ハロウィンタウンの魔女とニャル

かーや・ぱっせ

ハロウィンタウンにようこそ!


 現在、10月31日の恒例行事とされている「ハロウィーン」。昔は、この日の日没からが一年の始まりとされていた。

 各地で一年の始まりを迎えた後は、これまでの収穫を祝い、これからの豊作を祈る為、夜通し祭りを行ったとされている。


 しかし、とある世界のとある街では、年に一回に限らず、毎夜その催しを行っていた。

 その街の名は、“ハロウィンタウン”と呼ばれた。




 この街の人々は、誰もが不思議な力を持っている。


 ある人は、お菓子を生み出す魔法の持ち主。

 ある人は、動物に変化する力の持ち主。

 ある人は日の光を力に変え、またある人は月の光を力に変える。等。


 あらゆる種族が分け隔てなく過ごしている――それがこの街の特徴だ。


 今日も、各々が育てた産物を持ち寄り、人々はご馳走の準備に奔走する。

 そんな街の上空を飛んでいるのは、ほうきの柄に腰を下ろす少女。とんがり帽子に黒猫を従え、暗くなる程に街がにぎわう様子を見守っていた。


「今日も街は異常なしね」

「そのようにゃる――さあ、私達も準備にとりかかるにゃる! 早くしないと間に合わないにゃるよ!」

「大丈夫よ、ニャル」


 慌てない慌てない、と言うなり少女は、柄の前方にぶら下げていた、黒猫の顔をかたどったバッグに人差し指を向ける。


「トリート・コム・ドロップス!」


 言い放った少女が指をパチン! と鳴らすと、バッグの中があっという間に、色とりどりに個包された飴でいっぱいになった。


「すごいにゃる! いつの間に準備してたにゃる? ――」

「あっダメよニャル!」

「にやあっ?!」


 黒猫――ニャルが飴に近付くところを、少女が柄を持ち上げて制すると、ニャルから小気味よい発破音と煙が飛び出し瞬間! ほうきが勝手に急降下し始める!

 少女は慌てて柄にまたがるような姿勢に変え、両手で思い切りほうきを引き上げた!


「ぅぅぅんんんんんんん――!」

「ぶつかっちゃうにゃるぅううううう!」


 やがてほうきは、石造りの建物の、寸でのところで止まった。胸を撫で下ろした少女は、自分の下でうろたえるニャルに鋭い視線を向ける。


「ちょっと危ないでしょう! 急に変化するなんて!」


 ごめんなさいにゃる、と反省の声色で答えるニャルは、猫の姿をしていなかった。

 真っ黒い猫の耳と、S字を描く黒い尻尾は健在だったが、指を五本生やした両手と、すらりと伸びた脚を使って、上手に柄にしがみつく姿は明らかに、人だ。

 そんな彼女の脚が地についたことを確認すると、少女もひょい、と建物に下り立った。


「でも、やっぱりニャルのせいじゃないにゃる! トルテがいきなり跳ね上げたから、こうなったにゃる!」

「私がそうしたのはニャルが手を出そうとしたからよ? ニャルが手を出さなきゃ、あんなことしなくて済んだんだから!」

「だって、確かめなきゃいけなかったにゃる! トルテの作ったお菓子が、ちゃんと美味しいお菓子なのか――」

「それがダメだって言ってるのーっ!」


 このように騒ぎ立てる二人に、建物の下から、トルテちゃーん! と呼び声が。


「まーたニャルちゃんがつまみ食いかーい?」

「んにゃあ!! 誰にゃるそんなこと言う人は!」


 そう叫び、建物から身を乗り出したニャルが見た光景は、建物下で誰もが動きを止め、微笑みを浮かべてこちらを向いている、というものだった。ニャルが顔を見せたことで歓声も上がり、手を振る人も出てくる。


「そうなの聞いて!」


 と言い放った少女――トルテが不意に中空へ飛び出した。それから手早くほうきの柄に腰掛けたトルテは、羽が舞い落ちるような速さで人々に近付いてゆく。


「私が丹精込めて作った飴を、ニャルがつまみ食いしようとしたの!」

「あ! それは言いがかりにゃる!」


 今度はニャルが建物から飛び出した!

 飛んだ勢いそのままに、ニャルはトルテを巻き込んで急降下! そうして二人が落ちた場所から砂煙が上がる。


「もう! 何てことするのよ! ――」

「だって、トルテが嘘つくにゃる! ――」


 このように喧嘩する魔女と黒猫を、周りの人々が仲介する――これが催しの余興として定着している光景だ。




 そんな彼らが繰り広げるにぎやかな毎日は、一体どのようなものだろうか?

 人々の輪の中心にいる魔女とニャルの家にお邪魔して、少しだけ、生活を覗かせてもらおう――。


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