第95話 起きる


 何処か遠いところで呼ぶ声…。


 そして、揺れ。


(ゆっくりさせてよ。今日は眠いんだから。)


 揺すられる。何度も、何度も。


(頭にきた!)


「もう、今日は眠いんだから、ゆっくりさせてよ! ペーター!」

 怒りが爆発した。


「起きた。」

 起きた事に驚き、呆気にとられたが、直ぐに気を取り直し、

「何、寝ぼけてるんですか! ご主人様!」

 反撃した。


「うーん…。」

 ゆっくり手足を動かす。


 暫時。


 うつ伏せから、転がり仰向けになると、上半身をゆっくりと起こした。

 重力に引かれ頭巾が落ち、背中へと脱げた。



「あれ? ここは?」

 周りを見渡すが、今一つ状況を把握できていないようだ。


「場所については、こっちが聞きたいですがね。」

 ペーターの苦情。


「あったま(頭)、痛ーい。」

 両の人差し指で、こめかみを軽く突っ付いた。


「大丈夫ですか?」

 ペーターが心配するのは、日頃はそんな事を言わないからなのだろう。


「ひっさし(久)ぶりに、痛い…。」

 左手の甲を額に当て、そのまま首を後ろに反らせ天を仰いた。


「ここが何処か思い出しました?」

 視界の端に、倒れているレイモンド神父を見付け向かうペーター。


 その背中に、

「うーん、まだ駄目…。」

 今度は眉間を右の親指と人差し指で掴んだ。



 うつ伏せのレイモンド神父の背中に、耳を当てるペーター。

「生きてる。」

 揺すり、

「神父さん。起きて。」

 繰り返す。白頭巾にも同じ対応だったのだろう。



「うっ…。」

 目覚めた。



「大丈夫?」

 ペーターの声に反応し、そのまま起き上がろうとするが、体を捻り座り壁にもたれかかる。


「多分、大丈夫ですが。少し、頭がボーッとしますが。」


 神父を確認する様に見回すペーター。

「怪我は無いようだけど…。」


「体に痛みは有りませんから…。大丈夫かと…。」

 神父も自らを確認した。



「あぁぁぁぁぁ!」

 怒鳴り声にも似た悲鳴だと思われるものが上がった。


 驚き、直ぐ様反応したペーター。

「ど、どうしたんですか! ご主人様!」

 慌てていた。


 駆け寄る。


「何かあったんですか!」

 心配する気持ちが声を強くしていた。


「見てよ。ペーター…。」

 俯き加減になり、

「お気に入りの服が汚れてるのよ…。」


 心配が呆れに移行し始めた。


「それに…。」

 胸元を掴み、

「穴が空いてるし…。」


「はぁ…。」

 完全に呆れていた。


「もう、信じらんない。」

 怒り。それが今の表情。


(不思議だ。今の台詞何処かで聞いた気がする…。)

 霞が掛かった様な記憶。思い出せないが、心が覚えている何か。


「やんなっちう…。」

 落ち込んでいた。




「ところで、ここは何処ですか?」

 ペーターが聞いたのはどちらなのか。


「ここは、教会の地下にある迷宮の最深部ですよ…。」

 神父の答え。


「えっ!?」

 驚くペーター。


「そうそう。人狼のボスがここにペーターを拐って来たのよ。」

 思い出したようだが、先程の服の事を引きずっているのか、声に力が無い。


「人狼のボスが!?」

 慌て『キョロキョロ』と表現されるほどに頭を振り、見回すペーター。

「あっ…。」

 同時に頭を止めた。

「誰か倒れてる。」


「マーシュ神父…、彼が人狼のボスだったのよ。」

 まだ、胸元の穴を弄っていた。


「死んでる…。」

 語尾は疑問系だった。


「当然じゃない。生きてたら、私達が死んでるか、人狼になってるわよ。」

 先程の服の事が、頭の痛みを吹き飛ばしたように、声に力が戻ってきていた。



「でも、誰が…。」

 ペーターの疑問。この場にいた全員が気を失っていたのだから、当然である。


「誰って、私以外いないでしょ。」

 自信満々。


「ご主人様。気を失ってってたじゃないですか…。覚えてるんですか?」

 更なる疑問。


「うーん。」

 考え、

「覚えてない。」


「じゃあ…。」

 言いかけたところへ。


「きっと覚えてない程に簡単に倒したのよ!」

 納得し、

「それ程、凄い狩る者になったのね。私は。」

 答えにした。

「うんうん。」

 腕組みし、頷く。

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