第4章14話 サウスキアにて重大な情報を得ました

 サウスキア近衛艦隊から解放され、デスティネイションへ。

 玉座の間に連れられたカーラックを待っていたのは、リー総督だ。


「皇帝陛下は何処に?」


「敗軍の将なぞ、皇帝陛下が相手するわけなかろう」


 冷酷な言葉が容赦なく浴びせられる。

 自分を殺害しようとしたリー総督を前に、カーラックは沈黙するしかない。

 リーの言う通り、カーラックは敗軍の将なのだ。今までに築き上げてきた地位は味方してくれないのである。


「カーラック大佐、君は魔術師メイティ=ミードニアをみすみす逃し、さらには新たな魔術師にストレロークを破壊され、挙句に囚われの身となり、捕虜となった。言い訳はあるかね?」


 厳しい糾弾の声。

 カーラックは背筋を伸ばす。


「言い訳はありません。全て、私の落ち度です」


「そうか、素直に非を認めるか。少しは利口になったようだな」


 粘り気のあるリーの瞳がカーラックを見下した。


 だからなんだというのか。

 あの魔術師は、自分の道を突き進んで落ちぶれろ、と言ってのけた。

 認めたくはないが、魔術師の言う通りだ。


「リー総督、お伝えしなければならないことがあります」


 どうせ落ちるのなら、自らの道を突き進み落ちる。

 どうせなら、自分のミスを自分の手柄とする。


「なんだね?」


「サウスキアにて重大な情報を得ました」


「その情報は、わざわざ私が聞くほどのことかね?」


「デスプラネットの設計図が、銀河連合に漏洩しております」


「なに!?」


 漏洩元は間違いなくカーラックだ。

 だが、その事実は隠し通せば問題ない。

 今のカーラックは、帝國の危機を誰よりも早く伝える、帝國の忠臣。


「銀河連合の連中は、すぐにでもデスプラネットを解析し、攻撃を仕掛けてくるでしょう」


「それは確かな情報なのかね? もし不確かな情報であれば、君の立場はますます――」


「私の情報を信じず、結果としてデスプラネットが攻撃を受けた場合、立場が危うくなるのが誰であるのかは、明白かと」


「生意気な……」


 そうは言いながら、リーの表情は硬い。

 リーとて眼前の危機を見逃すことはできないのだ。


「まあ良い。同盟軍は大艦隊をもってデスプラネットに攻撃を仕掛けてこよう。こちらも大艦隊をもって、同盟軍を壊滅させるのみだ」


 絶対的な勝利への自信。

 究極兵器と大艦隊があれば、同盟軍に負ける道理なし。


 そんなリーとは正反対に、カーラックは楽観できずにいた。

 銀河連合と同盟軍にも究極兵器・・・・は存在するのだ。


「魔術師らの警戒はどうなさいますか?」


「いくら魔術師であろうと、デスプラネットの相手ではない」


「油断は禁物だと思われますが」


「君、自分が父親の名誉に傷をつけた敗軍の将であること、よもや忘れてはいないか?」


「これは失礼しました」


 弱みを突かれ頭を下げるカーラックだが、内心ではリーを見下す。


 魔術師の力を侮ることはできないだろう。

 この油断が帝國を崩壊へと導きはしないだろうか。

 カーラックの不安は尽きない。


 それでもリーは余裕を見せている。


「デスプラネットの独房には、反銀河連合に傾く3つの惑星の元首もいる。次の戦いで、同盟軍は大艦隊を失い、銀河連合は内部分裂を起こし、我ら帝國が勝利を掴むのは間違いない」


 確信か願望か。


 少なくとも、帝國は次の戦いに勝利しなければならない。

 されど次の戦いに、カーラックの居場所はない。


「ああ、そういえば君の処分だが、ハオス提督と皇太子妃殿下、皇帝陛下の温情によって、本来は除隊をさせ銃殺刑に処すところ、すべての役職の解任と降級のみとなった。感謝するのだな、カーラック中佐・・


「はっ!」


 不幸中の幸いだ。

 落ちぶれはしたものの、せめて命だけは繋がったのだ。

 命がある限り、野望を叶えることができる。


――私は必ず、舞い戻ってみせよう!


 目の前のリーを引きずり下ろし、帝國の腐敗を一掃し、人間の栄光を取り戻す。

 カーラックの戦いは、まだ終わっていないのだ。

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