第4章16話 ……お返し……
目を覚ますと、床に倒れた俺を治療するフユメの姿が視界を占領した。
「俺、死んだのか?」
「いえ、ドロイドの電流攻撃を受けて、気を失っただけのようです」
「そうか。ドロイドは?」
「特殊部隊の皆さんが捕まえました。今は、牢獄への案内役になってくれるよう改造中です」
「改造中……」
体を起こし左に視線を移すと、確かに特殊部隊の3人がドロイドを囲んでいる。
基盤にコードを差し込まれたドロイドは、順調に俺たちの案内役として電洗脳されているようだ。
さて、先ほど俺は電気ショックによって気を失った。
ということは、俺の五感には電気ショックの感覚と記憶が刻み込まれたということ。
すなわち『電気ショック魔法』を修得したといことだ。
まだ時間はあるようだし、ちょっとばかし試し撃ちをしてみよう。
俺は人差し指を立て、五感と想像力を働かせた。
結果、俺の人差し指から小さな稲妻が走る。
「お、やったぞ、はじめての光系魔法だ」
「そういえば、光系魔法はひとつも覚えてなかったんですね。だけど、常に光には当たり続けていたんですから、今まで光系魔法を覚えていなかったとは思えませんが……」
「確かに。となると、もしや――」
まさかと思い腕を突き出し、想像する。
頭に浮かんだのは、闇夜を照らす一筋の光。
すると俺の手の平からまばゆい光が差し、デスプラネットの灰色の世界に明るさを付け足した。
なんと、俺はいつの間に『光魔法』を覚えていたらしい。
もう俺に懐中電灯は必要ないであろう。
「こんな魔法、覚えてたのか……」
「無意識のうちに魔法修行として覚えていたんでしょうね」
「まだまだ知らない魔法がありそうだな」
普通に生きているだけでも、あらゆる事象を経験する。
その事象の全てが魔法修行となり、魔法として覚えられるのなら、俺は自分が思っている以上にたくさんの魔法が使えるのかもしれない。
真の英雄の隠されたポテンシャルに、俺はついニヤけてしまう。
他方、メイティは俺の服を掴み、つぶやくように言った。
「……ソラト師匠、わたしも、電気ショック魔法、覚えたい……」
猫耳と尻尾を立てたメイティのお願いを、伝説のマスターが断ることはできない。
俺は胸を張った。
「よし! 俺の新魔法を、愛弟子であるメイティに授けよう!」
早速、腕を突き出し電気ショック魔法を発動、青白い稲妻がメイティの全身を駆け巡る。
電気ショック魔法を受けたメイティは毛を逆立たせ、凄まじい電流に体を痙攣させた。
電流によって静かな悲鳴をあげ、痙攣する猫耳少女――
「うわ……」
「シェノ! 蔑むような目で俺を見るな!」
「ダメです! 直視できないです! メイティちゃんが……メイティちゃんが!」
「俺の罪悪感を増大させるような反応は止めてくれ!」
これはメイティの修行のために行っていること。
決してイジメだとか
ましてや変な趣味でもない。
見た目はそんな感じだが、これはれっきとした魔法修行なのだ。
これは愛の鞭!
――いや、それを言ったら終わりだ。
俺は電気ショック魔法を中断させる。
電流から解放されたメイティは、息も絶え絶えになりながら床に倒れこむ。
どうやら彼女は、まだ意識を失ってはいなかったらしい。
フユメは飛びつく勢いでメイティに治癒魔法をかけ、痛みと苦しみの除去に全力を尽くした。
「なんか……すまん……」
罪悪感に押しつぶされてしまいそうな気分。
ところが、メイティは首をかしげるだけ。まるで、どうして謝罪されているのか理解できていないかのよう。
治癒魔法により痛みを過去のものとしたメイティは、人差し指を立て電気ショック魔法を発動した。
小さな稲妻が指先に輝くと、メイティは俺に視線を向け口を開く。
「……できた……ソラト師匠、ありがとう……」
わずかに緩んだ口元から送られる、素直な感謝の言葉。
あれだけひどいことをされたというのに、メイティはどこまで優しい子なのだろう。
まあ、魔法修行のため、俺は何度もメイティを殺してきたのだ。この程度のことなら許してくれても不思議ではないはず。
などと思っていたのだが、俺の首元にメイティの人差し指が触れ、一瞬の、しかし強烈な電流が俺を襲う。
「ああぁぁ! な、なんだ!?」
「……お返し……」
いたずらな笑みを浮かべるメイティ。
まさかの反撃に、俺は呆然とすることしかできない。
