁忌に踏み行った。早く話題転換しないと。
「校舎見に行こう」
これでいけるか。どうだ。
「はい、行きましょう」
彼女の顔に光が戻る。
危なかったぜ。深呼吸、深呼吸。
そうして彼女と一緒に校舎を見て回った。
彼女の名前は、橋本ジェル。イギリス人と日本人のハーフだそうだ。クラスは、俺と同じB組だ。
やったぜ!
今となっては、ジェリー、楓守と呼び合う仲になっている。まあ、初めは「古谷さん」って呼ばれていたけど、名字で呼ばれるのは嫌なので、今は楓守と呼んでもらっている。
「ジェリー、そろそろ時間」
俺は、自分の脳内時計を駆使して今の時間を予測した。
「そうだね。アリーナ行こう」
ちなみに、ジェリーは敬語ではなく普通に話してくれるようになった。
俺とジェリーは、一緒にアリーナに向かう。アリーナに着いて中に入ると、抱擁感を感じた。
「楓守、こっちがB組だよ」
どうやら、A組の席とB組の席は、分けられているようだ。俺たちは、B組の最後列に腰を下ろした。
「では、10時になりましたので、第15回羽愞中等特別教育学校、高等部の入学式を始めます」
入学式開始のアナウンスが流れる。
「初めに、学校長挨拶」
1度見たことはあるが、やはり上に立つものとしての風格を、遠くても感じる。
「皆さん、こんにちは。この度は・・・・・・・・・・・」
どこの学校でも同じだが、やはり校長先生の話は長い。
「生徒代表、生徒会会長、猫石歌恋」
「はい!」
意気軒昂とした返事が、アリーナに響く。
生徒会長ってことは、この学校で一番強いってことだよな。しっかり見とかないと。
「入学生徒の皆さん、こんにちは。この学校の生徒会会長を務めている、猫石歌恋と申します。皆さんもお分かりの通り、この学校は特別です。この学校の校訓は「一念、天に通ず」です。これは、何事も成し遂げようとする堅い意志があれば、何事も成し遂げることができるという意味です。この学校の生徒は皆、この校訓を誇りにもって日々鍛錬しています。皆さんは、若い種です。早くに芽を出せるように努力を積んでください」
その後も、様々な人の挨拶が続き、入学式が終わりを迎えた。
『空谷の跫音』
入学式が終わった俺たちは、各クラスに分かれてHRをするために1-Bの教室に向かった。
「前に座席表が表示されてるよ」
ジェリーに言われて教室の前のデジタル液晶の画面を見ると、4人で1机のまとまりが6つあり、俺は最後列の机の、ジェリーの隣だった。
「また一緒だね。嬉しいよ」
「ありがと。あと2人はどんな人なのかな?」
「さあ、名前からして1人が日本人もう1人が外国人だね」
画面を見ると俺と同じ机の人は「坂口紗綾」「シビル・トクヴィル」と表示されていた。
どっちも女の子だよな。孤立しそうな予感がする。
自分の席を確認して、席に着く。
しばらくして、時間は11時10分。
チャイムが響く。
「キーンコーンカーンコーン」
授業開始の合図だよな。
授業開始のチャイムと同時に、先生らしき人物が教室の前にある教卓に立った。
クラスにピリッとした空気が流れる。
「そう緊張するな。私はこのクラスの担任、砂川ミクだ。これからよろしく。お前らも知っての通り先生の姉は、日本VP序列2位の化け物だ。まあ、姉の自慢をしても仕方がないか。とりあえず、まだお前らはこのクラスの全員と仲良くなっていないな。というわけで自己紹介をしてもらう。席順でやってくれ」
教室に入ってきた人物は、きれいな顔立ちをしていて、腰まで伸びている長い金髪を揺らしている。目は、蒼く澄んでいて見るものをうっとりさせる。
クラスの9割の男子がミク先生に見とれて、恍惚な表情を浮かべる。
これは予想外。メイには妹がいるとは聞いていたが、この学校の講師だとは聞いてないぞ。あと、妹さんもメイと同じでかわいいな。
おっと危ない危ない。鼻の下を伸ばしてはいけない。俺の隣には、解語の花ことジェリーが居るのだから。
「先生、一目惚れしました!」「結婚してください!」「先生可愛すぎ」
B組の男子群が、ミク先生に猛烈アタックする。
「おい、やめろ。先生はそういうの嫌いだ。早く自己紹介を進めてくれ」
男子群のアタックを見事に受け流す。
グッジョブ、先生。
「佐藤大介です。・・・・・・・・」
「飛騨まりです。・・・・・・・・」
自己紹介が次々と進んでいく。
「次は、そこの後ろの机の所だ」
1クラス24人しか居ないので、すぐに自分たちの所に回ってきた。
「シビル・トクヴィルです。能力は「隆起」です。よろしくお願いします」
紫色の髪に、緑の目に、きれいな肌。男子群が盛り上がる。
「坂口紗綾です。能力は「アクセル」です。クラスを影から支えれたらと思っています。よろしくお願いします」
黒い髪に赤い目。10人中8人が振り向く、美人だ。
俺の脳裏が少し動く。どこかで見たような、見てないような。
「橋本ジェルです。能力は「ハイド」です。皆さん仲良くしてください」
長い銀髪を流して、美しい緑色の目が輝く。
やはり、美人だ。
ジェリーは、10人中15人が振り向く美少女だ。
「古谷楓守です。の・・・・・」
「楓守⁉楓守なの⁉」
