第5話 「薬術学入門」
「やぁはじめまして、君が同居人かな。俺はカルボ・アゾトニア」
強烈な異臭に包まれた部屋で、緑色の髪の少年、カルボはグツグツと紫色に煮立つ鍋をかき混ぜながら平然と自己紹介を始めた。
「は、はじめまして、私はハイロ・ユースミッド。ひどい匂いだが何をしているんだい?」
「ちょっとした小遣い稼ぎさ。学院のクエストで滋養強壮効果のあるポーションを作っているんだ」
「へぇ、学院もギルドのような依頼を請け負ったりするところがあるのかい?」
「賢人の宴を知らないのか?中央広場の噴水前の
「ありがとう、機会があれば見に行ってみるよ。――にしてもこの匂いなんとかならないかな……?」
「あぁ、すまない。もう少しで終わるから待ってくれないか。窓を開けてしばらくすれば匂いは消えるし、匂いが染み付いたりする心配もなかったはずだから安心してくれ」
鍋や道具の片付けと部屋の換気を手伝い、一息ついていろいろと話をした。強烈な対面になってしまったこともあり自分の中での彼への認識は「ヤバいやつ」になっていたが、話してみると裏表のない気持ちのいい性格をしており信頼のおけそうな人間だった。カルボはアゾトニア家という錬金術に長けた家の生まれで、錬金術や薬術の腕は相当のものらしい。幼い頃から触れていた錬金術を、更に深く知るためこの学院へ来たそうだ。
夜も更けてきたため、明日に備え風呂を済ませて早く寝よう、そう思った時ある事に気がついた。
「そういえば着替えがない……」
「ん、お前そういえば荷物も金もないと言っていたな。家から持ってこなかったのか」
「――まぁ、なんだ。いろいろあったんだいろいろと」
「なるほど、各々事情はあろう、深くは聞くまい。どれ、今日は俺の服を貸してやろう」
「ありがとう、恩に着るよ」
「服だけにか」
「うるさい」
「自分の着替えを買う必要があるだろう。代金は一旦貸してやるから明日は中央広場で買い物だな」
したり顔のカルボから服を受け取り、風呂に入った。温かい浴槽の中で一息つくと、今日のいろいろな出来事を思い出した。初めての魔法、ポポリタ先生の研究室、そして変だけど悪くない同居人。中々濃密な一日だった。風呂から上がって着替えを済ませる。そしてベッドに横たわると、明日からも続く不思議な生活に期待を膨らませながら眠りについた。
次の日の午前は魔法学基礎Ⅰの授業、昼からは学内見学の自由時間となった。ハイロとカルボはエントランスから見える中央広場に来ていた。広場中央の噴水へまっすぐ続く道には左右に屋台が立ち並ぶ。噴水から北と東西にそれぞれまっすぐの大通りが出来ており、各通りによって立ち並ぶ店の特色が違ってくる。北は杖や戦闘用の魔導具、東は職人や錬金術師用の道具や素材、西は職人や錬金術師が作った衣類やアクセサリー、日用品や便利道具などが売られている店が並ぶ。それぞれの大通りの終端には大掛かりな装置のようなものも見える。今二人は西の大通りへ向かって歩いている。
「今日の魔法学基礎、
「氷系苦手なんだっけ、カルボは。そういえば今日レート加算したって言われたんだけど、どこで確認するんだろ」
「あぁ、それなら寮の端末で確認できる。今度教えてやろう。」
「助かるよ。あとさ、ちょっと気になったんだけど習得の方法って何回も発動するってのが定説なの?なんか違うような気がしていてさ」
「それが一般的な知識で正しい。ただ、これに関しては個人差もある。回数を重ねてもダメな奴が居たり、逆に10回発動したら絶対に習得する天才なんかもいる。実際のところは賢者や研究生の講師達もよくわかっていないはずだ。ある程度万人に当てはまるから推奨されているというだけかもしれん。よし、ついたぞ。服飾魔法師の店だ」
カルボは店の扉を開けると、中には服を着たマネキンがステージの上で歩いていたりポーズを取っていたりしていた。かなり先進的な内装だ。店員の双子に採寸をしてもらい、縫製の間店内で待つことにした。店内をぶらつきながら商品を物色しているとカルボが声をかけてきた。
「他に寄りたい店はないのか?」
「んーパッと思い浮かばないな……あ、そういえば杖とかって持ってたほうが良いのかな。魔法使いっぽいし欲しい気がする」
「杖か。INT上昇効果があるから、魔法が及ぼす影響が大きくなるんだがかなり高い。俺の持ち合わせがないから今日は難しい」
「――ちなみにどれくらい高いの?」
「金貨1枚以上は確実だ」
「金貨って使ったことないんだけど……銀貨何枚分?」
「100枚相当だ。いい機会だ、小遣い稼ぎお前もやるか?」
