宙船〜漂流少年は幽霊船の美少女艦長に拾われる〜

森川 蓮二

プロローグ 舳先に立つ少女

 顔を湿った風が叩く。

 数メートル先もみえない真っ白な場所で目にゴーグルをあてた少女はあぐらをかいて座っていた。

 濃霧の広がる周囲は濁った灰色に染まり、風切り音が耳をつんざく。


「ふんふんふふふーん」


 そんななかで少女は呑気に鼻歌を口ずさんでいた。

 すると首元につけた無線機がザザッと音をたてる。


「シエル、そろそろ信号が消えた場所だ。周囲を確認してくれ」

「りょーかい」


 シエルと呼ばれた少女が無線の声に返事をすると視界が一気に開けた。

 少女は船の舳先から立ちあがって周囲を確認する。


 目の前には漆黒の夜空と月が煌々と輝いており、下には先程抜けてきた雲海がみえた。

 海ははるかこの下だ。

 そんな空の上で目を凝らしていた少女はある一点をみて、無線機のマイクを取る。


「二時の方向に漂流物確認。消息を絶った船舶の残骸と思われる」

「了解。船をそちらに向ける。引きつづき状況報告を」


 ゆっくりと船が進路を右に取り、少女の視線も右から前へと向く。

 身につけていた双眼鏡を取り出して覗くと、大小様々な破片がまるで空から見えない糸に吊りさげられているように浮いていた。


 そんなプカプカと空を漂う破片を注視していた少女は一瞬動きをとめると突然、舳先から動いた。


「どうした?」


 すぐに無線から声が響く。艦橋からこちらの動きを見ていたのだろう。

 甲板を走りながら少女は答えた。


「人がいる! これより救助作業を行う!」

「待て、今日は気流が荒い。一人では――」


 うるさい無線機の電源を落とし、少女が船尾に設置された小型アンカーを手に取った。

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