自己紹介をしようとしたら、俺の隣の隣に座っている坂口紗綾さんから大きな声が掛かった。
えっ?ちょっと待って。
あ!あ!まさか、小さい時一緒に遊んでた紗綾⁉
「紗綾、なのか?」
クラスの雰囲気が俺たちを見守る感じになってる。
止めてくれー。
「うん!紗綾だよ。覚えてるよね。何でいきなり居なくなっちゃったの?」
小学校卒業した瞬間に姿を見せなくなったのは、さすがに悪かったかな。
「ごめん、あの時は事情があってさ」
ていうか、さっきからジェリーが俺の顔をガン見してくるんですけど。
「じ~~~~~~~」
「事情って何?私たちの仲でしょ。・・・・・・」
紗綾が「この薄情もの!」って感じで話してくるから、何か話しにくいんだが。
「はいはい!そこまで!感動の再会の話は後で!」
グッジョブ、先生。
「「ごめんなさい」」
一応2人で謝っておく。すると、クラスのみんなが楽しく笑った。
「紗綾、後でな」
「うん」
「古谷、自己紹介の続き」
「はい。古谷楓守です。能力は「未来視」と「活性化」です。よろしくお願いします」
クラスにどよめきが生まれる。「あいつDPなの⁉」「どうせ大したことねえだろ」「小賢しい」
DPって珍しいんだ。ずっとメイといたから、そこの感覚が狂ってたな。
「次はそこの机だ」
「三垣宙です。能力は「浮遊」です。仲良くよろしく」
浮遊か、ちょっと危険だな。
「鳥羽哉人だ。能力は「啀眦」。よろしく」
「戸張彰真で~す。能力は「恍惚」で~す。よろしくで~す」
確かにイケメンと認めるけど、喋り方が気持ち悪い、正直に。
しかし、クラスの女子が「キャー、彰真様~」などと言って騒いでいる。
これが奴の能力なのか?
「金剛怪力だ!能力は「心身硬化」!。お前らは、俺に付いてこい!」
なんか自意識過剰な奴きた。めんどくさそう。
その後も、自己紹介が続き24人全員が自己紹介を終えた。
「以上で自己紹介は終わりだ。次の時間は、10分後だ。3分前には席に着いておけよ」
「キーンコーンカーンコーン」
授業終了のチャイムが校内に響く。
『この学校は、かなりヤバい』
休み時間は、紗綾とかなり話が盛り上がった。ジェリーは、トクヴィルさんと母国が同じだったようで、話が盛り上がったっそうだ。
「キーンコーンカーンコーン」
「この時間は、この学校の説明をしたいと思う。これから大事になってくるからしっかり聞いておくように」
実は俺は、この学校のことをメイからちょくちょく聞いていたりする。だからと言って、聞かない理由にはならないよな。しっかり聞いておこう。
教室前のデジタル液晶に、文字が表示される。
「まずは、この学校は何の為に作られたのかだ。それは「アグロ・キュート」を駆逐するためだ。毎年、奴らは繁殖を続けて、我々VPも手が付かなくなっている。そこで、お前らを教育して協力して貰おうというわけだ」
アグロ・キュートの被害は、ニュースとかでよく耳にしてたけど、VPが対抗していたのか。
けど、アグロ・キュートってどんな生物なんだろ?
「アグロ・キュートの説明については、今度の授業で説明する。それで、この学校のカリキュラムについてだが・・・・・・・・」
淡々と学校の説明が進んでいく。
だいたいメイから聞いていたことと同じだな。
「最後は、この学校の学年ごとに存在する序列について説明しよう」
クラスのみんなからいろいろな声が上がる。「序列ってなんだ?」「序列イコール権力だ。危険なことになりそうだ」
これは、初めて聞いたぞ。序列1位になったら何があるんだろう?
「序列とは簡単に言うと、生徒間の順位のようなものだ。序列の決まり方は、様々だが大きくなってくるのが、夏の国上中等特別教育学校と行われるトーナメント戦だ。しかし、このトーナメント戦は高等部の1年生から3年生が参加するから、1年生が優勝を目指すのはまず無理だろう。これで学校の説明は終わりだ。次の時間は、クラス内での対人戦トーナメントを行う。3分前には第2体育館に集合するように」
「キーンコーンカーンコーン」
第2体育館は、ジェリーと見に行った所だな。机ごとで分けられてるし、4人で行くか。男、俺だけだけど。
『よく泳ぐものは溺れる』
第2体育館には、4人で向かった。
トクヴィルさんとはまだ話せていないが、この授業が終わったら昼食の時間があるし、その時に話せたらいいな。
「みんな集まったな。この時間は、言った通り個人トーナメント戦を行う。まだ、先生もみんなの実力を知らないからな。まあ、強いて先生が実力を知っている奴を上げるとしたら、古谷楓守だな」
ちょっと待て、うん。ちょっと待とうか。おい、メイの奴何言ってくれてるんだ。俺自身、まだこの中で自分がどれ位なのか分かってないのに、余計なことしたな。
「えっ、先生と楓守君ってどんな関係なの?まさか!」「あいつ、抜け駆けしやがったな。後で絞めるか」「ミク先生は、僕のものだ」など、危険な言葉ががいろいろと上がる。
「ちょっと待てお前ら。勘違いしてるぞ。私は古谷とは関係ない。関係があるのは、私の姉の方だ」
おい!それ言ったらもっとみんなが混乱するから!
