第53話 反射


 先程から、ちらちらと気になる。


 白頭巾が短剣に反射させる月光が、女人狼の目に入る。

(小賢(こざか)しい。目眩(めくら)ましのつもりか!)


『コン。』

 響く音。

 それは、白頭巾の足下で生まれた、軽く前に振った右足と小石とが月夜に協演した小さく短い音楽。


 音の直後に女人狼へ飛んで来る何か!


 それを人狼の目は見逃さない。


 そして、『そんなものが当たるか。』の言わんばかりに、白頭巾を睨んだまま、ゆっくりと位置を変えた。


『コロコロ…。』

 音ではなく、転がったもののイメージが聞こえた。

(小石か? 何か、企んでいるな!)



 また、反射する月光が女人狼の目に入る。

 そして、

『コン。』

 こちらも同じ、小石。


 ここまでは同じだった。


 だが、白頭巾が蹴った右足で、地面を踏ん張り体重を前に。


 踏み込みの体制。



「シャァァァァァ!」

 小石をかわし、威嚇で白頭巾の踏み込みを止める。


「読まれたか…。」

 白頭巾から漏れる悔しそうな台詞は、女人狼の自尊心をくすぐる。


 右足を引きながら、体重を戻し左斜に構え直す白頭巾。


 今までの行動から、

(まさか小娘の残りの武器があの短剣だけか?)

 考えが浮かぶが、

(いや、まだ何か隠しているに違いない。)

 慎重になる。


(まただ。)

 白頭巾が、短剣で月光を反射させた。

(こいつは、私を攻めあぐねている?)

 ゆっくりと左に周り始める女人狼。

(仕掛けてみるか。)

 くすぐられた自尊心が後押しした。


 前に出した左足の親指の付け根を軸にし、後ろに引いた右足の位置をずらしながら、周る女人狼を常に正面に捉える白頭巾。




 ようやく、拳銃を拾い元隠れていた場所…、荷物のある場所へ戻る神父。

 教えられた手順を思い出す。


 そして、気が付く震える手に。

「落ち着け。」

 自分に言い聞かせるが、弾倉に上手く入らない。


「ふーっ。」

 深呼吸し、作業を続ける。

「落ち着け。」

 弾倉の穴にようやく弾丸の先がかかる。

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