【Second Season】第五章 夜のテレビは脱皮する BGM#05”Killer Stunt”.《006》


 ミントグリーンのクーペが派手なエンジン音を鳴らして海岸線を走る。


 立方体の特徴的なビルの壁についているデジタル表示を見ると、午後六時過ぎだった。


 カナメはハンドルの縁を人差し指で軽く叩きながら、


「やっぱりいつものクーペだな……」


「むっ?」


「大型トレーラーだのクレーン車だのはサイズが合わない。あのでっかいハンドル握っていると肩が凝る。車高が変に高くて内輪差もすごいし、緊張がずっと続くんだよな。俺にはこいつが良く馴染む」


「じゃろう! そうじゃろうッ!! ふ、ふん……。至極当然の評価をもらっただけなので、ことさらわらわが何を思う事もないのじゃがな、ふんふんっ!!」


 なんか助手席で先が二股になった尻尾をぱたぱた振っているツェリカ。


 クイズプラチナビリオンを配信するタップTVの本社はいかにも気取った面構えで半島金融街の一角を陣取っていた。資材搬入用の無骨な大型トラックやロケ用のマイクロバスと、ピカピカに磨かれた送迎目的のタクシーやハイヤーがごちゃ混ぜになるカオスな光景は芸能界特有のものだ。アイドルや映画俳優と気軽にニアミスなんていうのも、リアル世界ではできない楽しみの一つか。


 もっとも、素性を隠してアカウントを作っているディーラーも多いので、単なる顔見知りと思ったら実はどこぞの大統領だった、なんて可能性もゼロではないが。


 並走する紅葉柄の赤い大型バイクからこんなチャットがあった。


『ミドリ>ガソリン満タンに、タイヤも新品……。いつものマシンなのに落ち着かないわ。なんか挙動が重たい』


『カナメ>バイクの場合は影響大きいかもな。でも今回は一度始めたら途中休憩のできない耐久レースだ。我慢してくれ』


『ミドリ>三時間もお尻をシートにのっけたままなんてゾッとするわね』


『カナメ>こいつのエンジンなら、渋滞に引っかからなければ日本列島を丸ごと縦断できるかもな。まあリアル世界でやったら一〇〇%捕まるが』


 リアルでできない事をやるからゲームは面白い。


 ただ、きらびやかな芸能まわりを見てみるとそれとは別の動きもあるようだ。つまり、実生活では手の届かないリアルを再現するからゲームは面白い、という考え方だ。


 彼らにとっては、芸能界そのものが大冒険に値する異世界に見えているのだろう。


『ミドリ>ハイヤーにロケバスに……。みんな自前のマシンとマギステルス持ってるのよね。赤の他人にハンドル任せるのって、怖くないのかしら』


『カナメ>そういうステータスなんだろ。弁当箱も入らないような小さなハンドバッグ振り回すのと一緒だ。不便を楽しんでる』


 しかしカナメ達の目的はネット放送局ではない。何しろAI企業本社級だ。まさしく最高警備。基本パラメータを底上げして半ば人型殺人兵器と化したPMC軍団が待っているとなると、戦車をダース単位で持ち寄ったって攻め落とせない。


 タップTVの横を通り過ぎ、そのまま海岸沿いをクーペと大型バイクが走り抜けていく。途中で小学生くらいの女の子とすれ違った。特徴的な魔女帽子にスクール水着。折り畳み式の電動バイクにまたがった女の子がスリングベルトで背中に負っているのは『オーバーキル』。元はと言えばセミオートの狙撃ライフルだったが命中精度の折り合いがつかず、屋内での施錠された錠前を狙うドア破りや壁ごと貫通しての標的制圧など、超近接戦に特化していった皮肉な銃だった。確かあのディーラーの場合、電気を溜め込むコンデンサ弾に詰め替え、銃身下部のスタン警棒とセットで戦う非殺傷カスタムにしていたはず。


