第52話 狙い撃つ


「大人しくしててね。」

 子人狼に言うと、再びアノ短剣を引き抜いた。


「ガァァ!」

 女人狼の大きく開いた口は威嚇。


 それに合わせ様に、銃口を向ける白頭巾。


「グワッ!」

 また、威嚇! から、一瞬のため。

 そして、四つん這いの低い姿勢で自分の左に飛ぶために伸びる四本の脚。


 白頭巾からは右側。それを、追う銃口。


 一旦、動き出せば止められない、戻せないのは自然の決まり事。

 その伸びる四本の脚からの左の方向量を人狼という力でねじ伏せ、右に飛んだ。

 追う白頭巾も、自然の決まり事に逆らうが数瞬遅れる。


『パン!』

 女人狼が一瞬前に居た場所の地面に穴が開く。

 一瞬の遅れが、次の一瞬の遅れとなる。


「ちっ!」

(舌打ちは『はしたない。』とペーターに言われたっけ。)

 そんな事を今思い出す。


『パン!』

 また、地面に穴が開く。


 ジグザグに飛ぶ女人狼の動きは、大地を走る稲妻。

 確実に白頭巾に近付いている。



 集中。


 全身の五感、更には第六感まで総動員し狙うと同時に引き金を引く。


 そこは、何も居ない場所。正確には、今は何も居ない場所。

 その証拠に、次の瞬間には女人狼が居る。


 白頭巾は遅れた一瞬を飛び越え、先の一瞬へとたどり着いていた。


 放たれた弾丸は、女人狼の頭部の毛に当たり、その下の皮膚へと到達する。


 女人狼は体を捻(ひね)り、頭を捻る。

 肉に食い込む筈(はず)の弾丸は、捻りで行き先が変わり、顔の左側の皮膚を削り地面に穴を開けた。


 その結果、女人狼の足が止まった。


「避けたかぁ。」

 拳銃の撃つ構えを解き下ろす反動を利用して投げた。そして、右の短剣を左斜に構える。



 固唾を呑み戦いを見守っていた神父は、投げられ放物線を描くものを目で追う。

(あれは、拳銃。弾を込め直しだ。)

 自分の出番だと知った。


『キョロキョロ』

 音がしそうなぐらい、辺りを注意深く確認。

 そして、言われた通りにできるだけ身を低くし、ゆっくりと投げられた拳銃の元へ近付く。



(火を吹く筒を捨てた?)

 白頭巾の行動から推測をする。

(どうやら使える回数が決まっているようだ。)


 考える。

(チャンスか?)

 だが更に考え、出した答えは、

(いや、この小娘の事だ。まだ何か持っているに違いない。)

 冷静な判断を下した。

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