第71話 処理


「余裕を噛ましている場合じゃないわね。」

 ゆっくりと近付いて来る子供達は目の前。


「やはり、殺すのですか…。」

 本音だろう。神父の口から出た言葉は。


「人狼ならね。」

 短剣を構えた方向は子供達。


「そうですね…。」

 諦めの感情が乗っていた。


「とは言え、人狼に変身してくれれば判別は付くけど…。」

 悩んでいた。

「これで刺してみようか…。」

 その言葉に答える様にギラつく短剣。


 間髪入れず、

「止めてください! 人狼じゃなくても、それで刺したら死んでしまいます。」

 神父は止めた。


「冗談よ。」

 笑う口元。

 しかし、神父が見た白頭巾の目は間違いなく本気だった。



「これにしとくか。」

 左手をポケットに突っ込み出したのは素焼きの玉。


「それは…。」

 神父は知っていた。と、言うよりも持っている。白頭巾から渡された銀粉の入った玉を。



「それ!」

 天井に向かって投げた。


 ぶつかる勢いで割れ弾け、中から銀粉を撒き散らす。

 それは松明の灯りの反射でさえ、妖しい月の光に変える。


 そして、それは子供達に降り注いだ。



 やはり、こう言う場合には人間とは、

『ゴクリ。』

 固唾を飲むと解った神父。知らず知らずの内に自分がそうしていたのだから。


 子供達を観察する四つの目は、結果を見守る。



「人狼じゃない…。」

 銀の霧の中を平気で歩く子供達を見た白頭巾が、思わず口に出していた。


「良かった…。」

 神父も結果に安堵する。



「さて、どうするかなぁ…。」

 構えた短剣を鞘に戻しながら、考えを巡らせる。

「ほっといて、歩き回られても困るしぃ…。」


 その言葉にギョッとする神父。

「あの…。」


 ゆっくりと振り向いた白頭巾の顔は悪戯っ子の微笑み。

「大丈夫。」

 何かを思い付いたようだ。


 バスケットを下ろすと、

「まだ残ってたはずだけど…。」

 中を漁り、

「ペーターは、いつも『使ったら片付けないと』って言うけど、役に立つ時もあるのよね。」

 愚痴のようだ。


「あった。」

 取り出したのは鶏の卵に大きさと色は近いが、形は丸い白い玉。



「神父さん、離れて。鼻と口を覆って。」

 慌て距離を取る神父を確認す。


 左手の袖で口を覆い、右手を振り被り、子供達の居る床へと白い玉を叩き付ける。


 白い玉が割れるのと同時に後ろへ跳んでいた白頭巾。



(何も入っていない?)

 割れた白い玉を見た神父の感想。


 だが、直ぐに間違っていたと判る。


 松明の灯りに照らされる子供達の像が歪む。

(何か入っていた?)

 白い玉の中身が気化しているのだと知るのは白頭巾のみ。



 割れた白い玉の一番近くに居る子供の膝が砕ける様に倒れた。

 それを合図に、次々と子供が倒れる。


 最後の子供が倒れるのを確認し、

「これで大丈夫。後で、市長さんに頼んで運んでもらいましょ。」



 神父に向き直り、

「次の分岐まで、鼻と口は覆ったまま、できるだけ息をしないで走るわよ。」

 一気に説明した。


「行くわよ!」

 駆け出す白頭巾を神父が追いかける。

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