『ミドリ>授業で使う水着って、こっちのゲームだと逆に新鮮ね。……なんか厚着に見えるのって私が毒されてきたからかしら』


『カナメ>あの顔は絶対に忘れるな。今のがスマッシュドーターだ、マザールーズと混ぜると大災害が巻き起こる』


 大型バイクにまたがるミドリがミラーではなく体ごと振り返るように視線を投げたが、すでに相手は雑踏の中に消えている。青みがかったセミロングの銀髪に小麦色の肌、タンクトップとスパッツ装備でスポーツジムのインストラクターみたいになったマギステルスと、大きな滝の模様が施された青いビッグスクーターがかろうじて分かる程度だ。


 スマッシュドーターの電動バイクは最初から無音だ。よって、助手席のツェリカは遠ざかっていくビッグスクーターが撒き散らす水素エンジンの爆音を耳にしながら、


「アプサラス型ねえ。ヒンドゥーの神様連中があまりに美しくて仕事にならないから、ケンカにならないようみんなの妻にしようって決めたほどの美人の集まりと聞いておるがの」


「何だツェリカ。サキュバス型としては気になるのか、そういうの」


「ふんっ、その話し合いの席にわらわが立ってりゃ伝説なんぞ変わっていたわい」


 ちなみにゼウスやユピテルの名前の語源にインド系の神様があるところを考えると、あながち洋の東西なんて遠い隔たりのある話でもないのかもしれない。


 ともあれ、本当に今回ばかりはあの二人組が現場に顔を出さない事を祈るしかない。


「それよりツェリカ、動画の分析は間違いないんだな」


「それわらわに尋ねてどうすんじゃ? 間違いを間違いと自覚したまま右から左へ報告流すほど愚かじゃないぞ」


 定位置、助手席のツェリカは小さな子供みたいに頬を膨らませながら、


「一〇〇万スノウ以上するプロ仕様のソフトで複数の動画の背景を色々補正かけて精査した。結果、極限動画の連中は普段、第二コンビナートを固定のロケ地にして殺人スタントの動画を撮影しておるようじゃの」


「敷地は広くてキロ単位の長い直線と入り組んだヘアピンのどちらも調達できる。自動車実験用のサーキットの代わりにはなるか」


「多様なリクエストに答えられる、十得ナイフみたいなホームが欲しかったんじゃろ。同じ敷地内じゃ大きな倉庫に、コンテナもいくつか借りておる。こっちは馬鹿げた自由研究の動画用じゃの。ラボって感じ」


「ああ、何か知らんが人気あるよな。常温で液体窒素爆発させたり、マグネシウムで遊んだりする系」


「例のマザールーズが合流してからはちょっと主婦っぽいというか、アクロバット料理に路線を変更しておるがの。液体窒素使って手作りフリーズドライに挑戦しようぜ! とか」


「……スマッシュドーターが星一個の低評価を乱発しまくって散々ディスっていたアレか」


「マザールーズ側も明らかにヤツ個人を釣って楽しんでおるのじゃから、果たしてどっちが振り回しておるのかのう」


 もはや余人には踏み込めないせめぎ合いである。


 タカマサも郊外にテントを張って武器の試射とかをやっていたが、そう言えば本格的なラボについては見た事がなかった。あれだけ『遺産』を抱え込んでいたのだから、どこかに秘密基地を築いていたか、あるいは前述のテントのように全て畳んで持ち運べる形で整えていたのか。


 マネー(ゲーム)マスターは化学反応についても嘘をつかない。


 魔女の大鍋や精霊の暮らす泉にポンと材料を放り込めば『遺産』が出てくる訳ではない。何かを作るためには、現実と同じ物理法則に従って自分の手で組み上げる必要がある。


 しかしまあ、バーチャル空間で化学反応の不思議を楽しむというのもフクザツな気分にさせられる。この演算能力、扱い方さえ間違えなければ新薬開発で難病患者を救えたかもしれないのに、人類が手を伸ばしたのは金と欲望の銃撃戦だった。


『ミドリ>コンビナートってAI企業の私有地じゃないの?』


『カナメ>判断が難しいところだが、港湾地帯と合わせて複数の企業のトラックやトレーラーが行き来できるよう、道路だけ共用地帯にしているケースが多い。つまり公道扱い。今向かっている第二だと、建物に入ったり積荷を破壊しない限りはPMC軍団に追われる心配はないんだ』


