第75話 質問


「私から質問、宜しいですかな?」

 マーシュ神父からは質問。


「乙女の秘密以外ならね。」

 戯ける白頭巾。


 どこまでが本気なのか、見詰めるレイモンド神父の疑問が募(つの)る。


「ユーモアのセンスまでお有りとは、これはこれは…。」

 笑顔が笑い顔へ。

「貴女はどうやって、ここを?」


「森に埋められた貴方の仲間の所に残されていた手掛かりが一つと…。」

 正直に答える。


「そんな物が有りましたか。」

 驚くマーシュ神父。


「埋もれてたからね…。」

 これも正直に答えた。


「見付からないわけですな。」


「後は、貴方が側に置くのが嫌になって、レイモンド神父に渡した、この教会に伝わる十字架が一つ。」


「まさか…。」

 今度の驚きは大きかった。

「あの十字架に、文字なんて無かったはずですが…。」


「だから、二つ必要だったのよ。二つ合わせると読めるようになる仕掛けがしてあったわ。」

 素焼きの板の事を思い出し、眉間に皺が寄った。

「読めると言っても私達だけが読める符丁だったけどね。」


「ほう、そんな符丁があるとは。是非、同族(なかま)になって頂きたいですな。」


「嫌よ。だって私、猫派だもの。」

 また、戯けた。



「でしたら、力尽(ちからず)くで…。」

 手の甲に筋が浮かび、指先に力が入る。

 マーシュ神父の纏う雰囲気が、変わり滲み出す気配が邪悪なものへ。


「待ちなさいよ。」

 白頭巾が、止めた。


「同族(なかま)になってくださるのですかな?」

 指先の力が抜けた。


「武器用意するわ。」


 浮かぶ困惑の表情。

「何故ですかな? そんな間を与える必要がありますかな?」


「話聞いてあげたじゃない。」

 続け、

「それに…。」


「それに?」

 無意識に繰り返していた。それは、何かの期待。この白い頭巾の少女への。


「一方的に相手を倒すよりも、ギリギリの命を削る戦いの方が心踊るのよ。」


 その言葉で、マーシュ神父の心が座喚(ざわめ)いた。

 今までに味わったことの無い感覚で、全身の鳥肌が立つ。


「戦いでは、貴女の方が先輩でしたな。」

 口元に浮かぶ笑いは、心の座喚きの現れ。


「そう言う事よ。」

 こちらの口元に浮かぶ笑いは、心の期待の現れ。



「神父さん。荷物を。」

 レイモンド神父に首だけ向け話しかけるが、体は油断していない。


「はい。」

 言われ、背中から大きな荷物を降ろす。


 白頭巾は、荷物を回り込む様にしながら、マーシュ神父が正面にくる位置に立った。



 その動きを、眺めながら、

「流石ですな…。」

 小声で褒める。



「神父さん。」

 こちらも小声で、

「柱の陰に隠れてて…。」

 間を置くと、目を見据え、

「隙きを見て、ペーターを助けに行ったりしないで。」


「えっ…。」

 完全に見透かされていた。


「それが狙いかもしれないしね。」


「解りました…。」

 言われなければ、自分は取り返しの付かない事をしていたのかもと。

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