迷宮  (リライトリレー)

 行く当てのない私。

 ふらっと迷い込んだココは、迷宮と呼ぶに相応ふさわしい場所だった。


 そう気が付いた時には、もう遅い。

 私はこの迷宮から抜け出せなくなっていた。


 眼前には眩暈めまいがするほどの分岐路が待ち受けている。

 分岐の一つを進めば、退路は消え、引き返すことはできない。

 前に進むしかないのだ。


 ―私は、ただ、ひたすらに、足を進める。

 消えて行く退路、変わらない風景。

 ココから抜け出せるのかと言う不安と、孤独感が胸につのって行く。


 そんな時、目の前にいくつかの扉が現れた。

 私は初めて訪れる変化に、安堵しつつも、恐怖を覚える。


 しかし、退路は無い。

 今は、選んで前に進むしかないのだ。


 私はそのうちの一つのドアノブを掴むと、思い切って回す。


 「よぉ」

 扉を開けた先。

 そこには軽快な笑顔を浮かべる、男の子が立っていた。


 動揺して扉の方向に振り返るが、案の定、扉は消えている。

 やはり、後退は許されないらしかった。


 「は、初めまして…」

  私は緊張と、安堵の入り混じった心情で、彼に声を掛ける。


 「あぁ、初めましてだな。…所で、お前もここで迷子になった口か?」

  私は首を小さく縦に振る。


 「そうかぁ…。実は俺もそうなんだ。…まぁ、俺の終点はここだから、もう迷子ではないんだがな」

 そう言うと、彼ははかなむように、部屋の中を見渡す。


 私もそれに釣られて、目をやれば、そこは男の子らしい部屋だった。

 そしての部屋の奥。一つだけ、前に進む扉がある。


 「先には進まないの?」

 私が問えば、彼は「あぁ」と、小さく呟いて、私に向き返る。


 彼は少し悲しそうに、寂しそうに、笑顔を作ると、「行ってきな」と言って、私の背中を押した。


 「え?」

 私は咄嗟の事にバランスを崩し、扉に手をつこうとする。

 しかし、その手は扉をすり抜け、転んでしまった。


 「いたた…」

 顔をあげれば、先程までと同じような、無限にも思える分岐路が広がるだけ。

 振り返っても、そこには、壁しかなかった。


 私は彼の事なんて何も知らない。

 それなのに、痛い様な。寂しい様な気がして…。


 それでも、私は前に進む。それしかないから。


 不思議なもので、歩いていると、段々と痛くなくなって行く。

 思い出になって、忘れて行く。


 もう、彼の顔が思い出せないのだ。

 私はそれがたまらなく嫌で…。


 しばらく進むと、またもや扉達が立ちはだかった。

 私はそのうちの一つを開けると、扉を潜る。

 その部屋は真っ暗だった。


「入ってこないで!」

 闇の中から、誰かの叫び声が聞こえた。


「出口はあっち!早く出て行って!」

 確かに、扉は真っ暗な世界で、白く、輪郭しんかくだけを保っていて、すぐに見つける事ができた。


「ここは私だけの場所なの…。だからお願い…」

 最後には泣き出しそうな声が響いてくる。


 何とかしてあげたい。

 …でも、なんとなく、私にはどうにもできない事なのだと、理解できてしまった。


「…ごめんね」

 私は小さく謝ると、扉を開き、先へと進む。


 扉が閉まる直前、彼女の泣き声が聞こえた気がした。

 しかし、振り返った時にはもう遅い。

 扉は消えてなくなっていた。


 仕方なく、私は前に進む。


 それからもいくつもの分岐があり、いくつもの扉と出会った。

 扉の向こうには様々な住人がいたが、一様に前に進もうとはしない。

 私は、すぐに別れる事になる彼らに関わることが、無意味だと悟った。


 それからは唯々、進み続けた。

 住人を無視して部屋を潜り抜けると、疲れなかった。


 次第に物を考える事が面倒になって行き、進む目的すらも忘れて行く。

 自分が何をしているのか分からなくなった時、私はその扉に行きついた。


 無造作に開いた扉の先。

 私の頬を冷たい風が撫でる。


 はっと我に返り、足を止めてみれば、そこはとても高い場所だった。

 上を見上げてみれば、秋の澄んだ空がどこまでも続いている。


「え?」

 私は背後の扉が再び空いたことに驚き、振り返った。

 そこにはうり二つの私がいて…。


「まって!そのまま進んだら落っこちちゃうよ!」

 …如何どうやら彼女には私の声が聞こえていないらしい。

 それならばと、私は彼女の肩を掴もうとするが、その手はむなしくも、すり抜けてしまった。


 そのまま彼女は前へ前へと進んでいき…。


 ―彼女は前に進めたのだろうか。

 私には分からない。

 なんせ、私には先に進む勇気が無いのだから。


 戻る事も進むこともできないこの場所。

 ココが私の終点。


「…嫌だなぁ…。こんな殺風景な場所が終点なんて」

 何となく見上げた空に、イワシ雲が浮いていて…。


「あ、そう言えば、サンマ食べたいな…」

 私はきびすを返すと、帰路に着いた。

 今日は魚屋さんに寄って帰ろう。


==========

※おっさん。の小話


 おはこんばんにちは。おっさん。です。


 今回は、リライトリレーに参加させて頂きました。

 原作は下記URLですので、宜しくお願い致します。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054885374750/episodes/1177354054887775261


 さて、原作を読んだ方は、「どこがリライト?!別もんじゃん?!」と、感じられるかもしれません。


 今回は、原作を読んだ際に、おっさん。が骨に感じた部分以外を溶かし、再度、骨に、おっさん。なりの肉をつけた作品の為、このような惨状になりました。


 皆様は、迷宮と言われた時、どんなものを思い浮かべましたか?

 密林?古代遺跡?ゲームに出てくるようなダンジョン?或いは新宿駅かも…。


 まぁ、何でも良いのですが。

 

 貴方様の想像した迷宮が、この迷宮です。

 そして、登場人物たちの正体も、貴方様が想像する通りの結果です。


 さてさて、今日も誰かが迷宮に迷い込んできましたよ。

 抜け出すことが幸福か、忘れる事が幸福か、迷える旅人たちが、自分たちなりの真理に辿りつける事を祈って…。

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