ゲーオタメガネの将来の夢は異世界で魔法の勉強をして生計を立てることだそうです。

@1014san

プロローグ

 伊坂宗次郎、37歳。都内に勤めるシステムエンジニアだ。生粋のゲームオタクで、アクション、ハクスラ、JRPG、ターン制ストラテジ、RTS、FPS、TPS、縦シュー、横シュー、オープンワールド、パズル、etc、とゲームと呼ばれるものは何でもやる。唯一あまりやらないのは乙女ゲーくらいか。

 将来の夢はファンタジー世界の魔法学院で死ぬほど勉強したり、ケモミミ少女とのんびりまったり生活することだ。自分で言っていてなんだがわかっている、ものすごくイタいことぐらいは。もういいんだ、現実世界に救いなんてない!頼む、早くフルダイブMMOを用意してくれ!茅○晶彦!


 そんな夢を抱きながら家ですやすや眠っていたが、会社で起きたシステム障害のアラートで夜中に叩き起こされた。まったく煩わしい、会社に対するあらゆる罵詈雑言が頭を駆け巡る。だがそんな事を考えていても仕方ない、頭を振って余計な考えを追い出す。その深夜対応を行った帰り道のことだった。猛スピードでこちらへ向かってくる大型トラック、けたたましいブレーキ音は聞こえるが失速する様子はない。車のヘッドライトが眩しいはずなのに瞬間、目の前が真っ暗になった。


 目を閉じて起きているような、目を開けて真っ暗闇にいるような、そんな感覚で途方もないほど長い時間を過ごしたような気がする。遠くに小さな光が見え始める。それはどんどん近づいてきて目の前全てが真っ白い光に包まれた。夢から醒めた、ような。気がつけば真っ白で息苦しい部屋の中にいた。そんな部屋には似合わない意匠を凝らした家具とどこ○もドアのように直立した木の扉、そして目の前には羽の生えた女性がいた。


「伊坂さん、残念なことにあなたはトラックに追突し、お亡くなりになりました」

「すごい、羽が生えたお姉さんだ!天使かな女神かな!?」

 天使か女神かというその美しい誰かは少し呆れ顔で語りかけてきた。

「いい年なんですから落ち着いて下さい。私は転生管理部 第24天使シリエルと申します。よろしくお願いいたします」

「これはこれはご丁寧にどうも、シリエルさん。私、株式会社ヤツギバヤのチーフエンジニア 伊坂宗次郎と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 胸ポケットに忍ばせた名刺入れから名刺を取り出し、慣れた手付きで自己紹介を済ませる。

「頂戴いたします……ってもう死んでるんですから名刺はいいです!伊坂さんのことは生前から存じてますので!」

「あっ、すみません。スーツ着てると癖で……」

 最近の天使はノリツッコミ性能まで備えているんだな、さすが死後の世界。

「伊坂さん、何となく察していると思いますが転生できます」

「なるほどやっぱりですか、いっぺん死んでみるもんですね。」

「簡単に転生についてご説明すると、通常、前世で一定の善行を積んだ者が転生する資格を得ることが出来ます。伊坂さんもその例に漏れず、前世でたくさんの善行を積まれたので、この度転生のご案内が出来ることとなりました」

「ん、善行?なんかいいことしましたっけ、自分……あぁ、無遅刻無欠勤とかですか?」

「いえ、身につけてらっしゃるメガネです。そちら25年同じものを使われておりますね」

「ええ、小学校高学年くらいから同じ物の使っています。もしかしてそれが善行……になるんですか?」

「はい、その通りです」


 正直馬鹿らしいと思ったが彼女が言うには、付喪神に似た物に宿る神様が宿るほどの品らしく、ただ長く使っただけではなく大事にされていたことで神が宿ったらしい、信じられないが。


「それでは転生の手続きを行いますね。何かご希望等ありますか?」

「どのくらいわがまま言っていいんです?」

「伊坂さんの思うままに仰って下さって結構ですよ、なるべく善処いたしますので」


 とりあえず彼女にいくつかお願いしてみた。

 ・よくファンタジーに登場する種族が大体いる

 ・ケモミミ美少女がいる

 ・魔法を使って生計を立てられるように魔法使いにある程度適性がほしい。

 ・メガネは持っていきたい

 ・できれば前世の記憶を持っていきたい

 この5つだ。


「意外と控えめですね。委細全て承認致しました」

 そういうと何もないところに手を突っ込んで1枚の紙を取り出し何かを書き始めた。

「控えめなんですか?結構思い切ったつもりだったんですが」

「欲張りな方だと、ありとあらゆる能力と最高の装備を欲せられますね。意外な話かもしれませんが、そういった方ほど人生に退屈して、世界を崩壊させてしまったり、はたまた自身さえも破滅させてしまったり」

「あ~わかりますよ、ゲームでチートすると飽きが早くなるあれですね」

「う~ん、あってるようなあってないような……」


 彼女は話をしながら書いていた何かを書き終えたのか、立ち上がって扉の方へ向かった。


「さぁ、扉の前へ。幸せな人生が送れるよう、陰ながら応援しております」

「ありがとうございます。また会えるかどうかわかりませんがお元気で」


 思っていたより重たい扉をグンと押し開けた。体が光に包まれていく。暖かい、春の陽だまりのようだ。さぁ、新しい人生を始めよう。

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