そんな俺とメイティがおかしかったのか、フユメとシェノは小さく笑う。
ただし、こんな平穏な時間は、
「ドロイドの改造は完了した。先を急ごう」
先ほどのドロイドを従え、特殊部隊の6人は銃を構えながら廊下を進む。
新たな魔法を覚えた俺たちは、特殊部隊の後を追った。
銀河連合の高官救出とデスプラネットの破壊作戦は、まだはじまったばかりである。
*
ドロイドに案内され到着した、牢獄エリアへと続くエレベーター前。
俺たちは狭く薄暗い倉庫部屋に隠れ、身動きが取れずにいた。
エレベーター前は思いの外に帝國軍兵士の数が多かったのである。
「乗り込む隙がないな」
「騒ぎを起こさずに、なんとかしてエレベーターに乗る方法はないでしょうか?」
「う~ん」
デスプラネットが衛星に
あまり長く考えている暇はなかった。
シェノは拳銃を手にしながら、吐き捨てるように言い放つ。
「そこらの兵士から、軍服を奪えば良いんじゃない?」
つまり、軍服を奪い、それを着て、エレベーターに乗り込む。
原始的ではあるが悪くない提案である。
問題は、どのように軍服を奪うかだ。
フユメの言う通り、俺たちは騒ぎを起こしてはならないのである。
「誰にも見つからずに軍服を奪う方法なんてあるのか?」
「とりあえず、数人の兵士をこの倉庫に呼び寄せてよ。そしたらあたしがなんとかするから」
そう言って拳銃の引き金に指をかけるシェノ。
続いて特殊部隊の隊員たちも銃を強く握り言った。
「帝國軍兵士の始末なら俺たちに任せてくれ」
「ようやく仕事の時間か」
事務仕事でもはじめるかのような隊員たちに、俺は思わず苦笑い。
敵を倒すことに躊躇しない彼らは、これからこの倉庫を地獄に変えようとしているのだろう。
ここは戦場、それくらいは普通のことだ。
しかし、ここには勇者メイティがいる。
メイティは小さな声で、シェノや特殊部隊の隊員たちを制止した。
「……帝國軍の兵士、殺しちゃ、ダメ……」
「なに!? 魔術師、それでは――」
「……わたしが、なんとかする……」
優しさと強さを同居させた瞳で特殊部隊の隊員たちを見つめるメイティ。
隊員たちは、その瞳に
どことなく残念そうに拳銃をしまったのはシェノである。
「はいはい、殺しはナシね。で? なんとかするって、どうするの?」
シェノの率直な質問。
これに対し、メイティは間を置くことなく口を開いた。
「……帝國軍の兵士、この倉庫に、呼び込んで……そしたら、わたしが、魔法を使う……」
尻尾を揺らし、人差し指を立てたメイティの答え。
彼女が何をしようとしているのか、俺には分かった。
ならば、伝説のマスターがやるべきことは愛弟子の手助けをすること。
俺は腰に手を当て言った。
「呼び込みは俺に任せろ」
直後、俺は近場にあった荷物を崩す。
重く固い荷物たちは、怪獣が暴れるかのような激しい音を立てて床に散らばった。
これだけの物音を立てれば、帝國軍の兵士たちも倉庫に意識を向けたはず。
次だ。
「助けてくれ! 人が荷物の下敷きになった!」
帝國軍兵士たちを呼び込むための叫び。
俺のこの迫真の演技に、どれだけの人が集まるだろうか。
フユメの「ちょっとわざとらしかったですね」などという評価は無視し、俺は兵士たちの到着を待ち構える。
「大丈夫か!?」
「待ってろ! 今助けるぞ!」
さすがの帝國軍兵士たちも、仲間には優しいようだ。
物音と叫びを聞きつけた5人の兵士が、倉庫の中に飛び込んでくる。
せっかくの善意を裏切るのは気が引けるが、今こそチャンス。
物陰に隠れていたシェノと特殊部隊の隊員たちは、帝國軍兵士たちに銃口を向けた。
そして、俊敏な動きで帝國軍兵士たちの中心に立ったメイティは、次々と兵士たちの首元に触れていく。
「な、なんだ!? うわ!」
首元をメイティに触れられた兵士たちは、小さな稲妻に体を痙攣させ床に倒れ込んだ。
5人の兵士全員が失神し床に転げるまでに、それほどの時間はかからない。
メイティの電気ショック魔法により、1人の命を奪うことなく、俺たちは5人の兵士たちを無力化させたのだ。
「やるじゃん。じゃ、身ぐるみ剥がすよ」
早速、シェノは失神した兵士たちから軍服を奪い取った。
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