「うげ、高いね……やってみようかな、今後必要な物も出てくるかもしれないし」
先程の頼んだ服が出来上がったらしく、双子の少年の片方から商品を受け取り店を後にした。仕事を探すため
「クエストをやると言っても最初はどれから手をつければいいんだろう」
「それは俺達にはまだ早い。S級だ。難易度によって分けられているんだが、これは一番難しい依頼が貼られている
そういうとカルボが案内したのは黒ケープをつけた学生が群がる
「最初は素材採取系が良いだろう。東の火山は報酬は良いが少し危険なモンスターが多い。これなどどうだろうか、西の森なら危険も少ない」
そういってカルボが取った以来は薬草採取の依頼だった。報酬は銀貨30枚。そこまで珍しい薬草ではないようだが、量が大量に必要らしく背負籠一杯に取ってきてほしいと書いてある。最初の依頼には良さそうだ。
「ただ、夜の森は危険だから欲を言えば昼前には出発したい依頼だ。今すぐ行けば日没までには間に合うだろうし問題ないだろうが、どうする?」
「なんだ、やけに詳しいな。まだ入学して間もないのによく知ってるなこんなに」
「昔からアゾトニア家の仕事は賢人の宴から受けている。俺も錬金術や薬術に関する仕事なら小さい頃からこなしているから、ある程度の事ならわかる」
「なるほど、そういうことか。そうだなぁ、特に急ぐ理由はないんだけど戻っても暇だし行ってこようかな。」
「わかった、荷物部屋に持って行ってやるから受けて来るといい。北の大通りの一番最初の建物が受付でになってるからそこにいけ、あとは説明してもらえるだろう」
「ありがとう、行ってくる」
カルボと一旦わかれ、北大通りの一番最初に目につく一際大きな建物。それは魔学院で唯一依頼斡旋業を行っているギルド、「賢人の宴」のホームである。賢人の宴は世界各地に出張所を設けており、各地の腕利きが所属する学院直営のギルドだ。本部と出張所を繋ぐ独自の物流ルートや魔法を用いた通信技術、そして学院の学生という優秀な人材を最大限活用し多大な利益を上げている。通常のギルドで行うような依頼はもちろん、魔法や専門的な技術を用いる特殊なものまで多数の依頼を抱えている。賢人の宴は金銭の報酬とは別に、学生から行われる成果提供に対する報酬としてレートを加算する権限を学院から与えられている。学生達は日頃の勉学の成果を試す場、且つ金銭を得る手段としてギルドを大いに活用している。
ギルドへ辿り着き、思ったよりも軽い力で開いた身の丈の倍ほどもある大扉を抜ける。中は赤い受付と青い受付で二分されており、各受付にはお決まり通り受付嬢がいる。シャルフの街と違うのは数、そして人種の多様さだ。各受付10席ずつはあるだろうその各席にエルフのような長い耳の女性、グラシェダと同じような角の生えた褐色のデモリカの女性、そして、念願のケモミミ美少女が居た。
なんということだろう!目の前にケモミミ少女がいるのだ!興奮を抑えられない!並ぶしかない、並ばなければ男ではない!依頼の紙を持った者達が赤い受付に並んでいることに気づいたのでケモミミ美少女が待つ赤い受付に並ぶ。そして、その時はやってきた。オーソドックスなネコ耳ネコ尻尾な獣人の女性だ。歳は近い気がする。
「こんにちは、依頼の紙とピンバッジの提出をお願いします」
「はい、あと耳触らせてもらってもいいですか」
「えぇっ!?ダメですよ人前でそんな!」
「耳触るのって人前で出来ないことなんですか!?」
「人族の方はご存じないかもしれませんけど、耳と尻尾は気軽に触っちゃダメなんですよ!」
「人の部位で例えるとどれくらいダメですか?肩くらいですか?それとも胸とかお尻くらいですか?」
「そりゃもう胸とかお尻くらいダメ……ってそうじゃなくて!あ、あなたあれですね!?変態さんなんでしょ!衛兵さん呼びますよ!」
「違います、断じて。あなたのような美しいケモミミの女性が大好きなだけです」
「もうやめてください、説明に入りますよ!報酬は銀貨30枚!この背負籠一杯にフェーリ草を摘んできてください!場所はシレンシオの森に群生地があるらしいです!それでは行ってらっしゃい!」
ドンッ!と背負籠をカウンターに置くとネコミミ美少女は奥へ走り去ってしまった。ちょっと悪いことをしたかもしれないが一つ賢くなった。気軽にケモミミを触るのは、セクハラだ。覚えておこう。さて、西のシレンシオの森へ向かおう。
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