第二章 地底と天空 BGM #02 ”dive to freedom”.《008》


◆◆◆


 サーバー名、シグマブルー。始点ロケーション、常夏市・半島金融街。


 ログイン認証完了しました。


 ようこそリリィキスカ=スイートメア様、マネー(ゲーム)マスターへ。


◆◆◆


 ダックスフントみたいに胴体の長い黒塗りのリムジンの中で、おでことメガネの少女、リリィキスカは苛立っていた。


 やって来て早々、中央のガラステーブルに散々な報告がぶちまけられていたからだ。いくつものウィンドウが開き、同じ『銀貨の狼Agウルブズ』のメンバーから悪い話ばかりが続く。


『ヤバい、ヤバいヤバいヤバい! ヤツら、どうやってか知らねえが気づいていやがる! コントローラを直接狙われているぞ!?』


 すでに半島金融街を中心に、マップ上に複数の赤いバツ印が書き込まれていた。


 その全てが先物取引の価格を作為的に動かすためのコントローラの位置だが、実際に現場を見た者はおそらく首をひねるだろう。


 そこにあるのは建物ではない。ただの錆びついた金属製のダストボックスなのだから。


 ただし、


『野菜工場だ! ゴミ箱に偽装してあっちこっちに分散させておいた野菜工場が、焼夷弾か何かで次々と吹っ飛ばされてる! くそ、舐めやがって、くそ! ここもだ!!』


 先物価格を操る方法は二つ。


 一つ目は、貨物船や列車を爆破して、商品が街に届くのを阻害する。量を絞れば自然と値は高騰していくはずだ。


 そして二つ目。『銀貨の狼Agウルブズ』自身が栄養剤と紫外線ライトを使ってこっそりと食糧を育て上げ、必要なタイミングで市場へ大量に流してしまう。こちらは逆に、供給過多によってだぶついた在庫の存在が、本来の商品の値段を大きく下へ崩してしまう。


 プラスとマイナス。


 双方を押さえる事で、『銀貨の狼Agウルブズ』は絶対負けない勝負をしているはずだった。


 そのはずだったのに、


『ふざけやがって……見つけた、見つけたぜ。あのミントグリーンのクーペ!! 今すぐ蜂の巣にしてやる!!』


「待ってチタン! 増援で取り囲むのを待っ―――」


 声は届かなかった。


 いきなり通信が途絶したからだ。


 最初意味が分からず、やがてじわじわとリリィキスカの脳裏に冷たい事実が浸透する。


「……うそ、でしょ……?」


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