「楓守、砂川メイさんと関係があるの?」
ジェリーまで話に入ってきたよ。先生、マジでもう止めてくれ。
「それは後で話すよ」
優しくジェリーに対応する。
俺は紳士でないといけない。そうだ、怒ってはいけない。
「先生、早く始めてもらっていいですか?体がなまっちまいそうです」
誰だ?あっ、金剛君だ。しかし、この場であの声を上げるってことは、かなり肝が据わっているな。普通に尊敬する。まあ、ここであえて金剛君の体を言葉で表すとしたら、ゴリゴリのゴリかな。
「そうだな。私が余計なことを言ったせいだな。今から前にトーナメント戦の表を貼るから、見に来てくれ」
体育館の壁に、大きなトーナメント表が貼りだされる。みんな確認しに行く。
俺は、どこかな。どこかな。
あっ、あった。ってえ⁉何で決勝の所に俺がもういるの?シードにも程があるだろ。
「トーナメント表をみた奴は分かると思うが、古谷は決勝からのスタートになっている。これは、私が決めた決定事項だ。古谷が憎いのなら、決勝まで上がってこい」
先生マジでマジで止めて。クラスのみんなを煽るのは止めた方がいいよ、教員としてね。
「ふざけんなよ。賄賂か?」「不正だろ。ゴミがよぉ」「これは、あいつの能力だ!みんな、気をつけろ!」などなど、たくさんの俺に向ける悪口が、体育館に響く。
中には、俺の能力って言う奴もいたけど、自己紹介の時に俺能力言ったよな!
「はいはい止めろお前ら。お前らは本当に何も分かっていない。この学校に序列が存在することは話したな。じゃあ、序列があるってことは、この学校は完全実力至上主義ってことなんだよ。弱いものは、強いものに食われ、強いものは弱いものに食われないように努力をする。私が知る限り、今この中で最も序列1位に近い存在は、古谷だ。分かったな。話すだけ時間の無駄だ。第1回戦を始める。古谷と金剛以外は、対戦者と向き合え」
古谷と金剛以外ってことは、金剛は一回戦無しってことだよな。戦ってみたくなってきた。
「全員向き合ったな。では、第1回戦を始める。3・2・1始め!!」
何か傍観してるのが、申し訳なく思っちゃうな。とにかく最初は、ジェリーと紗綾とトクヴィルさんを応援しよう。
「お前が砂川メイの弟子か。俺は絶対に決勝まで行く。そしてお前に勝って恥をかかせてやる。なんせ俺は子供のころから喧嘩で負けたことがないからな」
⁉
何でこいつ俺がメイの弟子ってこと知ってるんだ。何かの繋がりでもあるのか?
ていうか喧嘩と今回の試合は、訳が違うだろ。まあ、金剛君とは戦いたいと思ってたし、いい機会かな。
「もし、金剛君が決勝に来たら頑張って負けないようにするよ」
なんせ何回も言うが、俺は自分がこの中でどれ位の強さなのかが分かっていない。だから、早く誰とでもいいから戦いたい。
さっきから、ちょくちょく試合に目を向けているが、レベル低くないか?
すまないが、少し言わせてもらう。
攻撃のスピード遅い。
「何だ。雑魚ばっかじゃねえか。これは決勝進出決定みたいなもんだな。ハッハッハッハ」
どれだけ自負しているんだ。自分の実力を。
2回戦が見ものだな。
「そこまで!試合終了!この時点で優勢に立っている方が勝利だ」
俺が見る限り、ジェリーは勝っているように見えたが。
「トーナメント表に結果を反映するまで休憩だ」
ジェリー、紗綾、トクヴィルさんが俺の方に来る。
「勝ったよ~。やっぱり「アクセル」は強い!」
自慢げに結果を初めに伝えたのは、紗綾だ。
小さい頃から俺と遊んでたもんな。
「2回戦もその調子で頑張れよ」
「当然だよ」
「楓守、私も勝ったよ。「ハイド」で姿隠したらすぐに勝っちゃった。それで、トクヴィルはどうだった?」
「私は、負けてしまいました。まだまだ努力が足りないようです」
少し暗い表情をして、トクヴィルさんが答える。
俺からしたらラッキーかな。トクヴィルさんとは全然喋れてなかったし、この機会に仲良くなっておこう。
「トーナメント戦表の反映が終わった。2回戦目の相手を確認して、向き合って準備しろ」
「じゃあ、行ってくるね」
「おう、頑張って来いよ~」
ジェリーと紗綾がこちらに手を振って走って行くので、俺とトクヴィルさんも手を振り返す。
「それでは2回戦目を始める。3・2・1始め!!」
みんなが一斉に地面を蹴る音がする。
激しいな~。怖いです。
「トクヴィルさん?」
「はい」
「トクヴィルさんって呼びにくいから、何て呼んだらいいかな?」
「それだったら、シビーって呼んでください。楓守君がジェルさんをジェリーと呼ぶように、私のこともシビーと呼んでください」
真面目に話したの初めてだけど、めっちゃ話しやすい。性格も良さそうだし、俺、あの机で良かった~。
「シビーの能力って「隆起」だよね?」
「はい」
「ということは、対人戦には向いていない能力だな。つまり、シビーの能力は、サポート能力って訳だ」
「サポートですか」
「うん。「隆起」で攻撃することは難しい。だから、仲間の足場を作ったり、敵となるものの足場を不安定にさせたり。そういう能力の使い方が、最も向いてると思うよ」
「楓守君はとても賢いですね。私の能力を聞いただけで、そこまで考えてくれた人は、楓守君が初めてです」
「ありがとう。これからも仲良くしてね」
「もちろんです!」
嬉しそうに笑った顔、かわいいな。
だめだだめだ。そろそろ試合に集中するか。
金剛はどこだ?
