【Third Season】第八章 PMC本社に挑め BGM#08“Laser Art.”《007》
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「好きに使ってくれて構わない」
高層ビルの一角でクリミナルAOが素っ気なく言うと、周囲からどよめきと口笛があった。無理もない、磨き上げられた床一面にずらりと並べられているのは一つ一つでリアルの国家を壊滅するほどの力を持つと言われる『遺産』なのだから。
AI制御のPMC兵ではない。
これからやってくる敵は、そんなものでは押し返せない。
かつてあった伝説的なチーム・コールドゲーム。その名に負けない有力ディーラー達を釣り上げる必要があった。そのための材料はこれしかない。
『
一度は彼が自分の手でかき集めた武器を、自ら放出する。
「君は良いのかい」
「もらえるものなら何でももらうわ」
応えたのはタカマサやカナメよりも年上の美女だった。ほとんど白に近いストレートのプラチナブロンドを伸ばした、スレンダーなシルエット。しかしその格好は、フランス人形のような可憐な目鼻立ちとは真逆にあった。
基本は競泳水着、だとは思う。
しかし上から着込んだTシャツを胸の上までまくり上げ、両足もニーソックスと呼ぶには明らかに膨らみ過ぎだ。トドメに、頭に巻いたねじり鉢巻き。なんというか、水着のラインを崩さずにトラック野郎を作り上げた、といった感じなのだ。
ディーラー名・ポルターガイスト。
車を使った殺害人数においては蘇芳カナメを超える、それだけに特化した戦術の使い手だ。この手の『名物』はチームの一角として互いをサポートするのではなく、単独のディーラーだけで生き残っているケースだと特にゲテモノ度が跳ね上がる。現実に、かつてコールドゲームを壊滅に追い込んだ戦闘狂・ブラッディダンサーもそうだったのだから。
「だけどテンプレで喜ぶっていうのもね、あなたの魂胆は大体見えるし」
「へえ、例えば?」
「あなたが自分の宝物を大盤振る舞いしているのって、つまり誰も彼も勝手にくたばるから『遺産』は自分の手元に戻ってくるって考えているんでしょ?」
「……、」
「つまりあなたは、根本的に人を信じていない」
きっぱりと。
競泳水着の美女はそう言い切った。
「周りのディーラーを見ていれば分かるわ。選定基準は一つ。AI社会に適応し過ぎた、非人間的な人間。そんなのばっかり集めている。純粋な利害で動くだけの人間は操りやすいし、捨て駒として使い倒すのに躊躇もいらなくなるだろうからね」
ここにいる全員がそうだった。
チームワークなど最初から期待していない。そういった真っ当な戦術で待ち構えても蘇芳カナメには勝てない事くらい、誰でも分かる。だからクリミナルAOは、かつて自分を破滅に追い込みカナメを退けた『実績』を持つブラッディダンサーを参考に極論を組み上げていくくらいしか手がない。そのための、意図した混乱。まるで電子レンジで水分子を手当たり次第に暴れさせて沸騰させる事で、手で触れるのさえ許さない分厚い熱湯の壁を構築していくように。
分かっていて、しかし少年はうっすらと笑ってこう質問する。
「どうして言い切れる?」
「私もそんな機械人間の一人だから」
期待通りの答えだった。
無表情のまま、競泳水着にTシャツをめくった美女はずらりと並べられた『遺産』の中から一つを手に取った。ギリギリまで銃身を切り詰めた上で、針金ハンガーみたいな簡易式ストックを取りつけたポンプアクション式のショートショットガン。
銘を『#
人を狙って撃つための武器ではない。一発撃ち込むだけで、自転車のロックから銀行の大金庫までありとあらゆる錠前の内部構造を物理的に破壊する『遺産』である。造りが単純なのは、アサルトライフルの銃身下に取り付けるアンダーバレル装備から出発した銃器だからだろう。
「報酬分は働くわ、利害として」
自分の命や人生が丸ごとかかっている中でも、眉一つ動かさない。
狙いは看破していると言いながら、しかし奇抜なトラック野郎の動きは滑らかで澱みがなかった。
「だけど注文通りに戦って生き残ったとしたら、その時は恨みっこなしよ。何で死ななかったんだって後になってから難癖つけてきても、こちらは対応しないのであしからず」
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