第5話

「峻ちゃんこっちでは久し振りー。アイドルは放っておいていいの?」

 学校では「今日はイベントだから課金してガチャぶん回す!!!!!」と張り切っていたはずだった。

「ちがうよー、いもうとのユーナだよー!」

 いきなり聞き慣れない高い声が聴こえてきて、俺は驚いてコントローラーを落としてしまった。

「へ? どゆこと??」

 どうもこうもない、妹が兄のアカウントを勝手に使ってゲームをしているのだった。


 まだ小学五年生だという彼女は、それはもうメチャクチャだった。

 俺達のアドバイスはガン無視で、敵に突っ込んでいってはすぐに倒される。

 挙句の果てには「つまんなーい、はやくしんでよーーー!!」と騒ぐので、調子が狂って散々な結果になってしまった。

 俺は怒鳴りつけたい衝動を必死に抑えた。相手は子どもな上に、友達の妹だ。

 しばらくは我慢して一緒にプレイしていたが、さすがに限界があった。

「ごめん、ちょっと他から呼ばれたんで、そっち行く」

 俺は適当な嘘をでっち上げると、あらん限りの罵詈雑言を浴びせてくるユーナを無視してチームから抜けた。レイには後で謝り倒すしかない。


 俺はこの日初めて、所謂野良と呼ばれる知らない人同士で組んだチームでプレイした。

 中にはレイより上手いプレイヤーもいたが、俺はレイとの連携に慣れ過ぎていて、即席では上手く立ち回ることが出来なかった。

 思えば、俺がログインする時は必ず先にレイがいて、俺が落ちるまで付き合ってくれていた。

 俺はゲームをしながら、レイならここで的確なショットを決めてくれるのにな、等と考えていた。


 ソロプレイする気にもなれなくて、俺はレイがデュオ解消して待機場所に戻ってくるのを待った。

 たっぷり三時間も待っただろうか。ようやく、俺の作っておいたチームにレイが参加してきた。

「あの子、もう寝たよ」

 小学生の就寝時間にしては十分遅いと思うのだが、ともかくいなくなったのならそれで良い。

「参ったよ、とにかく死なせないように護衛役に徹してたけど」

 レイは冗談ぽく言ったが、さすがに声は疲れている感じだった。

「大体さ、小学生は対象年齢じゃないんだよこのゲーム。明日、峻ちゃんに文句言っとくから」

 俺があまりにも憤慨しているのがおかしいと言って、レイは笑った。

「それにしても、良くあんな子どもの相手していられるよなぁ。尊敬するよ、マジで」

 これは心からの言葉だった。俺には絶対に真似できない芸当だ。


「でも、最後の方は割と良い動きしてたよ」

 レイがユーナを褒めた。なんか腹立つ。

「そりゃ、最初があれだけヘタクソだったら、五時間もやってりゃ少しはマシになるだろうよ」

 俺は相手が小学生女児だという事も忘れて悪口を言いまくった。

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