あっ、いたけどあれどうなってるんだ?金剛の相手が倒れてるように見えるんだが。
もし、金剛君が能力で相手をノックアウトさせたんだとしたら、危険すぎるぞあいつ。
紗綾は見つけたけど、劣勢そうだな。男子対女子は、さすがにパワー勝負になるか。
「そこまで!試合終了!この時点で優勢の方が勝ちだ」
紗綾は負けちゃったかな。残念。
「さっきと同じだ。各自休憩をとれ」
「負けっちゃったよ~」
泣きべそをかきながらこちらに走ってきたのは、紗綾だ。
「これからだって。紗綾は強いから」
紗綾の涙が引く。
「うん、ありがと」
「楓守、私はきちんと勝ってきたよ」
「ジェリーは強いな。何かやってたのか?」
「うん。小さい頃から色んな習い事をしてたから、いつの間にか強くなってた」
「そうだったんだ。ジェリーは、お嬢様なんだな」
「普通だって」
恥ずかしそうにジェリーが笑う。
一応忠告した方がいいよな。
「ジェリー」
「何?」
「多分、次の相手は金剛君だ。試合を見る限り、彼はかなりのパワーアタッカーだ。けがをしないように注意した方がいい」
「ありがとう。忠告感謝するわ」
「休憩終了。次は準決勝だ。この試合に勝ったものが、古谷と戦える。お前ら、しっかり見ておくんだぞ。金剛と橋本、向き合って準備をしろ」
緊張感を生に感じる。
「始めるぞ。3・2・1始め!!」
試合開始直後、ジェリーが能力「ハイド」で姿をくらます。
「ちっ。小賢しい能力だなぁ」
舌打ちをして、ポケットに手を入れる。
何だ、あの余裕っぷり。どんだけ自信があるんだ?
そこで、ハイドかを解除して奇襲をかけるように、金剛の背後からジェリーが蹴りを入れる。
「これでも、くらえ!」
しかし、金剛はその場から一歩も動いてなかった。つまり、ジェリーの渾身の蹴りを、足の座標を変えることなく、受けきったのだ。
「⁉」
⁉
何て防御力だ。これが、金剛君の能力「心身硬化」なのか⁉
それにしても、やけに能力の使い方に慣れている気がする。まさか、俺と同じように誰かに弟子入りしていたのか?
「その程度か?なら、こちらから終わらせるか」
ヤバい。ここで俺が出たら止められるかもしれないが、その時点でこのトーナメント戦にはもう出れなくなる。
ジェリー、頑張ってくれ!
「これで死ねや!!」
心身硬化の能力で、鉄のように固くなった拳が、ジェリーに降りかかる。が、結果は空振りに終わった。ギリギリの所で、ジェリーが「ハイド」を使って逃げたのだ。
逆転してくれ。
「ちょこまか逃げてんじゃねえぞ。お前の能力の内容はだいたい分かってんだよ。お前は、最大12秒しか姿を隠すことができない」
金剛君が言っていることが本当だったとしたら、彼はかなり強いぞ。あの短い時間で、相手の能力の詳細を推測している。
俺でもまだ分かっていなかったのに⁉
「これはどうだ!」
ジェリーの存在を忘れそうになった所の、ベストタイミングでジェリーが金剛君の目を突くように、彼の目をめがけて指を開いていた。
ジェリー、けっこうエグイことするな。けど、これはいけるんじゃないか。
ジェリーの指が彼の目に、
「届いていない⁉」
傍観している全員が、唖然とした表情で驚く。
「能力の部分応用って知ってるか?まあ、弱い奴には分からないだろうな。フッ。自分の能力を1部分に集中させることで、その部分を超強化することができるんだよ」
俺はメイから教わっているから知っていたが、まだ授業もまともに始まっていないのになぜ彼が能力の部分応用を知っている⁉
ジェリーは、驚きのあまり彼の前で立ちすくんでしまった。
「終わりだ」
ジェリーが傷ついてしまう。助けに行かないと、と思っていてもあまりの驚きに足が動かない。
彼の手が上がる。
動けよ!俺の足動けよ!
