第4章19話 敵襲! 銀河連合同盟軍の艦隊が出現した!

 息を吹き返し、心配そうなフユメの表情を見上げるのは、これで何度目だろう。


 辺りを見渡すと、そこに20人の大所帯の姿はなかった。

 今の俺は、デスプラネットの狭い廊下で、軍服姿のフユメとメイティ、この世のものでないものを見るような目をした2人の特殊部隊に囲まれていたのだ。


「ソラトさん、何があったんですか!?」


 あの世から戻ってきたばかりの俺に、焦りを隠さずそう言ったフユメ。

 俺は上体を起こし、ありのままをフユメに伝えた。


「帝國軍に見つかった。今はたぶん、シェノと特殊部隊のみんなが戦ってる最中だ」


「そんな……高官の皆さんは無事なんですか!?」


「さあ、分からん。少なくとも死んだのは俺だけなはず。まあ、シェノたちがいれば大丈夫だろう」


「だと良いんですけど……」


 悪い知らせに気を揉むのはフユメだけではない。

 メイティや、いつの間に帝國の軍服に身を包む2人の特殊部隊隊員も、高官たちの無事を祈り浮かない表情だ。

 作戦が失敗するかどうかの瀬戸際、彼女らの反応は当然である。


 この重い空気を払拭したのは、フユメの無線から聞こえてきた特殊部隊リーダーの声であった。


《こちら護送隊。敵の襲撃を受けたが、魔術師以外に怪我人は出ていない》


「は、はい! 良かったぁ……」


 良い知らせにホッとため息をつくフユメと、胸をなでおろすメイティ。

 続けてリーダーは、フユメに質問した。


《魔術師はどうなった? 彼の死体はここに残されたままなのだが》


「大丈夫です。私が蘇らせました」


「我々も魔術師の復活を確認しております」


《そうか。にわかには信じられぬが、実際に起きたことを信じぬわけにもいかんな》


 未知の出来事に困惑する特殊部隊の面々だが、彼らは任務を優先し、未知なるものを受け入れた。

 合理から外れた存在を、合理的な思考で受け入れるとは、不思議な話である。


 それにしても、自分の死体が残っているというのは気味が悪い。

 今まで考えないようにはしていたが、やはり俺の死体は、ここ『ステラー』に複数存在しているのだろう。

 うむ、やはりそれについては考えないようにしよう。


 俺が現実の出来事から目を背けている間、リーダーはさらに話を続けた。


《敵の襲撃は退けたが、敵の警戒レベルが上がってしまった。従来のルートは危険なため、これより我々は別のルートから格納庫へと向かう。予定よりも到着までの時間がかかってしまうだろうが、君たちは予定通りに輸送船を確保してくれ。以上だ》