『ミドリ>ふうん、スナイパーとして動く時は注意が必要そうね。その言い方だと屋根に上がったらアウトっぽいし』


 もっと踏み込みたければレンタルで敷地内の倉庫を借りて陣地を確保する手もあるがの、と助手席のツェリカが向こうには聞こえない肉声で囁く。


『ミドリ>その、極限動画? ヤツらがクイズ大会でズルして優勝するのを阻止するために戦うんでしょ』


『カナメ>ああ。連中の常套手段はリアルタイムのライブ配信と殺人スタントを組み合わせた、世界記録の塗り替えだ。クイズ参加者がミスしても模範解答の方が間違っていると運営サイドに難癖つけて無効試合にする、復活チャンスだな』


『ミドリ>それを潰して、揺さぶりをかけるのね。オラオラ商売潰されたくなけりゃ「遺産」を渡して「リスト」について知ってる事吐きやがれ、と』


『カナメ>外野が番組を邪魔してるんだ。「実験場」で待機している連中を襲って、余計なスタント動画を配信できなくさせてやれば良い』


 常夏市半島金融街の海岸線は海水浴場、ヨットハーバー、工業地帯と様々な顔を見せる。カナメ達は角ばったコンクリートと細長い煙突がいくつも伸びた、石油化学コンビナートまでマシンを転がしてきた。夕暮れのオレンジと建物の黒い陰のコントラストが強い。


『クイズプラチナビリオン、賞金一〇億を掴むのは誰だ!? 生配信はこの後すぐ!』


 車載オーディオが陽気に語る。


 もうそんな時間か、とカナメはフロントガラスに現時刻を表示させ、


『カナメ>常にクイズ番組の流れに気を配るんだ。今回は番組の山と谷のタイミングで全体の状況が大きく動く。闇雲に攻撃するだけじゃ揺さぶれない』


『ミドリ>分かってる』


 具体的に第二コンビナートの敷地に差し掛かると、スライド式の鉄扉が開いたままになっていた。


 固定の入口。


『カナメ>狙撃に注意』


『ミドリ>そんなに危険なものなの? 実際の狙撃ってスコープの十字線に重ねて撃っただけじゃ当たらないんでしょ。風向きとか距離とか重力とか、色んな要因が重なるから当てられる条件はかなり限られるって聞いたんだけど』


 実際の、と来た。お行儀の良いコメントにカナメは思わず天を仰いでしまいそうになる。。助手席のツェリカは一周回ってけらけら笑っていた。ただ、もしもゲーム漬けの半端な知識で語る事が許されるならば、どこの誰が編集したかも分からんネット百科事典よりも金融と暴力の最前線で本物以上の狙撃を専門に取り扱い、マギステルスの演算補助や衣服のスキルを邪魔だと言い切って手動照準にこだわるカナメの言葉を少しは信じていただきたいものだ。


『カナメ>とにかく頼むよ』


『ミドリ>理由になってない』


『カナメ>確か、心配されると鬱陶しく思えるのは反抗期特有の不安定な心理状態だったかな?』


『ミドリ>っ、分かったわよ! 馬鹿!! しっとり熟れたレディはきちんとご好意を受け取りますう!!』


 実際にはそんな格言も名言もない。何となく有名人の言葉っぽい香りを漂わせておけばとりあえず従ってしまうというのもお年頃特有の反応ではあるのだが……まあ、これ以上は野暮か。自ら泥沼に陥る必要はあるまい。


 いったん剥き出しのミドリのバイクをクーペの後ろに下げ、ゆっくりと門を抜ける。実際には何もなかった。極限動画のテリトリーを示すものだろう、小型のビデオカメラを手にした死神をモチーフにした毒々しいスプレーの落書きで彩られたアスファルトを踏んで、広大な敷地内へ。