そして、彼の手がジェリーの柔肌を傷つけようとするその時だった。
1つの影が2人の間に割り行った。
誰だ⁉
「試合の結果はもう決まった。終了だ、金剛」
以外の極み。あの2人の間に割って入ったのは、先生だった。
「何でだよ、先生。最後までやらせてくれよ」
「先生は、終了と言ったんだ。止めろ」
金剛を威圧するように、先生が試合を半強制的に終了させる。
「分かりましたよ。次はあいつと戦えるんだろ、ならこれは前菜のようなもんだ」
「あんたさっきから・・・・・・・・・」
「紗綾、だめだ」
紗綾が、生意気を言った彼に飛びかかろうとするのを、俺はすぐに止める。
「このけりは俺がしっかりつける。紗綾はそれを見ていてくれ」
「楓守はあいつに勝てるの?」
「やってみないと分かんないかな」
「金剛と古谷は決勝の準備をしろ。5分後、すぐに始める」
「「ジェリー!!」」
紗綾とシビーがジェリーのもとに走って行く。
後に続いて俺もすぐに行く。
「ジェリー、大丈夫?」
心配そうにシビーが尋ねる。
「私、何にもできなかった。私、私・・・・・」
勝負に負けたというよりも、自分が何にもできなかったという情けなさに、ジェリーは自分を責めて涙を流す。
「大丈夫、大丈夫」
紗綾がジェリーの背中を優しく擦る。
「ヒック、ヒック・・・・・」
「ジェリー、決勝戦ちゃんと見ててくれよ。俺がちゃんとけりつけるから」
「ヒック、うん・・」
よし、これで俺の心は定まった。金剛君は、強いけど僕には及ばないってことをここで証明する。
「決勝戦を開始する。2人とも準備はいいか?」
「はい!」
「おう!」
いよいよ決勝戦の始まりだ。
クラスのみんなが見ている。さらにこの学校の教員が何名か見に来ている。
緊張させるなよ。先生がわざと呼んだとか、まあないよな。
さぁて、やっとあいつの実力が見れるぜ。まあ、このクラスの実力から行くとあいつも雑魚だろうけどよ。つまり、勝負はもう決まっているってことだよ。残念だったな。
金剛君、彼の実力はまだあれだけじゃないと俺は踏んでいる。俺の実力全部出すか。メイの名前も汚せないしな。
「それではこれより決勝戦を始める!」
体育館に居る人全員の、息を吞む音が聞こえる。
「3・2・1始め!!」
まずははじめに能力「未来視」で未来の線を探す。
俺の眼は、猩々緋から熨斗目花色に形質を変える。
しかし、彼はこの隙を逃さないだろうから、ここはⅮP特有のテクニック、能力の多重使用を使って、活性化を腕にかけて筋肉を増幅させたまま、未来視で未来の線を探す。
「隙だらけなんだよ!!」
金剛君は、傍から見たら無防備な俺に向かって能力「心身硬化」で固めた拳を俺に振るった。
「ドスッ」
大型トラックが、人間をはねた時のような鈍い音が体育館に響く。
「「「楓守(君)!!」」」
何これ?この軽い攻撃は。いつもメイからスパルタ軍みたいな修行受けてたからかな?
正直、軽すぎて攻撃って気づいたの今だわ。
「早く動けよ。まさか動いたまま死んでんのか?」
すまない、金剛君。この試合はジェリーのこともあるし、勝たせてもらう。
「おーい、おーい」
「黙れよ、雑魚が」
今まで我慢してきた怒りが爆発する。
⁉
体育館の空気が一瞬にして変わる。
「何なんだよ、その眼は」
怯えた表情で彼が足を後ろに引く。
「もう未来(さき)は見えたよ。試合終了だ」
全身に活性化をかける。
これをマスターするのに5か月かかったからなぁ。大変だったよ本当に。
俺は、強化された足で地面を蹴り、一気に彼との間を詰める。その間、まさに0.2秒。
さらに、強化された拳で彼の顔めがけて振り上げる。
「ハアァァァァァァァァ!!!!!」
「はい!そこまで!試合終了!」
俺はすぐに強化を解き、もとに戻る。
まあ言うと思ったしな。正直待ってた。
助かった。人間は傷つけたくないから。
「結果は分かっていたが、さすがだな。古谷」
あざっす、先生。
「「「楓守(君)!!!」」」
3人が俺の方に走って飛びついてくる。
「ちょっと、俺は全然大丈夫だから」
恥ずかしいからマジで中断してくれ。
あと女性特有の甘い匂いがするから、俺の煩悩が解放する前に離れてくれ。
「お前ら、離れてやれ」
「「「はい!!!」」
3人が俺から離れる。
「古谷、お前はなんでそんなに強いんだ。俺はあんなに努力してきたのに」
ビックリした!金剛君か。いきなり喋りかけるのは禁止!
