第69話 待つ


 暫く、分岐路に振り回された。


「あれ?」

 分岐の先を見て、唐突に白頭巾が声を上げた。

「灯りだ。」

 松明の炎が揺らいでいた。


 釣られ、神父も灯りに視線を向けた。

「本当ですね。」


 床の符丁を確認し、

「あっちね…。」

 松明で揺らぐ灯りを指した。


「罠ですかね?」

 自然と口に出た神父。


「多分、そうね。赤ら様だもん。」

 そちらに歩き出し、

「特に気を付けてね。」


「はい。」

 答える神父は左手に力を込め松明を握り直した。



 止まったのは、壁の松明と闇が混じり合っていた境界。

 今は、二人の持つ松明が消している場所。


 振り向かず正面を見据えたまま、

「何か居る。」

 警告を発した白頭巾。


 その言葉に正面の暗闇に目を凝らす神父。


 白頭巾の言った何かを察知出来た神父。しかし、凝らした目では無く、耳に聞こえた音。

「足音ですかね…。」

 音に対する自分なりの答えを口に出した。


「そうみたいね。それも一つじゃないわ。」

 腰に手を回し、短剣の柄に手を掛け、警戒度を上げる。



 壁の松明を挟んだ通路の反対側の灯りと闇が混じる境界。

 そこに灯りが闇に色を付け人の形にする。


「子供?」

 神父は我が目を疑った。こんな所に居る筈もないものに。


 闇から現れた子供は、一人、二人…、数を増やす。


「どこかで…。」

 白頭巾が記憶を探る。


「あの子達は…。」

 神父は、子供達が誰なのか解っているようだが、言い難そうにしていた。


「教会に読み書きを教えてもらいに来ている子供達よね。」

 白頭巾が確かめた。


「はい…。」

 神父のその言葉は、否定していた疑いが、確信に変わった瞬間を意味した。

「あの朝、街で見た顔だわ。」



 こちらが、認識出来るのなら逆もしかり、

「白頭巾のお姉ちゃんだ。」

「レイモンド神父さんも居るよ。」

 口々にしながら笑い声を上げる子供達が、二人との距離を詰める。



「この子達も…。」

 最後までは言わなかった。否、言えなかった神父。


「どうだろう?」

 そう答えたのは白頭巾の優しさか?

 だが、白頭巾の抜き放った銀の短剣の意味が神父には解った。


 子供らしい笑顔に、灯る赤い目。その赤は人狼と同じ色。



 構える白頭巾。


 その背後で、これから起きるであろう事に身構える神父。

 

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