五感と巡り合いで覚える簡単魔法修行*なお蘇生魔法使いが必須となります
ぷっつぷ
第0章 プロローグ
第0章0話 そんな顔するなよ。ちょっと蘇っただけだろ
普段と変わらぬ生活を送っていたはずの街の住人たちは、突如として広場に集められ、帝國軍の兵士たちに命を奪われようとしている。
俺はそれを、許しはしない。俺は帝國軍の兵士たちに向けて、両腕を突き出した。
五感の記憶と想像力によって、突き出された両腕の先、住人たちと帝國軍兵士たちとの間に、分厚い氷の壁が現れる。
氷の壁は住人たちを守る盾。帝國軍兵士からの攻撃と、俺からの攻撃を防ぐための盾だ。
兵士たちは突然のことに混乱中。この隙に、俺は兵士たちに向かって
数多の小さく鋭利な氷柱は、兵士たちの武器を、足を、腕を貫く。
魔法を使った初の戦闘としては上出来だ。
「クソッ! 撃て! あいつを撃て!」
「同志が俺たちを殺すのか! 愚か者め!」
ありったけの憎悪を込めた銃口を俺に向け、威勢良く叫ぶ兵士たち。
俺は氷柱を撃ち出す先を、兵士たちの頭や胸に定めた。
彼らは罪なき者たちの命を奪ったのだ。ならば、自分が死ぬ覚悟もできているはず。
勝利を確実にするためにも、俺は相手よりも先に氷柱を撃ち放った。
魔力によって生み出された氷柱は、俺の意思と完全に同化し、一切の容赦もなく兵士たちを襲う。
氷柱が広場を過ぎ去ると、10人以上の兵士たちが広場に転がった。
ただし、兵士たちの反撃もまた、俺を襲うのだ。
よく訓練された兵士たちの銃撃によって、俺は肩や腹を撃たれてしまう。
とっさに生み出した氷の壁が俺を守ってくれたものの、危うく死にかけるところだった。まあ、死んだところで問題はないのだが。
「あんた、何者なの?」
氷の壁で兵士たちの攻撃を防ぐ俺の背後で、銃を握る少女——シェノが目を丸くする。
「俺のことは後だ! シェノ、さっさとグラットンのところに行け!」
「うるさい! 分かってる!」
口を尖がらせ、銃を手にし、建物から飛び出すシェノ。そのまま彼女は、兵士たちの死角を縫うように走り去っていった。
兵士から受けた傷は、俺の補佐であるフユメの治癒魔法で完治。再度、俺のターンである。
俺は広場の石畳に手をつき、水魔法を発動した。魔力によってどこからともなく湧き出した大量の水は、自由自在に広場を流れ、兵士たちの足をすくう。
間髪入れずに、俺は氷の壁から体を乗り出し氷柱魔法を使った。
水の流れに足を取られた兵士たちは、次々と氷柱の餌食となり、息絶えていく。
もはや残る帝國軍兵士は5人程度。
「良いものを見せてもらった! アハハ! 」
帝國軍兵士たちのリーダーであるデイロンは、声を裏返らせ大笑い。
あれだけの氷柱を全て回避したのだろうか。部下たちの死体に囲まれながらも、デイロンの体には傷ひとつない。
傷ひとつなくとも、同時に彼は、自分の置かれた状況を理解していた。
「退くぞ。援軍の到着まで耐えなければ、カーラック艦長に怒鳴られてしまうからな」
今の戦力では俺に勝てないと判断したデイロンは、そそくさと広場を去る。
デイロンが判断した通り、俺は彼らに負ける気がしなかった。だからこそ、俺は逃げるデイロンを追った。
広場に集められた住人たちは、氷の壁の中で凍えながらも、命だけは無事。守るべき命を守った俺は、倒すべき敵を倒すため街を走る。
平穏の残り香が漂うドゥーリオの街で、街の中心を貫く大空洞に向かって走るデイロンたち。
俺とフユメは、デイロンたちの向かう先に首をかしげた。
空洞に向かっているということは、つまり数万メートルにも及ぶ吹き抜けの断崖絶壁に向かっているということ。これでは彼らは、自ら退路を絶っているに等しい。
「あいつら、何を考えてやがるんだ?」
「援軍の到着まで耐える、と言っていましたけどね」
「まさか……!」
援軍とはこちらに向かってくるもの、と思っていたが、こちらから援軍のもとに向かっても良いのだ。
もしやデイロンは、援軍のもとに向かって走っているのではないだろうか。
この俺の推測を、空洞に伸びる桟橋に立ったデイロンが答え合わせしてくれた。
