§14 飛んで飛ばされ何処へ行く
アン先輩はにやりと笑う。
「貴殿のはこのまま帰宅出来る状態でいいのだな」
俺が教科書やノートを入れたバックを見てそんな事を言う。
「そうですけれど」
「了解、では申し訳無いがちょっとお手を拝借するのだ」
アン先輩が素早く俺の荷物袋を持ったと思うと、俺にふっと右手を伸ばす。
ぐいっと引っ張られた衝撃の後、俺の身体が宙に浮いた。
視界がめまぐるしく変化する。
「そんな訳でホクトは借りたのだ」
俺は今自分がどういう状況か理解した。
アン先輩の腕力で引っ張られて持ち上げられ、更に投げられた状態だ。
つまり宙を飛んでいる。
身体を動かそうにも空中なので何も出来ない。
ああああ、壁にぶつかる!
咄嗟に目を瞑ったが衝撃は来なかった。
壁寸前でまた別方向に引っ張られ、俺の身体が向きを変える。
そのまま廊下に出て、廊下を直進して研究棟へ。
その頃には俺は何が起きているか理解していた。
所々でアン先輩が俺を投げ飛ばし続けているのだ。
そのたびに妙な力が腰なり腕なりにかかる。
でもその割に無理な負担は無い。
うまく投げ飛ばしているという感じだ。
なお魔法は一切使っていない模様。
腕力のみでの操作らしい。
流石強靱種、見かけは小学四年生でも腕力は人外レベル。
そんな訳で問答無用のまま空中を飛ばされていって。
階段を登り、実験棟二階へ。
「はい着地」
すっと身体を立てられて下半身全体でブレーキが掛けられる。
何事も無かったかのように俺はぴたっと床に足をつけた。
でも平衡感覚は未だにパニック状態。
目眩がして前にあった机に手をついてしまう。
「無茶なことしますね」
そう言うのがやっとだ。
「レマノ姉なら魔法を使うのだろうが、私は腕力の方が得意なのだ」
その時だ。
「何やっているんですかアン先輩」
部屋の入口から声がした。
ラインマインの声だ。
見るとヘラもいる。
何故かヘラはラインマインに肩で支えられている状態だけれども。
「ほう、この速度で追っかけてこれるとは、汝も強靱種か。でも確かヘラは強靱種では無かったと思ったのだが」
「私が同じ方法でヘラを投げ飛ばしながら追ってきたの」
おいおい。
つまりラインマインも同じ事が出来る訳か。
「あの世との境を見たような気がします。まだ目眩がします」
ヘラがそんな事を言っている。
その気持ちは俺もよく理解できた。
未だに視界がふらついている。
「すまない。今のはある程度強靱種の血が流れている者なら誰でも使える技の一つなのだ。通称強制空中拉致監禁。必要な人間に強制的に一緒についてきて貰う楽しい技なのだ」
「そんな技はありません!これは本来複数の荷物を急いで運ぶ時の方法よ!」
「そういう気もしないでもないのだ」
アン先輩とラインマインのやりとりに頭痛がしてきた。
「頼む、何でもいいから本題入ってくれ」
「そうです。私も身体がもちません」
ヘラも俺と同意らしい。
いや、強靱種凄すぎる。
「そうだな、それではまず、これを見て貰うのだ」
アン先輩はそう言って、部屋の一角にある巨大な棚の戸を開けた。
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