無き手が守るのは
有里 ソルト
第1話
「あんた、どこかで会ったことないか?」
「いや、知りませんけど」
「そうかのお?わしゃ、あんたと会ったことがある気がするんじゃが。えーと、どこだったっけなぁ?」
「だから知らないですって。人違いじゃないですか?」
やたら絡んでくる爺さんをあしらいながら、俺は溜め息をついた。
最近ずっとこんな調子だ。
病院前の大通りを歩いてると必ず現れつきまとってくる、巷でも長話で有名なこの爺さん。
初めて出会った時から『どこかで会ったことがある』、『わしはお前さんを知っている』などと親しげに話しかけてくるが、はっきり言って俺には何の覚えもない。
見た目もだいぶ年寄りのようだから、きっとボケて誰かとでも間違えているんだろう。
邪険に扱うのも悪い気がするが、かといって付き合うと厄介だし、今日は何より急ぎの用事がある。
「爺さん、俺用事あるからまた今度にしてくれませんか?」
「おぉ用事か、そうかそうか。じゃあまた今度。わしはここで待ってるからな」
大きなほくろのある頬を掻きながら微笑む爺さん。
これで忘れてくれていればいいのだが、そういうことはちゃんと覚えているのか次来た時もしっかり待っている。
毎日毎日その繰り返し。
終わらない応酬に、俺はもう一度溜め息をついた。
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