6つのカフェの物語

フカイ

第1話 森のcafe

 最初にあの人といったカフェは、深い森のなかにあった。


 森を歩いている時には、いくつもの音に囲まれていた。


 木々のざわめき。鳥のさえずり声の交錯。獣たちの気配と、虫の羽音。一足ごとにさざめく落ち葉たちの乾いたり湿ったりした音。


 森のオゾンが気持ちいいと深呼吸するあの人の気持ちなど、さっぱりわからなかった。


 すこし怖かったのだと思う。


 それを気取られたくなかったから、あの人のシャツの裾をそっとつまんで歩いた。


 手など、まだにぎられないから。





 そして小さなカフェに着いた。


 丸太を組んで作られた山小屋のような可愛らしいお店。


 中に入ると、先ほどまでの生々しい森が、大きなガラス窓の向うにおしやられていた。


 ちょっとおおきなテレビでも見ているような感覚は、わたしを安心させる。


 エア・コンディションされた清潔な空気の中で、わたしたちはお茶を飲んだ。


「森はこうして、安全圏から眺めるにかぎるね」と、


 わたしはスンスンした心もちで、得意げにあの人に言ったものだった。





 こんな森の奥のカフェが、港区南青山の美術館の庭のなかにあることは、案外知られていない。

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