第35話 夕方

 夕方までかかり、大きな穴は何とか塞がった気がする状態にまではこぎつけた。


「これで何とか…。」

 見上げた天井は、やはり夜空に浮かぶ星座になっていた。指図、銃創(じゅうそう)座と言ったところ。


「やっぱり、大工さん呼ばないと無理ね。」

「最初から、呼べは…。」

 小さな声で抗議するペーター。

「まっ、雨降らなければ何とか大丈夫でしょ。」

 誤魔化したのは明らかだった。


「お腹空いた〜。」

 話題を切り替える白頭巾。


「作ります。」

「手伝うよ。」

 神父とペーターの二人が食事の支度を始める。


「私は、今までの事を記録するわ。」

 アノ本とペンを出し考えながら書き込んでいく。




 食事を終え一段落。


「ペーター。予備のナイフあったでしょ。」

「ちょっと待って。」

 大荷物へのところへ行き中を漁る。


「あったよ。」

 鞘に収まっているナイフを白頭巾に手渡した。


 受け取ると神父に向き、

「これを。」

 神父に差し出す。

「これは?」

「護身用です。何かあったら、これを使ってください。」


 ナイフを見つめ、

「申し訳ない。仮にも神に使える身、武器は手にできません。」

 右の掌で押し返す。

「私が守れる時ばかりじゃないからって思ったんだけど…。」

「ご心配ありがとう御座います。大丈夫です。私には、これがありますから。」

 神父は首に掛けていた十字架を持ち上げ、白頭巾に見せる。

「なるほど。神に使えるものの武器ですね。」

「武器と言う言い方には些(いささ)か引っかかりますが…。」


 白頭巾は何か気になったように、

「古いもののようですが…。ちょっと、よろしいですか?」

 十字架を首から外し、

「はい。どうぞ。」

 白頭巾に渡しす。


 一見し、

「古いですが、良く手入れされていますね。これを何処で?」

「これは、マーシュ神父様が私に使ってほしいと。何でも、代々この街の教会に伝わるものらしいです。正式に次の人が就任すればお渡しするつもりです。」

「マーシュ神父から…。この街の教会に伝わるもの…。」

 鈍く光る十字架の表を観察。

「へー。」

 裏返し、気が付く。

「模様が彫り込んである…。」

 それ長年の歳月で、多少擦り切れた。


 模様を見ながら十字架を上に、下に、右に、左に…、と色々な角度から眺め、耳の側で揺すり、次に指で弾いた。


 そして、考えた込む白頭巾。



「ありがとう。」

 十字架を神父に返した。

「十字架に何かあるのですか?」

 やはり、興味をそそられ白頭巾に聞いていた。

「そう思って調べたけど、普通の銀製の十字架みたいね。」

「そうですか。あの昔話と関係があるのかと思いました。」

「私も。」



 その後、明日の準備を始めた白頭巾とペーター。

「忘れ物ないようにね。」

「任せてよ。」

 手際良く用意するペーター。


「明日も忙しくなりそうね。」

 白頭巾が愚痴ぽく漏らした。



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