 複数の四角い工場に、歩道橋のように道をまたいでのたくる太いパイプの束。薄闇に染まりつつある大空に向けて竹林のように煙突が並び、赤い航空障害灯が妖しく点滅している。死の匂いが充満した夜の港……とはまた違った。噴き出す蒸気、行き交うフォークリフトや大型トラック、鉄塔じみたガントリークレーンは真横にスライドしていき、作業服の男達が忙しそうに歩いている。どれもこれもAI企業の血の通っていないNPC社員だろうが、それでも人の活気があると随分変わるものだ。退屈な昼下がり、家事をする時に賑やかしが欲しくてテレビやラジオをつけっ放しにするのと同じかもしれないが。


 そして、


「な、な、なんじゃこの山は……?」


 助手席のツェリカが唖然としていた。


 資材置き場のスペースには鉄の塊が山積みされていた。三階より高いが、コンテナで作ったピラミッドではない。


「うおおい!? あっちもこっちも潰れてぺしゃんこになったマシンだらけ。車の墓場になっとるではないか!!」


 ハンドルを握るカナメは何の気もない調子で、


「検索が足りてないぞツェリカ、現場でやってる臨時イベントくらい調べておけよ」


 歩道橋のように道路をまたぐ鋼管の群れには、こんな横断幕が掛けてあった。




『邪魔なお古にバイバイ! 常夏の鉄くずフェア。アイラブFe、グラム五スノウで換金します!!』




 ぴくぴくと。


 あまりの言い草に、もはやツェリカは軽めにケイレンしていた。


 ガシャガシャン!! という耳を叩く重たい響きは、踏んづけたサンドイッチみたいになった車を重機で雑に積み上げている音か。


『ミドリ>溶鉱炉へぶち込んで鉄骨にでも作り直すのかしら。グラム五スノウ……これってイイ事なの?』


『カナメ>そこらの軽でも一台三〇万から四〇万くらいで買い取ってもらえるよ。へえ、ろくに走れない廃車だったら普通の中古ショップに流すより美味しいんじゃないか? 走行距離だのエアコンから変な匂いが出てくるだの、あれこれ難癖をつけられる事もなさそうだし』


「ぶじゃっ、ふざけるなよクソ馬鹿旦那様ども!! キサマら車に対する愛ってものがカケラも存在せんのかあッ!?」


 きちんとした駐車場に停めてある車やバイクは破壊できないが、逆に言えばそれ以外なら話も変わってくる。レートが良いので、この分だと道を走る他人の車を爆破してレッカー車で引きずり回してきた輩も少なからずいるだろう。


 こうなってくると、ヤツらのテリトリーと言っても極限動画以外の一般ディーラーもたくさん行き来していそうだ。カナメ達がコンビナートの中を走っていても怪しまれないはず。具体的なアクションに出るまでは。


『カナメ>ミドリ、地図の情報を共有するぞ。あちこちアイコン置いてるけど、俺のクセは分かってるよな』


『ミドリ>ういっす。全体的には、海沿いは長い直線、内陸に向かうほど工場とか倉庫とかで道が狭くゴチャゴチャになっていくって感じで良いのよね』


 海沿い、ガントリークレーンや潰した廃車の山が並ぶ長い直線ルートを安全運転でゆっくり流していくと、いくつか車やバイクが溜まっているのとすれ違った。車種は様々だったが、車のボンネットやバイクのガソリンタンクにはコンビナートのあちこちにスプレーで描かれたグラフィティアートと同じトレードマークが塗装してある。小型のビデオカメラを手にした死神。たむろしているのはマッチョな大男から水色のランドセルを背負った小さな女の子までまちまちだ。……もちろん、年齢や性別がみんなその通りとは限らないのだが。


 全体的には夜の港に集まる不良軍団に近いが、その中に一つ、あまりに異質な影があった。


 ふんわりした栗色の髪。


 簡素なシャツにジーンズ、パステルカラーの家庭的なエプロン。全体の印象としてはテンポの遅れた若奥様なのに、自然にお尻のラインを見せつける女性ディーラー。彼女のおっとりとした顔立ちだけが、殺気と緊張感で満たされたスタント集団の中でひたすら浮いている。