「それは、単純に金剛君の努力よりも俺の努力の方が多かったからじゃないの?」
「悔しいや。お前には負けたくなかったわ」
以外に素直だな。本当に以外。
「今日はまだ入学初日だよ。これからじゃん。同じクラスなんだからさあ、これから一緒に切磋琢磨しようよ」
「ありがとうございます!!これからは兄貴って呼ばせてもらいます!!」
えっ⁉
唖然なんだが。性格の変化早すぎだろ。
クラスのみんなもえっ⁉って顔で見てるよ。
「それは恥ずかしいから」
「お願いします!兄貴!!」
土下座するのは卑怯だよ、金剛君。
「分かったから、土下座は止めて。クラスのみんなも見てるんだしさ」
「光栄なお言葉!これからよろしくお願いします!!」
「良かったじゃん楓守。子分ができてさ」
ジェリーが冷やかしに来る。
ジェリーの性格も変わってる⁉
「お前ら何時までお喋りしてるんだ。もうすぐチャイムが鳴るから各自昼食摂っとけよ。昼からの授業は、アグロ・キュートの生態説明だ。授業終了、解散だ」
先生はあっという間に去ってしまう。
疲れた。4人で食堂に行くか。
『談笑する暇もないです』
食堂はジェリーと初めに見に行ったけど、やっぱりでかい。
これはあれかな?中等教育学校だからかな?ま、いっか。
「楓守君、早く選んで行きましょう。ジェリーさんと紗綾さんが待ってます」
この食堂は、シビーが言ったようにバイキング形式だ。なので、自分の好きなものを好きなだけとることができる。
「うん、すぐ選ぶよ」
急がないと。昼休みは40分間だから、あと30分といったところか。
トーナメント戦にかなり時間とられたからな。
「こういう時は、自分の好きなものを選ぶに限るな」
俺はちゃっちゃと自分の好きなスイーツを皿に取り、シビーと一緒に足早に彼女たちの席に向かう。
「すまん、遅れた。いっぱいあってさ」
謝礼をしながら席に着く。
「それは別にいいんだけど、楓守のその食事は何?」
ジェリー君よ、愚問だね。
「俺の好きなスイーツだけど」
「だからそれが問題でしょうが!何で女の子みたいな食事に・・・・。まあ、しょうがないか。楓守が好きな食べ物なんだし」
ジェリーがため息をつく。
「早く食事にしよ」
紗綾が気を利かせてくれる。
ナイス!
「頂きます」
食べ始めてからみんなの食事を見ていたら、確かに俺の食事変かも。
ジェリーは、野菜中心の健康に注意した理想の食事。
紗綾は、肉中心の見るからにカロリーがヤバい奴。
脳筋か!小さい頃から変わってないなぁ。
ラストはシビー。シビーは、⁉ 何だと⁉
イチゴタルトしかない、だと⁉
そこには、見てはいけないイチゴタルト人間の姿が、確かにあった。
ジェリーも紗綾も、何か言ってやれよ。
そんなん言ったらシビーに殺されそうなので言う訳ないが。
「ごちそうさまでした」
早っ!誰?
シビーかよ!!
「まだ時間あるので、おかわり行ってきます」
?
俺は、聞いてはいけない旋律を聞いてしまった気がするんだが、気のせいだよな。うん。
「シビー、早く戻ってくるのよ」
気のせいじゃなかった⁉
あと、2人は何か言えよ!!
「楓守、さっきのトーナメント戦のことで話があるんだけど」
「何だ、ジェリー」
「その、仇をとってくれてありがとう。不安だったけど、楓守が勝ったのを見て、とても嬉しかった」
「約束は守るのが、当たり前だ。何かあったら言ってくれ」
「本当にありがとう!!」
正面に座っているのにかかわらず、ジェリーは俺の方に飛ぼうとしてくる。
「危ないよ、ジェリー」
さっきからナイス!紗綾。
紗綾がジェリーの半暴走を止めてくれた。
「ただいま戻りました」
「お帰りシビー。ってえっ⁉」
そこには、見てはいけないものがあった。
1回目にとったイチゴタルトよりも2回目にとったイチゴタルトの量の方が多いだと⁉
「どうかしましかた?楓守君」
「あっ、何でもないです。はい」
ふー、危ない危ない。
シビーは特に何にも思わずに、また席に着いた。
「さっきの試合すごかったね!さすが私の幼馴染!」
どうだ!へへんっ!という効果音が付きそうな勢いで胸を反らす紗綾。
しかし、そこにはたわわな双丘は存在しなかった。
そう、紗綾は胸がないのだ!正確には、胸はあるけど成長していないのだ!
「確かに先ほどの試合は、驚きましたね。楓守君の強さには、何か秘密があるの?」
いい質問だ、シビーよ。
「さっきのは、能力の多重使用だよ」
「何ですかそれは?」
「多重使用は、ⅮP特有のテクニックなんだけど、使いこなせるようになったらかなり強いよ。内容を簡単に言うと、一方の能力を使いながら、もう一方の能力を使うって感じだね」
「そんなの聞いたことないよ。さすが楓守って所だね」
こんなにみんなから褒められると、恥ずかしいです。
メイは、いつも厳しかったし。シクシク、シクシク。
「あっ、時間!」
やばい!話してる内に時間が。
あと10分で食べ終わって教室戻らないと。
「急ごう!」
モクモクモク。
3分で4人全員が食べ終わる。
「教室まで競争だ!!」
えー。紗綾も面倒なこと言うな。リバースの危険があるから嫌なんだが。
「紗綾、競争です!2人も早く!」
ジェリーまで乗り気⁉
やっぱり、この中で生きていくのは厳しそうです。
『全寮制の落とし穴』
昼食後、結果走って帰ったのだが、やはり疲れた。
1位は当然紗綾。2位はジェリー。3位はシビー。4位はまあ、あの人だ。
ギリギリ間に合って良かったよ。
「キーンコーンカーンコーン」
全員が席に着く。
「全員そろっているな。この時間は、前の時間に言った通り「アグロ・キュート」の生態について説明する。いずれお前らも戦うことになるのだ。しっかり聞いておけ」
先生の話に集中できない、何故だ⁉
周りをそーっと見渡してみる。
! 目と目が合う。
金剛君がこっちをガン見してるんですけど⁉しかも満面の笑みで。
怖いです!助けてーママー!
