第68話 迷宮


 開かれた扉の向う側。


「こんなもの…。」

 呆れた白頭巾。


「えぇ…。」

 同意するのが精一杯の神父。


 白頭巾達の前に伸びるのは、石造りの少し広い通路。

 これを造るのにどれ程の労力を必要とするのかと。


 松明で壁、床を照らし、

「かなり、古そうだから…。これを知ってて教会を建てたみたいね。」


「はぁ…。」

 もう、同意なのかさえ怪しい。


「注意して進みましょう。」

 歩き出す白頭巾に神父が続く。




「あれ?」

 通路が少し先で三方向に分岐している。つまり、十字路。


「どっちかな?」

 白頭巾は松明で床を照らす。

「あった。」


 そこには、見慣れた符丁。


「こっちか…。」

 右側に進む白頭巾を追う神父。



 繰り返される分岐。十字路、丁字路。


 それは、まるで…


「なんだか、迷路みたいですね。」

 神父の口が、ボソリと吐き出す、本人の考えを意志とは無関係に。


「そうね…。」

 意味有り気な、白頭巾の同意。

「迷路と言うよりは、迷宮かもね。」


「あぁ。言われれば。」

 納得し、改めて通路を見回す。


「ねえ、神父さん。」

「何んでしょうか?」

 何かを感じたように少し身構えていた神父。


「神話の時代。まだ人と神様が一緒に住んでた時代のお話なんだけど…。」

「はぃ。」

 意図せず、返事の語尾が小声になっていた。

「ある島の地下に迷宮を造って、怪物を閉じ込めたそうよ。」

「そ、それって!」

 白頭巾が、ここを迷宮と言った意味が判った。


『ゴクッ!』

 固唾を飲む音が迷宮中に響いたと思える程に大きく感じた。


「そうかもね。」

 白頭巾の悪戯子の様な笑顔が松明の炎で揺らぎ、別のものに見えた。


 目を擦り、見えたものを訂正した神父。

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