「了解しました」


 リーダーからの無線通信が切られると、フユメたちはすぐに歩きはじめた。

 こちらのチームは全員が帝國軍兵士に化けており、捕虜もいないため、それなりの自由があるのだ。


 敵の視線を気にせず敵地を歩けるのは、精神的にも楽である。

 体の軽さを感じながら、俺はフユメたちとともに格納庫へと向かった。


 狭い廊下を抜け、乗り物に乗り格納庫へ。

 乗り物には俺たち5人以外に帝國軍兵士はおらず、束の間の平穏が訪れる。


「全員で帝國軍兵士のコスプレか。まあ、たまには悪くないかもな」


「はい! かわいいメイティちゃんの戦闘服姿が見られて、私は大満足です!」


「……うみゃ……フユメ師匠、くすぐったい……」


 フユメはメイティの戦闘服姿が気に入ってしまったらしい。

 彼女はまたもメイティを撫ではじめ、メイティはまたも困り顔に。


 ただ、そんなフユメも今は帝國軍兵士の軍服――制服姿だ。

 普段からフォーマルな衣装を好むフユメは、帝國軍の制服も見事に着こなしている。

 かっちりとした衣装であるため、プロポーションの良さも強調され、さながら美人将校のようだ。

 美人将校対決であれば、おそらくカーラックとも張り合える。


「似合ってるな」


「うん? 何がですか?」


「その軍服姿、よく似合ってる」


「え、ええ!? ほ、本当ですか!?」


「こんな場所でお世辞を言ったってしょうがないだろう」


「そ、それもそうですね。でも、いきなり褒められると、なんだか恥ずかしいです……」


 うつむくフユメの赤く火照った顔が、厳格さを醸し出す軍帽の下からのぞいていた。

 その姿に、俺だけでなく2人の特殊部隊隊員も視線を奪われ、こちらまで顔が赤くなってしまう。

 今回ばかりはメイティも、フユメの照れた表情に反応し猫耳と尻尾を立てている。


「な、なんですか!? そんなにジロジロ見ないでください!」


 俺たちの視線に耐えきれなくなったか、フユメはそう言ってそっぽを向いてしまった。

 敵地のど真ん中で、なんと平和な空間。


 和やかな空気に覆われたまま、俺たちを乗せた乗り物は格納庫前に到着する。

 乗り物を降りると、俺たちを待っていたのは多数の無人機たち。

 数十機の無人戦闘機たちは、格納庫の壁一面にぶら下がり戦闘に備えていた。


 サッカーグラウンドよりも広い格納庫の中心には、数隻の輸送船がハッチを開けて荷物を待っている。

 俺たちの目的は、あの輸送船の1隻を奪うことだ。


「どれを奪う?」


「周囲に帝國軍の兵士がいない輸送船が良さそうですね」


「……それなら、あの輸送船……」


「あの輸送船だな」


 メイティが指差した輸送船は、確かに帝國軍兵士やドロイドたちに放置されている。

 特殊部隊の2人やフユメも、メイティの指差した輸送船を奪うことに異論はないらしい。


 輸送船を奪おうと、俺たちは格納庫に足を踏み入れた。


 目的の輸送船に向かう間、俺はふと格納庫の出入り口から見える宇宙を眺める。

 帝國の艦隊が並んだ宇宙の闇には、無数の白い光が浮かび上がっていた。

 と同時に、格納庫に大音量のサイレンが鳴り響く。


《敵襲! 銀河連合同盟軍の艦隊が出現した! 繰り返す! 銀河連合同盟軍の艦隊が出現した! 各防衛部隊は直ちに戦闘態勢!》


 ついにこのときがきた。

 宇宙の闇に浮かんだ白い光は、同盟軍の艦隊がハイパーウェイを脱出するためのワームホールであったのだ。


 再び宇宙に目を向ければ、そこには赤と緑、青のレーザーが入り乱れている。

 次々と起動し出撃する帝國の無人戦闘機たちは、俺たちの頭上を飛び抜けていった。


「もう艦隊が来る時間だったか。急いで輸送船を奪うぞ!」


 デスプラネット周辺での艦隊戦がはじまった今が、輸送船を奪う最大のチャンス。

 俺たちは駆け出し、目的の輸送船へと乗り込んだ。

 幸い、輸送船の中に兵士やドロイドはいない。


「船のAIをハッキングしましょう!」


「いや、もっと良い方法がある」


 操縦席のモニターを指で触れた俺は、息を吐くように電気ショック魔法を発動した。

 当然ながら、電撃に焼かれた輸送船のAIは沈黙する。


「AI、壊れちゃいましたよ!?」


「どうせシェノが手動で操縦するんだ。問題ない」


「ソラトさんは大雑把すぎますよ!」


 呆れたようにツッコミを入れるフユメだが、知ったことではない。

 輸送船が奪えればそれで良いのだ。


 最悪、替えの輸送船はまだたくさんある。

 多少の大雑把さがあろうと、任務を失敗に追い込むことはないはず。


「あとは高官たちを待つだけだな」


 シェノたちが連れた高官とその家族たちは、今はどの辺りにいるのだろうか。

 別ルートを歩く彼女たちを待つ間、俺たちは奪った輸送船の中で息を潜めるだけだ。

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