「何をボーっとしているんだ、古谷。成績優秀だからと言って、何もかも許されるわけないぞ」
「すいません」
と謝ったものの、金剛君が満面の笑みでこちらを見てくるの止めることはなかった。
後でしごいてやる!恨むな金剛。
「まずは、アグロ・キュートの姿を見てもらおう」
デジタル液晶に4体の見たことがない化け物が映る。
黒い体に、赤い目。サソリみたいな体の形をしている。
「左からステージ1、ステージ2、ステージ3、ステージ4だ。見ての通り、左から大きくなっているのは分かるな。つまり、左から順に形態を変化させて強くなっているてことだ。先生が実際に見たことがあるのは、ステージ3までだ。ステージ4は、正直存在しているのかどうかも分からない」
こんなのが街へ大量に発生したら、VPじゃない人はたまったもんじゃないぞ!
「なぜ、こんな凶悪なものが出てきたと思う?」
そんなこと、聞いたことないぞ。
誰か分かる人いるのか?
「はい!」
えっ⁉
「お前は、今富か。答えろ」
「はい。アグロ・キュートの発生原因は、VP生成の際に使うSVの影響だと言われています」
「そうだな。よく答えた、座れ。奴らの発生原因は、さっき言った通りVP生成の際に使うSVの影響だ」
「じゃあ何で国はVPを作るのを止めないんですか?」
ここで思い切って質問をしてみる。
「いい質問だ。しかし、愚問だな。それは、VPは国家戦力だからだよ。もし、第2次世界大戦以来の大戦争が起こったらどうなる?その時の勝利の鍵を握るのは我々VPだ。国は、成功しか見ていない。その成功の光に生まれる影を見ていないんだよ」
「ありがとうございます。勉強になります」
先生かっこいいこと言うんだな。
「続けるぞ。次はアグロ・キュートの討伐方法についてだ。アグロ・キュートを倒すときは、団体行動が基本だ。単独で倒せる奴がいたら、そいつは確定で日本序列で20位以内に入れるだろうな。で、その団体についてだが、もちろんお前らにも当てはまる。お前らには4人ごとに動いてもらおうと思う」
ということは、この机ごとってことだよな。
「まあ、勘のいい奴だったらもう分っているだろうが、その、これから1年間、仲間として一緒に動く班を今から発表する」
「楽しみー」「俺は絶対に兄貴と一緒になる」「アグロ・キュートは俺が討伐する!」などの声が上がる。
1人ちょっとヤバい奴がいたような気がするが、気にしないでおこう。
「それは、この机ごとだ!つまり、この机に一緒に座ってる奴らがこれからの仲間だ。しっかり顔を見て憶えとけよ」
よしっ!予想通り!これは良かった~。
「やった~。楓守と一緒だ~。本当の幼馴染だな楓守は」
「これなら安心。この4人なら楽しくできそう」
「楓守君が居るなら、何の心配もいらないですね」
3人とも嬉しがってて良かった。これからも宜しく!
「はしゃいでいる所すまないが、授業に戻るぞ」
先生の存在完全に忘れてた件について。
「トーナメント戦をして分かったと思うが、この中には攻撃系の能力を持つ者、防御系の能力物を持つ者、サポート系の能力を持つ者に大きく分けることができる。チームの中で役割を分担することで、アグロ・キュートから対策をとることは大切になってくるだろう」
本当に勉強になるな~。アグロ・キュートと戦うのが楽しみになってきた。
「ということで、各チームごとでチーム名を考えてもらう。今から6分やるからちゃんと考えろよ。これからずっと使うかもしれないチーム名なんだからな」
う~ん。1人で考えても全然思い浮かばないや。
「紗綾、何か良い案ある?」
「そうだな。う~ん、脳筋とかかな」
紗綾、お前!自分が脳筋ってこと自覚してたのか⁉
「いや、それは絶対にダメだ」
紗綾は戦力外、と。
「シビーは、何か思いつく?」
「今思いついてるのが、スイーツパフェか、イチゴタルトですね」
⁉
シビーはこの場面でも、イチゴタルトを出してくるだと⁉
俺は、聞いてはいけない人に聞いてしまったようだ。
さすがに、ジェリーは大丈夫だよな。
「ジェリーは何かある?」
「フォアフロント、かな」
まともな答えだよな。多分。
「どう言う意味?」
「えーっと、たしか、先頭って言う意味だったような記憶がある。楓守中心に4人で先頭を走りたいなって思ったから」
良かった~、真面目な人が居て。
本当に感謝するよ、ジェリー。
「すごいな、ジェリーは。フォアフロントだな、それで行こう」
「いいの?2人に相談しなくて」
心配無用。
「大丈夫だよ。ジェリーが考えた案だろ。誰も否定しないって」
「そう、かな。うん!それで行こう!」
一応、2人にも伝えておくか。
「紗綾、シビー、チーム名決まったぞ」
「脳筋?」
「イチゴタルトですか?」
まだ言ってるのか。これはあれだ、一種の病気だ。お医者さ~ん、助けてやってくださ~い。
「違うよ」
「「えっ⁉何で(ですか)?」
その反応にこっちが「えっ⁉」だわ。
「チーム名は『フォアフロント』、かっこいい名前だろ?」
「確かに!意味わからないけど、良い!」
「イチゴタルトの味がしそうです!私も賛成です!」
賛成の理由には「えっ⁉」だが、まあ結果オーライということでいいか。
「6分経った。各チーム、チーム名を発表してくれ」
各チーム、チーム名をどんどん発表していく。
「チーム名は、サンです。太陽のように輝きます」
「チーム名はアネモネです。花言葉は、希望です」
「チーム名は、ギルティーだ。俺は絶対に兄貴に付いて行く!」
ヤバい奴が居るような気がするが、気にしたら負けだ。
「最後は、古谷のチームだ」
「はい。チーム名は、フォアフロントです。常に先頭を走れるように、努力します」
「いい威勢だな、期待しているぞ。これで全チーム名の命名が終わったな。明日からは、このチームで行動練習や、戦闘練習を行う。それと、大切なことを伝えておこう」
何だ?