 寂しさを埋めるため周囲の全てを陥落させる底なし沼。


 マザールーズ。


 銃よりも、車よりも、まずあの甘い女の横顔に獅子の嗅覚が危険信号を発してきた。


「極限動画の待機組を発見、と」


 滑走路のように長い直線は自動車実験の基本、殺人スタントの鉄板だ。最高速度の記録更新に最適。ジェットエンジンやロケットエンジンを搭載したドラッグマシンを走らせるのに使う。他にもジャンプ台を設置しての空中技、藁や段ボールを燃やした炎の壁の突破だって、長い助走があった方がやりやすい。


「時報じゃぞ」


「……、」


 一秒刻みの特徴的な電子音がいくつかと、続けて七時を伝える長い電子音。


 フロントガラスの一部を切り抜いて表示させた四角いウィンドウに、タップTVのライブ配信番組が表示される。




『七時になりました! クイズプラチナビリオン、いよいよ月に一度の本選スタート!!』




 導火線に火が点いた。


 これから三時間の生配信中が戦場となる。


 大空の色もまた、夕闇から完全な星空に変わっていた。


『タップTV本社社屋屋上のヘリポートに用意した特設会場から、司会はわたくしメガネの似合う博士号持ち、バニーKがお届けしますっ。それでは予選を勝ち抜き、一〇億スノウを掴む資格を持った一〇名の猛者……参加者の皆様のご紹介から行きましょう!!』


 ポンポポン、とんとんタタン、と。


 離れた場所で赤や緑の花火が打ち上げられているのも、おそらく番組と連動した演出だろう。


『銃と車を見るとエンジニアの血が騒ぐ、スーパーアンサーさん!! アニメとデータアイドルならこいつに任せろ、Mスコープさん!! それからそれからあ……』


 いよいよ始まった。


 獅子の嗅覚。鼻の頭のチリチリとした反応が自己主張を強めてきた。


 ヤツらが抱えている『遺産』と、消えてタカマサが残していった想いの欠片、ルーズリーフの断章や写本と、それを読み取るための乱数表のワンセット。


 もう誰にも蹂躙させない。


 全てを取り戻すためなら、命を懸けて戦える。


『カナメ>仕掛けるぞ、ミドリ』


『ミドリ>連中のコーディネート情報共有しましょ。銃撃については近距離メイン、だけどそっちより鈍器や車対策の耐衝撃スキル「ショックプルーフ」の重ね掛けにバランスを傾けているわ。あれ、きちんと撃って当てないとフォールしないかも。爆発で派手に吹っ飛んだり、車とぶつかって転がったりした程度では安心しないで。


『カナメ>マザールーズも? 実用的なスタント組とは毛色が違うようだが』


『ミドリ>あれは別格。衝撃系に強いのはもちろんだけど……例えば、あのエプロン特殊繊維よ。その上、防弾の「バレットプルーフ」、鈍器や車の「ショックプルーフ」、炎の「ファイアプルーフ」、とにかく防御と名のつくスキルを片っ端からイロイロ重ね掛けしまくって厚みを盛ってる。防弾も倍々で積んで半端じゃないわ、多分真正面からだとゼロ距離ショットガンくらいじゃ死なない。常に見えない盾を構えているって考えて』


「……あれでスキルも『遺産』も全く頼っていないとは、相変わらずおっかないのう。服の上から乳首の位置まで探り当てられそうじゃ」


「そういうのシンディが得意だったよな。真面目な顔してあのダークエルフ……」


「アヤメのマギステルスか。それでいっつも引っ叩かれていた気もするが」


「あれはああいうコミュニケーションなんだろ」


 ハンドブレーキを引いた。


 ギャギャギャリギャリ!! と派手なスリップ音を鳴らし、ミントグリーンのクーペの尻を振り回してUターン。つい先ほどすれ違ったばかりの極限動画の車やバイクの群れに強烈なヘッドライトの光を浴びせ、ハンドブレーキを戻してアクセルペダルを強く踏みつける。




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