第74話 真実


「あれは…。」

 目を瞑り天を仰ぐ。左手は胸に、右腕を軽く曲げ、手先は空気の感触を確かめるかのようにゆっくりと動かす。


「私が、人生の終わりを考え始めた頃です。」


 語る口調もゆっくりと間を取りながら。


「何か、私の生きた証を残したいと…。」


「そして、私は思い付きました。」


「傷みが激しい教会を修復して、名を残そうと…。」


「修復箇所を調べていた時に、偶然にも壁の中に塗り込められていた手紙を見付けたのですよ。」


「手紙と言っても、石版でしたがね…。」

 傍らに落とした視線の先に石の板が転がっていた。


「その手紙には、嘗(かつ)てこの街で起きた人狼事件の事が、事細かく書いてありましたよ。」


 白頭巾の顔が『あちゃー』と表現される表情となった。


「後世で何かあった時の用心にと当時の神父が残したのでしょう。」


 次の白頭巾の表情は『参った』なのは当然であろう。


「半信半疑のまま手紙にある教会の場所を調べたら、地下への秘密の扉を見つけたのですよ。」


「手紙に導かれ、私はここに辿り着きました。」

 同時に上げた両手も天を仰ぐ。


「そして、出会いました。磔にされしモノ…。【銀の牙】に。」

 指す右腕は、芝居がかっていた。



「ええ、当然【銀の牙】についても詳しく書かれていましたよ。」


「余程、書いた神父がまめだったのでしょう。」


「驚くべき再生能力。心臓を潰しても、復活する怪物…。当時では殺せなかったようです。」


「苦肉の策として、心臓を刳(えぐ)り出し別に封印しておく…。そうやって時間で殺す事にしたと。」


「そこで考えました。」


「この【銀の牙】の再生能力が手に入れば、私の老い先短い人生が時の呪縛から解き放たれるのではとね。」


 目を閉じ思い出していた。


「一縷(いちる)の望みを込めて私は、この中の封印された心臓を喰らいました。」

 ゆっくりと目を開くと、足元に転がる壺に視線を落とすマーシュ神父。


「その後は苦しかったですよ。一晩ここで藻掻き、のたうち回りましたから。」


 口元には浮かぶ苦々(にがにが)しい笑みは、その時の事を思い出しているのだろう。


「ですが…。迎えた朝には苦しみから解放され、その時の高揚感は今までの人生で一番でした。」


 演劇なら、最高潮の見せ場と言った場面。


「そして、襲ってきた自分でも抑えられない衝動。」


 十分な間を取り、

「気が付いたら、街の人を殺していたほどです。」


 うつむき加減に反省し、

「ですが、日が経つに連れ自分で衝動を制御できるようになりました。」

 天を仰ぐ。


「自分が殺した人のお葬式で判りました。この死体が仲間になっていると…。」


「後は森に埋められた仲間を助け、更に仲間を増やそうとしていた所に、貴女が来たと言うわけですよ。」



「お解り頂けましたか?」

 話した喜びの笑顔が浮かぶ。


「解ったわ。どうして、ここの事を知ったのかが疑問だったの。」

 ため息。

「まさか、筆まめな関係者が居たなんてね…。驚きを超えて呆れちゃうわよね。」


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