「朝にこの学校が、全寮制だということは伝えたな」
クラスの全員が頷く。
「寮は4人1部屋になっている。それで、今からその部屋割りを発表したいと思う」
ん?
何か嫌な予感がするのは俺だけかな。まさか、
「その部屋割りは、今決まったチームだ」
はいーーー!!!知ってた。知ってたけど、これはダメだろ。
「中には男1人の部屋もあるみたいだが、これは学校の決定事項だ。変えることはできない」
何かニヤニヤした顔で先生がこっちを見てくるんですけど。
怖いから、こういう悪い所だけ性格似てるのどういうことだよ。
「間違いを起こしたらダメだよ、古谷」
おいっ、名前呼んだらみんながこっち向いて、きたじゃん!
「これはいわゆるハーレム?怪しからん」「何であいつばっかり運がいいんだよ!」などと、聞こえてくるような、こないような。
「楓守、私にはまだ早いよ」
紗綾さん?何を言っているのかな?
意味深だから止めようか。
誤解して、殺しに来る人も出てきそうだし。
「紗綾、静かに」
「じ~~~~」
⁉
背後から、ものすごい空気を感じる。
チラッ。
「キャァァァァァ!!!」
そこには、顔は笑っていなくても、口だけが笑っているジェリーの形相があった。
「そ~なんだ。そ~だったんだ。楓守は私に隠し事してたんだ~」
おい!紗綾!
誤解が生れる前に、紗綾の言動を止めさせたつもりが、すでに遅かっただと⁉
「ち、違うって」
怖さのあまりに、1歩引いてしまう。
「な~にが違うのかな~?」
こ、怖い!
「ジェリー、それは誤解だよ」
えっ⁉
紗綾が助けに来てくれた?ことの発端の人が?
「私と楓守の仲は、もっと深いよ。小さい頃、2人で居たら、よく熱いものたくさんくれたもん!!」
はぁ?
何で火に油を注いだ?
この、温厚な俺でもさすがにキレていいかな?
「へ~、へ~、そうだったんだ。楓守、どういうことか説明してくれる?これは、切腹ものだよ」
死にました。俺は死にました。
この15年、長いようで短かった15年、俺は楽しめたかな?
「というドッキリで~す。楓守の焦ってる姿が見たくてついやっちゃった。テヘッ」
?
あっ、そういうことか。やっと理解が追いついたよ。
ジェリーが怖すぎて、思考停止してたわ。
「私は、同部屋全然気にしないよ。これからよろしく!」
ジェリーみたいなお嬢様が、こんなどこの馬の骨かも分からない男と、1つ屋根の下で暮らしていいのか?
ジェリーがいいと言っているんだ。ここは、彼女の意見を尊重しよう。
「こちらこそ、よろしく」
となると、まだ同部屋賛成を貰っていないのは、シビーか。
「シビー、寮の同部屋の話なんだけど」
緊張する。ドクドクドク。
「私は、私は、こんなたくさんのイチゴタルトが食べられる学校の決定事項には、反対できません!」
そうですか、そうなんですか。
シビーが言うこと、だいたい予測できてたかもしれない。
俺が緊張した意味とは?
「話し合いは終わったようだな。これで、寮は決定ということでいいな。何か質問ある奴はいるか?」
誰も手を挙げない。
「今日から一緒に暮らす仲間に、よろしくお願いしますの挨拶だ」
「ジェリー、紗綾、シビー、これからたくさん迷惑かけると思うけど、よろしく!」
「私は楓守が同部屋で安心だよ。ちゃんと守ってね」
「当然だよ、ジェリー」
「楓守君、私の好きな食べ物はイチゴタルトだ。これからよろしく頼む」
知ってるからそれ。
「おう!」
「楓守、小さい頃からだけど、これからもずっと一緒にいてね」
かわいい顔されたらちょっとドキドキするから、止めてくれ。
「それが当たり前だろ」
恰好をつけてみるが、周りからはどう見えてるのかな?
まあ、考えるだけ無駄か。
「キーンコーンカーンコーン」
授業終了のチャイムが響く。
これも、もう聞きなれたかも。
「今日の授業は、これで終わりだ。各チーム寮の鍵を渡すから、代表の奴1人取りに来い」
話し合いはせず、俺がすぐに取りに行く。
そして、俺の番が回ってきたとき。
「男1人だからって、いらないことはするなよ。学校で問題になるからな」
先生が煽ってくるのはどうなんですかね。2回目ですけど。
「そんなことできないですよ。俺は根性ないので」
「もっと先生を楽しませてくれよ。姉の弟子よ」
「ちょっと、それここで言っちゃだめです!」
焦るわ、本当に。
「おっと、これはすまない。これが鍵だ」
先生、話が長い!
そして最後に。
「いい夜を過ごしてくれよ」
先生、ぶん殴るぞぉ!!!
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