「正義の味方」と「悪の敵」

@root0

第1話 再会

 王都アルテッド。あらゆる流通や政治活動の中心であり、世界最大規模の都市でもある。


 立ち並ぶ建物はコンクリートで精製され、小綺麗な住宅が並ぶ。通りは平常運転の活気強さを見せており、あれやこれやという喧騒が止む気配はない。見かける人々も貴族から一般市民、老若男女と幅広い人種が行き交っている。


 さすがは大都市。あいも変わらず騒がしい街だ。


 俺は片手に串団子を持ち、時々口に頬張りながら俺はその通りを気だるく進んでいった───。


 そうしてしばらく歩いていると、ある集団が目に入る。そいつらは真白く染まった鎧を着込み、街ゆく人間に目を配っている。

 そんな堅苦しそうな集団の先頭に、他の人間と比べいくらか軽装な身なりをした、顔見知りがいた。


「あ、ハガトじゃないか。どうしたの、こんなところで」

「おー、カナタ。久しぶりだな。お前こそどうしたんだよ」

「僕は見ての通り、この街の見回りだよ」

「お、奇遇だな。俺もだ!」

「どうせ暇だからぶらついてただけでしょ。全く、傭兵の仕事はどうしたんだい?」

「傭兵はお前ら騎士団と違って、好きな時に仕事を取って好きな時に休むんだよ」

「そうだったね。本当に、自由人の君にピッタリの仕事だよ」

「お前も、その生真面目な性格が騎士に似合ってるぜ。オマケにもう第一騎士団団長になったんだろ?天職だな、天職」

「そうだね。僕もこの職が合っていると思うよ。あ、そうだ。僕達これから昼休憩なんだ。良かったら、二人で街を見て回らないかい?」

「えー、男とデートする趣味はねぇんだけど」

「そう言わずに。こうして会えたのも何か縁だ」


 カナタはいつもの爽やかスマイルを繰り出してきた。その笑顔でどれだけの女性が落とされてきたことか。あー、なんか腹立ってきた。

 そもそもこいつの隣にいると比べられてる気がして落ち着かない。よって出した結論は───。


「嫌だね!」

「そうか。じゃあ、いつものカフェにでも行こうか」

「お前には耳がついてねーのか!」








「この街はいつ見ても平和だね」

「……………………」


 カナタはどこかの詩人のようにそう呟いた。結局ついてきてやがるし。

 俺はあからさまに不機嫌そうにがに股になりながら、食べ終わった団子の串をガシガシと噛んでいた。


「怒ってるのかい?」

「見てわかんねーのか!」

「随分嫌われたものだね」

「嫌いだよ。特に顔がな!」

「それは傷つくなぁ」


 カナタは傷ついている素振りも見せないままクスクスと笑みを零した。

 相変わらずムカつくヤローだな。


 などと心で愚痴っていると、ある老婆がふと視界に映った。


「邪神の…………。邪神の、復活を……」


 漆色のローブを羽織る老婆は、飢えや渇きを訴えるようにか細く何かを懇願している。

 道行く人間達はそれを白い目で見ながら通り過ぎていき、誰も近づこうとしなかった。


「あれは……?」

「最近街にやってきた、邪神教徒だよ」

「邪神教徒?」

「遥か昔、女神と邪神が壮絶な戦いを繰り広げ、その末に女神は全ての力を使い邪神を封印した。それにより、今のこの平和な世界がある。これくらいは、聞いたことがあるだろう?」

「あー、あったなそんなの。てことは、その邪神の宗教団体みたいなものか?」

「うん。そもそも彼らはこの世を支配するのは人間ではなく神であるべきだと考えている集団だ。女神の方は世界の守護。あるべき姿を維持することが目的。しかし、邪神は己が手で世界を闇に染め上げ支配することが目的。必然的に、その考えの人々は女神でなく邪神を崇拝することになる。そして、彼らは邪神教徒となった」

「ふーん。けど、それって大半の人間にとって不快なことなんじゃねぇのか?邪神を讃えるなんて」

「…………この国では信仰の自由が人々に与えられているからね。誰も強くは言えないさ」

「ま、実害があるわけじゃないんだからいいか」

「………………」

「?なんだよ?」


 カナタは不意に表情を陰らせて口を閉じてしまった。不審に思うが、その途中で教徒がある言葉を発した。


「巫女よ…………。お姿を現しください。我らは、ここにおりますぞ…………」


 老婆から告げられたその言葉にカナタは眉をピクリと動かした。そこですかさず問いを投げる。


「なあ、巫女ってなんだ?」

「…………邪神の巫女。邪神を復活させることのできる存在のことだよ」

「なっ?!そんなのがいるのか?」

「ああ。なんでも、その巫女がこの街にいるということで教徒達は探しに来たらしい」

「それってやばいんじゃないか?」

「と言っても、あくまで噂であり都市伝説だからね。けど、無視できる案件じゃない。だから僕達も見回りをしていたんだ」

「そうは言っても、お前らも教徒のやつらもどうやって巫女を探すんだ?そいつが教徒に協力する気がなかったり、自覚がなかったりしたら探しようがないだろ」

「邪神教徒の中には、邪神の血を引いている者もいると聞く。そして、その邪神の末裔が巫女と接触した場合、巫女の手に青いあざが出るらしいんだ」


 カナタはその端麗な顔を崩し、眉間にシワを寄せている。その険しい表情から、どれだけ深刻な事態かが嫌でも伝わってくる。


「…………そんな忙しい時に、俺と居ていいのかよ」

「別に、休憩中にも目を配ることはできるしね」

「そういうもんかね~。あ、だったら女神の末裔ってのはいるのか?」

「一応いるらしいね。見たことはないけど」

「そいつらも女神復活とかできるのか?」

「女神の戦士と呼ばれるのが、巫女と対極の位置にいるらしいから、その人ならできるんじゃないかな?」

「へー。そいつもあざが?」

「彼らの場合、何かを強く護りたいと願うと、手に赤いあざが出るらしいよ」

「そうなのか。ていうか、お前物知りだな」

「色々資料を漁ったからね。これくらいはとうぜ────」

「なーに楽しそうな話ししてるのっ?」


 唐突に、後ろから背中をこずかれた。何事かと振り返ると、そこには砂色のローブを頭まで被る人物が立っていた。


 顔の大半が隠れているが、声や雰囲気だけで誰かは見当がついた。


「王女殿下……!」

「ルイン……?!」

「シーっ!お忍びで来てるんだから大きな声出さないで!」


 ルインは人差し指を立て、俺達を咎めてきた。


「何してんだよお前…………」

「いや~。久しぶりに城を抜け出してきたら懐かしい二人がいたもんだからさ」

「王女殿下、またそのようなことを…………。いけませんよ、早く城に戻らねば」

「やだ、お断りしまーす。それと、式典とか以外で王女殿下っていうのやめて」

「いえ、一応そういうわけには……」

「相変わらず堅苦しいね、カナタは。それで、どこ行こうとしてたの?」

「あー、カフェだけど」

「お、いいじゃん!私も行く!」

「そんな、王女でん…………。ルイン、そういうわけには!」

「まあ、いいんじゃねぇか別に。昔みたいで」

「そうそう!さすがハガト、話しがわかるね。いや、何も考えてないだけか」

「お前の減らず口は相変わらずだな」

「あ、私お金持ってないから奢ってね?」

「自分で払え」

「王女命令です!」

「都合のいい時だけ王女になんな」


 そんな軽口を叩きあいながら、俺達はカフェへ足を進めた。


「ちょ、ちょっと!」


 それに戸惑いながら、カナタも後を追ってきた────。

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