第4話 霧中


 神父の言葉を確認すると、受けたナイフで爪をいなし距離を取る。

「これで存分に戦える。」

 チラリとナイフを見て、

「けど、普通の武器では歩が悪いか…。」

 独り言だが愚痴るようにも聞こえる。


 この状況なら互いに様子を見るのだろうが、死体は遠慮なく白い頭巾の少女へ襲い掛かる。


「少しは遠慮して欲しいな、こっちは幼気(いたいけ)ない女の子だぞ。」

 そう言う、口元は当然笑っていた。



 木を背に立つ白い頭巾の少女。


 振り上げた右腕を遠慮なく振り下ろす死体。


 かわした白い頭巾の少女の代わりに太い木が斬り裂かれ倒れる。


 破壊と転倒が連続で音を上げた。


 死体に何故それ程の力と速度があるのか、見ている神父には全く想像がつかない。



 死体の攻撃をかい潜り、的確にナイフで反撃する白い頭巾の少女。


 白い頭巾の少女と死体の攻防戦が繰り返される。

 だが、よく見ると攻撃を当てているのは、白い頭巾の少女だけと判る。


 現実離れした、現実に呆然と見入いる神父。

(私は何を見ているんだろう…。これは、悪い夢か?)



「ご主人様〜。何処ですかぁ?」

 今の現状に似つかわしく無い、間延びした男の声。よく聞くと男ではなく、男の子の声だと判ったはずだ。


「こっちよ!」

 白い頭巾の少女は大声で自分の居場所を知らせる。


「こっちだと言われましても、こうも霧が濃くては…。」

 声は近付いて来ているようだが、まだ居場所は判っていないのは明らかだ。


「音のする方へ来て!」

 苛立ちが声からも判った。


 また、太い木が身代わりになり倒れた。


「はい、はい。判りました。」

 そんな言われ方に慣れているのか、焦りもしないで返す。



 突如、神父の横の霧が人の形をとった。

「ありゃ。ご主人様。もう始めちゃてますか。」

 その声は驚いているのか、呆れているのか判らなかった。


「あなたが、遅いから。」

 こちらも怒っているのか、呆れているのか判らない。


「そんな事言われても、こっちは大荷物持ってるんだし…。」

 その言葉の通りに、男の子は背中に大きな荷物を背負い、手にも大きなバスケットを持っていた。


 神父は、

(この人達は、この状況で…、まるで日常会話しているのか?)

 現実離れした状況を日常としている二人に恐怖すら覚えた。


「その事については、後で話しましょうか。」

「できれば、僕のお小遣いの事も。もう少し増やしてもらえると…。」

「あら、お小遣いを増やして貰える働きができる様になったのかしら?」

「ほら、今だって。」

 男の子はバスケットを下ろすと中を探り、

「こんな風に役だってますよ。」

 取り出した物を白い頭巾の少女に投げた。


 神父は自然と投げられた物を視線で追っていた。

(な、なんだ。アレは!?)


「そうねえ。遅れた分と相殺かな?」

 振り向きもせず、後ろ手に投げられた物を左手で掴む。それは、刃渡りが30cm有ろうかという鞘が付いたままの短剣。


「えー。」

 それは、男の子の抗議らしい。

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