第96話 帰還


 頭の痛みが引いたのか、

「よいしょ。」

 立ち上がり、

「一回、帰りましょうか。」

 神父に向き、

「歩ける?」

 確認した。


 答えるレイモンド神父は、

「はい。もう、大丈夫です。」

 壁に手を当て立ち上がった。


「このままで良いんですか?」

 ペーターが言っているのは、装備の回収だった。


「どうせ、もう一度来ないとだし。回収はその時にしましょ。」

 辺りを見回し、何かを探す白頭巾。


「解りました。」

 ペーターも納得した。


 視線が止まり、次に顔が止まった。

「あった。」

 そして、歩き出す。


 近付いたのは、床に転がっている銀の短剣。

 その柄は、がっつりと握った手首が付いている。


 拾い上げると、マーシュ神父に向かう。


 傍らに立つと、右膝立ちに体制を低くした。

 銀の短剣の柄に付いたままの手首を外し、マーシュ神父に背中に乗せ、

「返しとくわ。」


 改めて銀の短剣の柄を握り、マーシュ神父の頭に突き立てた。


 反応を見る。

「大丈夫、死んでる。」

 確認した。


「こっちは…。」

 磔にされしモノ【銀の牙】を向く白頭巾。


 確認。


「大丈夫そうね。」

 その言葉の通りに、端という端から黒い粒子になり、空気に溶けていた。


 銀の短剣を腰の鞘に納め、

「とりあえず、手近な荷物だけ持って帰りましょ。」


 頷く、ペーターと神父。




 そして、三人は王の間を後にした。





 迷宮の帰り道。



「灯りだ。」

 子供達の眠る場所で、ペーターが声を上げた。


 近付くと、

「こんなところに子供達が寝てる…。」

 事情を知らないのだから、当然と言えば当然の疑問。


「この子供達は操られて囮にされたのよ。だから、眠らせたの。」

 状態を説明し、

「私達だけじゃ運べないしね。」


「そうですね…。」

 ペーターも納得した。





 教会の秘密の出入り口。



 白頭巾の、

「帰ったぁ…。」

 疲れを、苦労を、その一言が集約していた。


「こんな所に入り口が…。」

 入る時に、二人が驚いたのだから、ペーターも同様に驚く。


「ペーターさんも無事で何りよです。」

 神父は、喜んでいはいたが複雑な思いなのが、声で解った二人。




「市長の所へ行って、人集めないとね。」

 面倒な仕事と言った口振り。


「待ってください。」

 神父が止めた。


「あら? どうして?」

 不思議そうな二人の顔が、神父を向いた。


「その格好で街中を歩いたら、出会う人が驚きます。」

 言われ、思い出したように下を向き、自らの姿を再確認した。


「やだ。忘れてた。こんな汚れたみっともない服なんて見せられないわね。」

 ペーターも頷く。


「そ、そう…。」

 言葉を飲み込み、

「羽織るものを持ってきます。」

 取りに行った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る