桟橋に立ったデイロンは、俺たちを正面に見据え、ニタニタと笑っている。彼の背後には50人規模の帝國軍兵士たちが並び、さらにはトラックサイズの揚陸艇が2隻、空を飛んでいた。
2隻の揚陸艇の船首にはブラスター砲らしきものが装備されており、それらは嬉々として俺たちを狙っている。
「アハハ、援軍が間に合ったな。ほら、あいつらを殺せ」
少年のような笑みを浮かべ、デイロンはご満悦な様子で手の平を振りかざし、部下たちに指示を出す。
兵士たちと2隻の揚陸艇は、殺意に溢れた攻撃を俺たちに浴びせた。
一方的に襲い掛かるレーザーの束。俺は身を守るため、氷の壁を作り出す。
しかし、激しいレーザー攻撃によって氷の壁は容易に打ち壊され、その度に氷の壁を再生させなくてはならない。
飛び散る氷の破片を横目に、俺は思わず舌打ちをした。
「チッ、面倒な……」
「ソラトさん、どうしましょうか?」
「どうするも何も、あいつらを全滅させるしか選択肢がないだろ。多分、今の俺ならそのくらいはできる。それに――」
「それに?」
「――援軍はこっちにもいるんだ」
空洞に轟く、揚陸艇とは違った獣の唸り声のようなエンジン音。
デイロンの背後に、空飛ぶ薄汚れた無骨な輸送船――グラットンが現れる。
直後、グラットンから放たれた青のレーザーが激しく揚陸艇に降り注ぎ、1隻の揚陸艇が炎に包まれた。
炎に包まれた揚陸艇はコントロールを失い、すぐ隣を飛んでいたもう1隻の揚陸艇に衝突、2隻もろとも地下世界に墜ちていく。
「シェノさんが操縦するグラットンです!」
「アハハ、これは想定外だ」
のんきに笑っているデイロンをよそに、グラットンのブラスターが兵士たちを吹き飛ばす。
抵抗らしい抵抗もできぬ兵士たちは、揚陸艇を追って地下世界へ。
さすがにデイロンもこれで終わりだろう、と俺は思っていた。ところが彼は、この期に及んでナイフを手に取る。
グラットンの登場に油断した、と俺が気づいた時、デイロンのナイフは俺の胸に突き刺さっていた。
ナイフの鋭い刃先は、痛みだけでなく、その姿形をも俺の五感に刻み込む。
すぐに俺の意識は遠のき、視界は閉ざされていき、体はふわりと宙を浮き、俺は死んだ。
標的を刺し殺したデイロンは両腕を開き、グラットンを挑発。
挑発している暇などないだろう。デイロンの背中に、鋭く尖ったナイフが刺さったのだから。
「ア……ハハ……これは……何が起きた? お前、どうして?」
「そんな顔するなよ。ちょっと蘇っただけだろ」
「お前は……おやおや……こんなことが起きるなんて……」
驚くのも無理はない。俺は今、死の世界から舞い戻ったのだ。
ブラウンの髪を揺らし、普段は快活な瞳を凛とさせた俺の補佐——フユメの蘇生魔法によって、俺はあの世から戻ってきたのだ。
五感で覚えた俺の新魔法——ナイフ魔法により、デイロンの背中は徐々に赤く染まっていく。
彼はよろけた足取りで、なんとか地面に両足をつきながら、しかし笑った。
「アハハ! アハハハハ! 命が散る瞬間は一度切りの大イベントだと思っていたが……例外が存在するとはな! 面白い! お前のようなヤツに会えるなんて、夢のようだ!」
狂気に呑まれたデイロンは、再びナイフを握り俺に向かって踏み込む。
ナイフの痛みなど感じていないかのような彼の攻撃に、俺は少なからぬ恐怖を抱きながらも、同じ失敗は繰り返さない。俺はデイロンに向けて氷柱を放った。
だがデイロンは、踊るようにして氷柱を回避、そのまま俺に突撃してくる。
とっさに氷の壁を作り出すも、デイロンは氷の壁を乗り越え俺を襲った。
あと数センチで死の世界、というところで、俺は風魔法を発動しデイロンから距離を取る。
突風により無理やりに体を飛ばしたため、地面に叩きつけられた俺。
獲物を逃したデイロンは、なおも楽しそうだ。
「まだそんな技が使えたのか? アハハ」
彼は強い。俺の魔法攻撃よりも、デイロンの戦闘経験の方が優っている。
この戦いに勝つためには、デイロンの戦闘経験を凌ぐような運が必要になってくるだろう。
喜ばしいことに、その運はすでに俺に味方していた。
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